聖女の行進

行枝ローザ

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罰の倍倍積み重ね

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ジワリと痕は焼き付き、特に額の真ん中に押しつけられた親指の痕がハッキリと浮かび上がる。
「まったく……これしきのこと、耐え切れないとは神官とはどんな修行をなさっているの?」
「あはは~。大聖女はもちろん、他の聖女たちが受ける試練なんて、常人が耐えられたら、それこそ『聖人』だよ!耐えられないからこそ、あなたたち可憐な女の子に大役をお願いするぐらい、神官はこうべを垂れ続けなければならないのだよ。それを弁えていないこの男は、きっと自分の方が偉いと勘違いしてるんだろうねぇ」
ロメリアが見下ろす先で白目を剥いている元・大神官を口元を歪めるだけの笑みを浮かべて見ていたイエーミア神は、慈愛のこもった目でロメリアに本当の笑みを向けた。
「幻覚とはいえ、地獄の炎で焼かれ、押し寄せる濁流に飲み込まれ、大木をも吹き飛ばす大風に耐えて、亡者の泣き声を聞き続ける……そんな彼らを慰める微笑みを浮かべて肉の溶けた手を取り、最後の言葉を僕に伝える。君たち聖痕を与えられた者たちの辛さを、ちゃんと僕は知っている」
「ええ、知ってますわ……私たちも知っています。だから、耐えられるのですわ」
「そうだね……耐えて、耐えて、でも真実を見れない男に嫁がされるのは、実は腹が立つ。ねえ……この男に、肩代わりさせてもいいかな?」
「肩代わり?」
「実はねぇ~。自分の命を絶ってしまった者たちって、ほとんどがまだ寿命が残っているんだよ。その時間が過ぎないと、次の生の流れに戻してあげられない。罪を償って、それからやっと残った生の時間を無為に過ごして……ねえ、ちょっとつまらないと思わない?」
何かいたずらを思いついたような顔で、イエーミア神はロメリアに笑いかける。
「だからさぁ……あの子たちの残った時間、この男への罰の時間に上乗せしちゃってもいいかな?って」
「いいんじゃないんですか?むしろ、その十倍の時間を重ねても誰も文句を言うとは思いませんが?」
「……言わせると思うの?僕が」
「あら、時間切れ」
ロメリアがそう言うのと同時に、スゥ…とイエーミア神の姿が薄く消えていく。
「……というわけで、お兄様。おそらく今の全ても副大神官様が持ってらっしゃるその水晶玉に記録されているかと思います。再び顕現させるのにアディーベルトを中心として、副大神官以下十名ほどの祈りを捧げれば、ふたたび先ほどの動く画を見せてくれるはずですわ。私は大神殿におりますから、この…えぇと、ガなんとかという男の裁きは国王様以下にお任せしますと伝えてくださいませね?」
「ああ……」
とてつもなく疲れた表情をしながらルツルカは頷き、アディーベルトのことはホムラに任せて廊下に出ると、神殿近衛兵を呼ぶための笛を力強く吹き鳴らした。

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