TSUNAMIの龍〘 厨二病のこの俺が津波の龍から町を救う夢をみる〙

三毛猫69

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プレゼント大作戦(後編)

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「どう、あの二人?ちゃんとやってる」
 藤咲さんが、二人の応援組がいる場所へと合流してやってきた。
 
「うーん、それが二人とも固まっちゃって動こうとしないんだよね」
 祐希と桜井さんは眉をひそめ不安そうな顔で俺たちを眺めていた。
「えっ、マジかぁ!」
 
 そぉっと、俺達の姿を伺う藤咲さん、硬直したままなんの進展もなく、ただ向かい会ったまま、そこにたたずむだけの状況に目が点になっていた。
「なにこれ……お見合いか?」
「だよね……僕が行って話を繋げてこようか?」

 祐希が俺達のところへ向かおうとした時、状況が変わった。
「あっ、動き出したよ……」


「話はそれだけ、だよね……沙苗ちゃん待たせてるから、先行くね」
「待って……まだ話があるんだ……」
 
 立ち去ろうとする呼詠さんの手を、反射的に握ってしまったことで顔を真っ赤にして動揺していた。

――まずい……呼詠さんの手を握ってしまった。どうする?なにか言わなきゃ……早く渡さなきゃ……

 真っ白になった頭の中を、風花の声が走馬灯のように駆け抜けてゆく。風花のせいにするわけではなかったのだが、結婚を意識し過ぎるあまり、俺は飛んでもないミスを犯してしまった。
 
『このままじゃ婚期逃すわよ……これ読んで参考にしない……向こうにも選ぶ権利はあるものね…』
――うるせぇ……見てろよ。これが俺の生きる道、バイブス燃やすぜ!

 呼詠さんの握った手を引き寄せ、手渡すプレゼントを差し出した。そして膝まづき、こう言い放った。
 
「俺と結婚して欲しい……」
 
「「はぁ……」」
 建物の影から三名の唖然とした声が聞こえてきそうだ。桜井さんはなぜか祐希の頭をバシッと叩いていた。藤咲さんは狐耳をピョコンと生やし、パシャパシャと写メをとっていた。
 
――決まったぜ………ってアレ、決まってないぞ!そうじゃないんだ呼詠さん……
「あっ、違っ……」
 
「えっ、あっ、いやです。ごめんなさい……」
 呼詠さんは戸惑った表情をして、逃げるようにその場を立ち去って行った。暗く沈んだ夕日と共に俺の心も沈んで行った。

 その後、俺は祐希と桜井さん、藤咲さんの三人に捕まり、剣道部恒例ダメ出し会が執り行われ、散々文句を言われた。
 藤咲さんは、その横で爆笑の渦に包まれており、散々な一日は幕を閉じた。


 気を取り直して次の日曜日に、俺は一人呼詠の喫茶店へと向かった。『ここで名誉挽回しておかないとあとはもうないよ』と祐希と桜井さんに脅されたからだ。

 勇気を振り絞って店の中に入ると、たくさんの客で店内は埋め尽くされている。お目当ては定番のランチメニューであった。
 
「近頃、変なやつが浜辺に来ているよなぁ……」
「あれだろ!ナンパ目的でくるやつらだろう」
「そうそう……夏が近づくと、変な輩が増えるから気をつけんと、あかんなぁ」
 客たちが、ちらほらとそんな噂話をしていた。
 
「あら、陸君いらっしゃい……」
 カウンターの向こうから優しい声で出迎えてくれたのは美和母さんであった。
 
「呼詠よね……呼んで来るから、ちょっと待っててね……」
 カウンターから奥の調理場へと向かって行った。俺はソワソワしながら、呼詠さんが出て来るのを待った。

 店は大繁盛で福田先輩も忙しそうに働いていた。どうやら俺にかまっている暇がないようだ。俺にとっては好都合であった……
 
「ちょっと待ってあげてね。今、ちょうど支度してるから……」
「ありがとうございます」
 
――それにしても遅いなぁ……やっぱり、出て来るのを戸惑っているのだろうか?
 ソワソワとした気持ちでいた俺に、洗い物をしていた美和母さんが声をかけてきた。
 
「呼詠と、なにか喧嘩でもしたの?数日前から様子がおかしいのよ……」
悩ましい顔をする美和母さんもキュートで素敵だ!
 
「あっ……その……すみません」
「別にいいのよ。気にしないで、喧嘩するほど仲がいいって言うものね」
 
 美和母さんは、とても嬉しそうな笑顔でグイグイと話を持ち上げてくる。
「それで、なにが原因なの?お母さんにも話してちょうだい……相談に乗るわよ」
 
 えっ……そんなお母さんって言われても困ってしまうんですけれど……冷や汗をかきながら、戸惑っていた。
 
「お母さん変なこと聞かないでよね」
 そこへ現れた呼詠さんはとてもスタイリッシュな姿であった。ポニーテールの髪型に、白いTシャツにジーンズ生地のショートパンツ、その上からピンクのジャケットを羽織っていた。

 この前、着ていたベージュのワンピも、かわいかったけど、大人びたシックな着こなしも捨てがたい。


 爽やかな笑顔で洗い物を続けている美和母さんの後ろを通り、つけていたエプロンをカウンターの下に仕舞った。
「お母さん……ジュースもらって行くね」 
「いいわよ。持って行きなさい」
 その横に置かれたジュースサーバーから紙コップにジュースを注ぎ始めた。

 十歳くらい若く見える呼詠母さんと大人びた呼詠さん、二人がカウンターで、このように並ぶとまるで姉妹のように見える。

「五條君!オレンジジュースでいいよね」
「うっうん……」

 呼詠さんからカウンター越しにジュースを一つ手渡さしてくれた。
 あれ……なんだろう?玉ねぎを刻んだ匂い?カウンターの向こうからそんな匂いが漂ってくる。
 
 そのやり取りを福田先輩はチラりと見ていた。すかさず停めに入ろうとしていたようだが……
「智君……このバーガーを五番テーブルに運んぶのお願い……あと三番テーブルのオーダーも取ってきてね」
 
「はっ、はぃ……」
 カウンターの上には、作り立ての照り焼きハンバーガーが置かれていた。 
ーーなんだ、この匂いか?
 
 福田先輩は、俺たちの様子がどうしても気になっているようだが、美和母さんのアシストで店内から外に出してもらえない。
 
 俺は忙しいそうにフロアーで働く、福田先輩にガンバレーとエールを送り、手渡されたジュースを飲みながら二人で海へと向かった。


 店の外は五月晴れ、空は青く輝いている。山際からはウグイスの鳴く声が聞こえてくる。暖かい海風がポニーテールの髪をなびかせてゆく。

 俺の少し先を呼詠さんが、海を眺めながら風になびく横髪を、耳の上へとかきあげる。その後ろ姿を眺めながら浜辺に向かって歩いていた。

 恥ずかしながら、ここ数日前から祐希と桜井さんから確実にプレゼントを渡す方法を叩き込まれていた。

 あの地獄と言うべき日々を過ごしてきたことを無駄にしないためにも、ここで渡さないといけないのだ。

「この前は、いきなり逃げたりしてごめんね」
 こちらに目をやろうともせず、ひたすら海を眺めてそういった。
 
「いやぁ、あれは俺が悪かったんだ。ごめんよ」
「ううん……いいの」
――本当なら俺から先に謝らないと行けないのに……先に謝られてしまった。

 せめてプレゼントだけは必ず渡さないと……俺たちは、以前行った堤防まで歩いて行った。その堤防に並んで座り、二人で海を眺めている。
 
「今日ここへ来たのは、この前のことを謝りたかったことと、あと上手く渡せなかったプレゼントを渡そうと思ったんだ」
「………………」 
 呼詠さんはうつむいて、なにも話そうとはしなかった。気まずい雰囲気が二人に流れた。
 
「いや、違うんだ。プロポーズの指輪じゃなくて、誕生日のプレゼントを渡そうと思って……」

 安心した表情で振り向き、恥ずかしそうな上目遣いで見つめていた。
「えっ……私に……」
「そう……これ、なんだけど……」
 俺はショルダーバッグから、取り出したプレゼントを手渡した。
 
 呼詠さんは手渡されたプレゼントをじっと眺めている。少し照れくさそうな表情が、とてもかわいかった。
「開けてみていいかなぁ……」
「いいよ、開けてみて!」
「うん……」
 
 ゆっくりと包装紙を剥がして、箱の中からプレゼントの品を取り出す。とてもワクワクとした印象が伝わってくる。なんだか見ているこっちが恥ずかしくなってくる。
 
 そのなんてことない、どこにでもある、ただのリップクリームをじっと眺め、誕生日の歌をささやくように歌っていた。
 
『ハッピーバスデー  ツー  ユー……』
 

 彼女がうつむいてプレゼントを見つめながら、その後につぶやいた言葉に俺は耳を疑った。
 
「こんなものがもらえる、呼詠が羨ましい……」

 彼女はにっこりと微笑み嬉しそうな笑顔で涙をこぼし、それを拭った。
「えっ、今なんて言ったの……」
 
 ありがとう……そうつぶやいた、彼女の意識がふぅっと薄れてゆく。そして彼女の動きが静止した。
「北川さん、どうしたの?大丈夫……」
 

 俺は動かなくなった彼女を心配そうに見つめていたのだが、すぐに意識を取り戻した彼女は清楚な呼詠さんに戻っていた。
 
「あれ……五條君?なんで……あれ、このあいだは逃げちゃって、ごめんなさい。」

 慌てて謝る呼詠さんをみて、デジャブにでもあったかのように衝動を感じていた。
 
「北川さん……どうしちゃったの、大丈夫?」
「うん大丈夫……だよ。えっとこれは……」
 
 さっき渡したプレゼントのリップクリームをみてさらに不思議そうな顔で首を傾げていた。

 涙を流したあとの彼女は、今までなにがあったのかを覚えていないくらい記憶が抜け落ちていて、ケロッとした顔で俺の横に座っていた。
 




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