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時には王子様の方に語りかけたい

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為政者と宗教的権力者が相容れることは珍しい。
ダーウィネット属王国ではその珍しい部類に入るが、ダーウィン大王国を含めた八つの属王国は王宮と大神殿が同じ敷地内にあることは珍しくなかった。
だが過去に何らかの理由があるのか、母体となるダーウィン大王国でも王宮敷地内の離宮のような位置づけで建立しており、もっと閉鎖的に王族以外は立ち入りができない。

それはまるで結界のように────


『というのが、あなたたちダーウィネット・ダーウィン属王家の王宮とイエーミア教中央大神殿が隣接し、そこに大聖女が住まう理由のひとつよ』
「『というのが』……って……何を言って……?」
『うふっ。あなたはやっぱり霊的に弱いのね?リアが依り代となってくれなければ、わたくしたちと話すことも叶わない……もっともそれは兄王子も同じだけれど』
「『うふっ』?おま…い、いや……あんた……あなた…は……?」
最初は身体を丸めたままロメリアの語りを聞いていたヴィヴィニーアはやがて体を起こして訝し気に見つめていたが、ようやく彼女が足を組んでその膝の上で頬杖をついて微笑むのを見て、ようやくその正体を疑い出した。
『ふふっ……わたくしはこのダーウィネット属王国の南から西を統べるガトゥの眷属がひとり、宵娘のシェナよ。リアのことは王宮北側の草原地にいるシア…女神シアスターってちゃんと言った方がいいのかしら?面倒ね?あなたたち人間は……』
「め、面倒って………」
『あなた退屈そうだったのだもの。リアに代わって、暇潰しにお話ししてあげようと思って。あの王宮はあなたたち王家の人間のためにある結界だけども、あなたたちを害そうとする人間の悪意すらも閉じ込めてしまうもの。だから大聖女がいるの』
「え………」
『まさかその大聖女自身を望むような子がいるとは思わなかったけどねぇ~』
「あっ、あのっ……いえっ……それはっ、そのっ……」
ロメリアの顔で艶めかしく微笑まれ思わずドキッとしたが、やはり違和感に本当のロメリアに感じるような愛おしさは浮いてこない。
『面白いわぁ、あなた。ちゃんとわたくしとリアの『違い』がわかるのね?本当に楽しいわぁ。なら、ちゃぁんと守るのよ?宵娘はこの地に縛られないからこうやってリアを守ることができるけど、信仰力の強さはそのままわたくしたちの力の差となるわ。だからあなたはあなたの聖獣と共に……』
「守る……」
『うふっ。難しい話はここまで……もうすぐリアに身体を返さなければならないのだから、あなたが知りたいことを話してあげましょうか?あなたたちの目的であるガウシェーン大公国の気候と自然的治水地形なんてどうかしら?』
「えっ?!ごっ、ご存じなのですか?!というか、そんな人間的な……」
『まぁ失礼な子。治水はその地に生きるあらゆる生物にとって大切なものよ?人間のように大規模に地形を変えたり勝手に山を削ったり川の形を変えたりしないだけで、どの時期にどういう植物が育ってどういう生き物が増えて…雨が彼らの住処にどういう影響を与えるか知って移動するとか』
「なるほど」
思いがけない『ロメリアの守護霊』として付いてきたらしいシェナという女神か精霊らしき存在の言葉に、ヴィヴィニーアはウキウキと表情を明るくさせる。
双子を身に宿したホムラも、意識を宵娘に渡したロメリアの手で優しく撫でられているデュークも、先ほどのヴィヴィニーア第二王子のようにウトウトと静かに眠りについていた。


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