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轟絶のうどん
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ひょっこりと現れた姿を現した福田先輩は逃げるように学校を去って行った。俺と祐希さらに野田の三人を福田先輩馴染みの店『ミカサ食堂』へと連れて行ってくれた。
小綺麗な和食店で、店内からほのかに鰹節と昆布のダシの香りが漂ってくる。久しぶりに美味い飯にありつけるぞ!
店内に入ると赤いメガネにポニーテール、橙色の厨房服に白いエプロンを巻いた女性店員が接客してくれた。
どことなく呼詠さんに雰囲気が似ている女性であったが気のせいだろうか?
「いらっしゃいませ!話は聞いているわよ。さあ中に入って……」
そのまま奥へと案内してくれた。そこには畳の香りがする座敷席があり、テーブルが六つほど並べられている。かなりの人数が座れそうだ。
福田先輩はいつも座っている指定席があるようで、そこにどっしりと座りくつろぎいでいた。その横に祐希が座り、俺と野田が向かい合うように座った。
さっきの女性店員が、おしぼりと暖かいお茶を持ってきてくれた。
「ゆっくりしていってね」
「おぉ、すまんなぁ……」
福田先輩は出されたおしぼりで顔を吹き、お茶をすすりながらあたかも自分のうちのようにくつろいでいるかのようにテレビを見ている。
――いや!あんたじゃねぇよ。
と心の中でつぶやきツッコミを入れる自分がいた。
「ありがとうございます」
俺は優しい笑顔で話しかけてくれた女性店員さんに、軽く会釈をして笑顔を返しておいた。
「まぁ、汚い店だが、自分のうちだと思ってくつろいでくれ……!」
――あんたがいうことじゃないだろう!
俺は、苦笑いをこぼしながら出されたお茶をすすっていると…………ゴン!という鈍い音が聞こえてきた。
見上げてみると、さっき案内してくれた女性店員さんが、怪訝そうな顔をして、持っていたお盆で福田先輩の頭を殴っていたのである。
「痛い……と、でも言うと思ったか?」
――おいおいマジかよ……慌てる俺を他所に、平然としている祐希と野田君は、のんびりとお茶をすすり会話を楽しんでいる。
「どこが汚い店なのよ。ちゃんと綺麗に掃除してあるしてあるでしょうが……」
殴られた福田先輩も満更ではない様子で、頭を撫でながら、苦笑いをこぼしている。あれ?怒らないのか?
「あぁ、紹介がまだだったなぁ!こいつは俺の幼なじみというか、腐れ縁の伊藤 華蓮《いとう かれん》だ。ひいきにしてやってくれ……で、こいつがさっき話た転校生の五條 陸だ。」
「五條君よろしくね。わたしは伊藤 華蓮、同じ中学で3年生よ」
俺達には丁寧に挨拶をしてくれるその女性は、このミカサ食堂の一人娘で、ご両親がこの店の経営をしているようだ。
「2年A組の五條 陸です。こちらこそ、よろしくお願いします。」
俺は微笑みながら、粗相がないように丁寧に挨拶を返した。
彼女はにっこり微笑むとお盆を手板代わりにして注文を受けてくれた。
「ご注文はなににしましょうか?」
優しく俺に話しかけてきてくれた。俺はテーブルに置かれていたメニュー表を眺めた。
定食ものから始まり、丼もの、麺類に一品料理までも……いろいろあるなぁ!う~んそうだなぁ、どれにするか迷ってしまうなぁ。
「きつねうどんを四つ頼む!大盛りでなぁ!」
――おいおい勝手に決めんなよ!でもまぁ、おごりだからなぁ、中学生のお財布事情もあるのだろう。
「今日のは、ツケ効かないからね……」
福田先輩はお金がない時、よくツケで飲み食いさせてもらっているらしい。
「それはないぜぇ~華蓮ちゃん、いや華蓮様、お代官さまぁ~」
「誰がお代官さまじゃ!」
ボン……まただ!イラッときた華蓮先輩はお盆の角で福田を殴った。だが横に置いてあった座布団を被り、それを防ぎニヤりと笑った。
「大丈夫ですか?」
見ているこっちがハラハラするぜ……まったくよぉ!
「気にするな、厚みで防ぐ!」
「なにわけのわかんないこと言ってんのよ」
それが華連先輩の気に触ったのかギロりと睨みつけ、顔面をお盆でバゴンとぶっ叩いた。かなりいい音がしていた。
福田先輩の顔が腫れて真っ赤にしたまま、しゃァないなぁ……とお財布の中を覗いてみた。すると今度は急に顔の色が青ざめてゆく。
はぁ~と深いため息をつき、残っていたお茶を一気に飲み干した。空いた湯のみ茶碗を華蓮先輩に突き出した。
「お茶、おかわり……」
「………………」
すると福田先輩の前にドンと急須が置かれ、あとは自分で注ぎなさいと言わんばかりに去って行った。悲しそうな目をして、しぶしぶ自分で湯呑みに注ぎ始めた。
――この二人仲がいいのか?悪いのか?まるでテレビの夫婦漫才でも見せられていている気分だった。
祐希に聞いてみるといつもあんな感じ、だから放っておけばいいらしい。
「そういえば、野田の紹介がまだだったね……さっきの決闘試合で実況してくれた。1年A組の野田 新平君、同じ剣道部なんだ。仲良くしてあげてね…」
そう言って、祐希が野田君を紹介してくれた。
「俺は2年A組の五條 陸です。こちらこそよろしく……」
ドン!
福田先輩が湯のみ茶碗の音を立ててテーブルに打ち付けた。
「野田!実況で叫んでいた、あの必殺技ってぇのはなんだ……」
なんだか福田先輩の顔つきが、やばい感じに曇って来ている。
「えっ……なんか不味かったですか?」
野田君は助け舟を求めて祐希の方を見た。しかし祐希は眉を潜め、困った顔をして左右に首を振るだけであった。
「あのネーミングは……ないわ!」
福田先輩は悲しそうな表情をしながらも、その裏ではかなりの怒りに満ち溢れていた。
「確かに……アレはないね」
困り果てた野田君は今度は、俺に助け舟を求めてきた。
「俺はいいと思ったけどなぁ……ダメですか?」
「アレはないわぁ……」
福田先輩と祐希、二人揃ってダメだしモードに入っている。俺はそんなに悪くはないと思ってはいたのだが、なにがそんなに気にいらなかったのだろうか?
かなり落ち込んだ顔で下を向いてしまった野田君を、かばってやらねばと思った。
「極武闘面《きわみぶどうめん》だろう?かっこいいじゃないですか!」
「いや!ダメだ。アレはないわぁ……それと誰がゴリラだ?あん……」
――いや、それはあんただよ……
福田先輩がギョロりと野田君を見る目は、確かにゴリラであった。野田君は怯えながら、再び祐希に助けを求める視線を送った。
「福田先輩、お茶が空になってますよ……注いでおきますね」
それを察知した祐希は、福田先輩の空いた湯のみ茶碗にお茶を注ぎ始めた。
「上村、すまんな、おまえはよく気が利くな」
「いえいえ、そんなことはありませんよ……」
それはあたかも営業マンが宴会の席で、得意先の専務を接待しているかのようであった……
やるなァ!祐希、お前はいい営業マンになるぞ……
あとでこっそりと聞いた話なのだが、福田先輩のことを俺が『学ランゴリラ』だと話たことを喋ったらしく、それをネタとして使用されたようであった。余計ことを吹き込みやがって……
「とにかくだ!野田、おまえは明日からみっちりとシゴいてやるから覚悟しておけよ……」
福田先輩がニタリと笑う『轟絶カップ麺登場…………轟アンド絶!』その時、俺は知ってしまった!
「ああっ!」
俺は思わず大声で叫んでしまった。ようやくわかってしまった。まさかニタリと笑ったあのキャラが福田先輩であったことを……轟絶カップ麺とコラボしていたことを……知ってしまった。
「どうした五條?いきなり大声なんか出しおってからに……」
福田先輩は困った顔で俺を見ていた。
「すみません。つい……」
なるほど……と言うことは極武闘面《きわみぶどうめん》は極太麺のアレンジなのか…………
――野田君には悪いが、やっぱアレは……ないわ!
俺は心の中で、そう叫んで謝っていた。
そのあとの話題は俺のことへと変わって行った。
「五條!おまえはどこのクラブに入るんだ?宛はあるのか?」
この学校は、どこかの体育系クラブに所属する決まりになっており、必ずどこかに入らなければならないらしい。
横に座っている祐希がグイグイ体を押し寄せて聞いて来る。
――だから近いよ……近すぎるだろう!
「もちろん、剣道部だよね……ね!」
そんなものは最初から決まっている……俺はグッジョブサインを決めながらはっきりと言い切った。
「当然、剣道部に入りますよ!」
「やったぁ……」
祐希が両手を上げて喜んだ。福田先輩も、うんうんとうなずいていた。これで我が部は安泰だ!とどこからともなく入部届けを持ち出してきた。
――こいつ、どこから持っていたんだ!
その後、剣道部員は俺を入れて十五名、顧問の先生は丘石先生であった。まぁ、あの貫禄なら道着をつけ、竹刀を肩に置く姿が目に浮かぶが……
次の日、入部届けは福田先輩が丘石先生に提出しておいてくれた事は、言うまでもなかった……
「なんか盛り上がてるわね。はい大盛りきつねうどん四丁、お待ちどうさま……私も剣道部なのよ。一緒に頑張りましょう」
そこへ華連先輩が出来たてホヤホヤのきつねうどんを運んでやってきて、福田先輩の横に座った。「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
俺は美味しそうな香りのする、そのうどんを覗き込み、怪訝そうな表情を浮かべた。置かれていた割り箸を割り、浮かんでいたお揚げを持ち上げて驚いた。
汁が透き通り、お椀の底がくっきりと見えている。その中をきれいなうどんが自由に泳いでいるのだ。これ、大丈夫なのか……味、薄くないのか?
「どうしたの?なんか変なものでも入ってた?」
華連先輩が俺の顔を覗き込み、心配そうな顔をしていた。華蓮先輩も顔が近いですって……
「うどんのお汁が……」
「お汁……?」
「色が付いてないんですよ……このうどん!」
福田先輩と祐希もうどんの汁の色と言われ、眉を潜めて覗き込んでいた。
「おまえ……うどんの汁が透けているのは当たり前だろうが……なにを言っているんだ?」
なにをそんなに当たり前のことを言っているんだという顔で俺を見て大笑いしていた。
俺は根っからの関東産まれの関東人、うどんの汁は黒いのが当たり前なんだよと思っていた。
しかしそれが関西人には理解出来なかったらしい。
俺達は大盛りうどん一杯だけで、店が閉店を迎える夜中までバカ話を続け、その日を終えた。
なんだか福田先輩との距離が縮まったような気がしていた。
いや、縮めたいのは、呼詠さんとの距離なんですけどねぇ………………
小綺麗な和食店で、店内からほのかに鰹節と昆布のダシの香りが漂ってくる。久しぶりに美味い飯にありつけるぞ!
店内に入ると赤いメガネにポニーテール、橙色の厨房服に白いエプロンを巻いた女性店員が接客してくれた。
どことなく呼詠さんに雰囲気が似ている女性であったが気のせいだろうか?
「いらっしゃいませ!話は聞いているわよ。さあ中に入って……」
そのまま奥へと案内してくれた。そこには畳の香りがする座敷席があり、テーブルが六つほど並べられている。かなりの人数が座れそうだ。
福田先輩はいつも座っている指定席があるようで、そこにどっしりと座りくつろぎいでいた。その横に祐希が座り、俺と野田が向かい合うように座った。
さっきの女性店員が、おしぼりと暖かいお茶を持ってきてくれた。
「ゆっくりしていってね」
「おぉ、すまんなぁ……」
福田先輩は出されたおしぼりで顔を吹き、お茶をすすりながらあたかも自分のうちのようにくつろいでいるかのようにテレビを見ている。
――いや!あんたじゃねぇよ。
と心の中でつぶやきツッコミを入れる自分がいた。
「ありがとうございます」
俺は優しい笑顔で話しかけてくれた女性店員さんに、軽く会釈をして笑顔を返しておいた。
「まぁ、汚い店だが、自分のうちだと思ってくつろいでくれ……!」
――あんたがいうことじゃないだろう!
俺は、苦笑いをこぼしながら出されたお茶をすすっていると…………ゴン!という鈍い音が聞こえてきた。
見上げてみると、さっき案内してくれた女性店員さんが、怪訝そうな顔をして、持っていたお盆で福田先輩の頭を殴っていたのである。
「痛い……と、でも言うと思ったか?」
――おいおいマジかよ……慌てる俺を他所に、平然としている祐希と野田君は、のんびりとお茶をすすり会話を楽しんでいる。
「どこが汚い店なのよ。ちゃんと綺麗に掃除してあるしてあるでしょうが……」
殴られた福田先輩も満更ではない様子で、頭を撫でながら、苦笑いをこぼしている。あれ?怒らないのか?
「あぁ、紹介がまだだったなぁ!こいつは俺の幼なじみというか、腐れ縁の伊藤 華蓮《いとう かれん》だ。ひいきにしてやってくれ……で、こいつがさっき話た転校生の五條 陸だ。」
「五條君よろしくね。わたしは伊藤 華蓮、同じ中学で3年生よ」
俺達には丁寧に挨拶をしてくれるその女性は、このミカサ食堂の一人娘で、ご両親がこの店の経営をしているようだ。
「2年A組の五條 陸です。こちらこそ、よろしくお願いします。」
俺は微笑みながら、粗相がないように丁寧に挨拶を返した。
彼女はにっこり微笑むとお盆を手板代わりにして注文を受けてくれた。
「ご注文はなににしましょうか?」
優しく俺に話しかけてきてくれた。俺はテーブルに置かれていたメニュー表を眺めた。
定食ものから始まり、丼もの、麺類に一品料理までも……いろいろあるなぁ!う~んそうだなぁ、どれにするか迷ってしまうなぁ。
「きつねうどんを四つ頼む!大盛りでなぁ!」
――おいおい勝手に決めんなよ!でもまぁ、おごりだからなぁ、中学生のお財布事情もあるのだろう。
「今日のは、ツケ効かないからね……」
福田先輩はお金がない時、よくツケで飲み食いさせてもらっているらしい。
「それはないぜぇ~華蓮ちゃん、いや華蓮様、お代官さまぁ~」
「誰がお代官さまじゃ!」
ボン……まただ!イラッときた華蓮先輩はお盆の角で福田を殴った。だが横に置いてあった座布団を被り、それを防ぎニヤりと笑った。
「大丈夫ですか?」
見ているこっちがハラハラするぜ……まったくよぉ!
「気にするな、厚みで防ぐ!」
「なにわけのわかんないこと言ってんのよ」
それが華連先輩の気に触ったのかギロりと睨みつけ、顔面をお盆でバゴンとぶっ叩いた。かなりいい音がしていた。
福田先輩の顔が腫れて真っ赤にしたまま、しゃァないなぁ……とお財布の中を覗いてみた。すると今度は急に顔の色が青ざめてゆく。
はぁ~と深いため息をつき、残っていたお茶を一気に飲み干した。空いた湯のみ茶碗を華蓮先輩に突き出した。
「お茶、おかわり……」
「………………」
すると福田先輩の前にドンと急須が置かれ、あとは自分で注ぎなさいと言わんばかりに去って行った。悲しそうな目をして、しぶしぶ自分で湯呑みに注ぎ始めた。
――この二人仲がいいのか?悪いのか?まるでテレビの夫婦漫才でも見せられていている気分だった。
祐希に聞いてみるといつもあんな感じ、だから放っておけばいいらしい。
「そういえば、野田の紹介がまだだったね……さっきの決闘試合で実況してくれた。1年A組の野田 新平君、同じ剣道部なんだ。仲良くしてあげてね…」
そう言って、祐希が野田君を紹介してくれた。
「俺は2年A組の五條 陸です。こちらこそよろしく……」
ドン!
福田先輩が湯のみ茶碗の音を立ててテーブルに打ち付けた。
「野田!実況で叫んでいた、あの必殺技ってぇのはなんだ……」
なんだか福田先輩の顔つきが、やばい感じに曇って来ている。
「えっ……なんか不味かったですか?」
野田君は助け舟を求めて祐希の方を見た。しかし祐希は眉を潜め、困った顔をして左右に首を振るだけであった。
「あのネーミングは……ないわ!」
福田先輩は悲しそうな表情をしながらも、その裏ではかなりの怒りに満ち溢れていた。
「確かに……アレはないね」
困り果てた野田君は今度は、俺に助け舟を求めてきた。
「俺はいいと思ったけどなぁ……ダメですか?」
「アレはないわぁ……」
福田先輩と祐希、二人揃ってダメだしモードに入っている。俺はそんなに悪くはないと思ってはいたのだが、なにがそんなに気にいらなかったのだろうか?
かなり落ち込んだ顔で下を向いてしまった野田君を、かばってやらねばと思った。
「極武闘面《きわみぶどうめん》だろう?かっこいいじゃないですか!」
「いや!ダメだ。アレはないわぁ……それと誰がゴリラだ?あん……」
――いや、それはあんただよ……
福田先輩がギョロりと野田君を見る目は、確かにゴリラであった。野田君は怯えながら、再び祐希に助けを求める視線を送った。
「福田先輩、お茶が空になってますよ……注いでおきますね」
それを察知した祐希は、福田先輩の空いた湯のみ茶碗にお茶を注ぎ始めた。
「上村、すまんな、おまえはよく気が利くな」
「いえいえ、そんなことはありませんよ……」
それはあたかも営業マンが宴会の席で、得意先の専務を接待しているかのようであった……
やるなァ!祐希、お前はいい営業マンになるぞ……
あとでこっそりと聞いた話なのだが、福田先輩のことを俺が『学ランゴリラ』だと話たことを喋ったらしく、それをネタとして使用されたようであった。余計ことを吹き込みやがって……
「とにかくだ!野田、おまえは明日からみっちりとシゴいてやるから覚悟しておけよ……」
福田先輩がニタリと笑う『轟絶カップ麺登場…………轟アンド絶!』その時、俺は知ってしまった!
「ああっ!」
俺は思わず大声で叫んでしまった。ようやくわかってしまった。まさかニタリと笑ったあのキャラが福田先輩であったことを……轟絶カップ麺とコラボしていたことを……知ってしまった。
「どうした五條?いきなり大声なんか出しおってからに……」
福田先輩は困った顔で俺を見ていた。
「すみません。つい……」
なるほど……と言うことは極武闘面《きわみぶどうめん》は極太麺のアレンジなのか…………
――野田君には悪いが、やっぱアレは……ないわ!
俺は心の中で、そう叫んで謝っていた。
そのあとの話題は俺のことへと変わって行った。
「五條!おまえはどこのクラブに入るんだ?宛はあるのか?」
この学校は、どこかの体育系クラブに所属する決まりになっており、必ずどこかに入らなければならないらしい。
横に座っている祐希がグイグイ体を押し寄せて聞いて来る。
――だから近いよ……近すぎるだろう!
「もちろん、剣道部だよね……ね!」
そんなものは最初から決まっている……俺はグッジョブサインを決めながらはっきりと言い切った。
「当然、剣道部に入りますよ!」
「やったぁ……」
祐希が両手を上げて喜んだ。福田先輩も、うんうんとうなずいていた。これで我が部は安泰だ!とどこからともなく入部届けを持ち出してきた。
――こいつ、どこから持っていたんだ!
その後、剣道部員は俺を入れて十五名、顧問の先生は丘石先生であった。まぁ、あの貫禄なら道着をつけ、竹刀を肩に置く姿が目に浮かぶが……
次の日、入部届けは福田先輩が丘石先生に提出しておいてくれた事は、言うまでもなかった……
「なんか盛り上がてるわね。はい大盛りきつねうどん四丁、お待ちどうさま……私も剣道部なのよ。一緒に頑張りましょう」
そこへ華連先輩が出来たてホヤホヤのきつねうどんを運んでやってきて、福田先輩の横に座った。「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
俺は美味しそうな香りのする、そのうどんを覗き込み、怪訝そうな表情を浮かべた。置かれていた割り箸を割り、浮かんでいたお揚げを持ち上げて驚いた。
汁が透き通り、お椀の底がくっきりと見えている。その中をきれいなうどんが自由に泳いでいるのだ。これ、大丈夫なのか……味、薄くないのか?
「どうしたの?なんか変なものでも入ってた?」
華連先輩が俺の顔を覗き込み、心配そうな顔をしていた。華蓮先輩も顔が近いですって……
「うどんのお汁が……」
「お汁……?」
「色が付いてないんですよ……このうどん!」
福田先輩と祐希もうどんの汁の色と言われ、眉を潜めて覗き込んでいた。
「おまえ……うどんの汁が透けているのは当たり前だろうが……なにを言っているんだ?」
なにをそんなに当たり前のことを言っているんだという顔で俺を見て大笑いしていた。
俺は根っからの関東産まれの関東人、うどんの汁は黒いのが当たり前なんだよと思っていた。
しかしそれが関西人には理解出来なかったらしい。
俺達は大盛りうどん一杯だけで、店が閉店を迎える夜中までバカ話を続け、その日を終えた。
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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