TSUNAMIの龍〘 厨二病のこの俺が津波の龍から町を救う夢をみる〙

三毛猫69

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叶芽の初デート

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 買ってきた食材を調理場へと運び終えると、なにやらいい香りが厨房の方から漂ってきた。上品で芳醇な香りと豊かな風味を作り出すこの紅茶は、アールグレイに違いない。
 
 美和母さんが、カフェテラスで落ち込んでいた俺のために、紅茶を入れて持って来てくれた。
 
「あの子達、今厨房で今日のお夕飯を作ってくれているから、私達はここでお茶してましょうか」
 
  美和母さんは、テーブルにティーカップを二つ並べて紅茶を注いでくれた。暖かい湯気と香りがティポッドから流れてくる。その芳醇な香りが俺の荒んだ心を癒してくれた。
 
「いい香りですね」
「そうでしょう!今日の特売で売られていたのよ。安かったから奮発して買っちゃった」
 
 いつもは値の張る高級品が特売で安く仕入れることができた、達成感で嬉しそうな表情をしていた。
 
「美味しい……アールグレイですね」
 すると美和母さんは、悩ましげな顔で残念な答えを告げてくれた。
 「あら、ごめんなさい。これダージリンなのよ……アールグレイの方が好みだった?」

――マジかぁ……ハズレかよ。俺は恥ずかしさのあまり、そのダージリンの紅茶を一気に飲み干した。
 
「あっ、いえ大丈夫です。美味しいかったです」 
 とは言ったものの熱さで、舌が火傷しそうになっているのを我慢していた。
 
 微笑ましい顔で俺を見ながら、ティーカップにお砂糖とミルクを少しづつ足してゆく。
「それで陸君、どうしたのよ?元気ないじゃないの……また喧嘩でもしたの?」
 
 そして俺の隣りに座った美和母さんは、よき相談相手となってくれたのだが、なにを話せばいいのか分からずに、うつむき黙り込んでしまった。
 
「これね、呼詠には内緒の話なのよ」
 紅茶に入れた砂糖をかき混ぜながら、内緒話を話てくれた。

「はい……」
 美和母さんは上目遣いで、俺の真剣な眼差しを確かめると、にっこりと微笑みを浮かべ、ゆっくりと話始めた。
 
「そうあれは、今から二十一年前のことよ。私たち家族は神戸に住んでいたの。でもある日突然、大きな地震と遭遇してしまったのよ……夜も明けきらないくらい朝早くのことだったわ、とっても大きくて身も震えてしまうくらいだったわ」
 
「それって阪神淡路大震災ですよね」
 学校の授業や歴史遺産ガイド講習を真面目に受けていれば、その程度の知識は身につく話だ。
 
「そう、よく知ってるわね。その時にも一人娘がいたのよ。とっても元気が良すぎる子で、いつもハラハラする子だったわ。でもその子は、あの地震で儚い命を落としてしまったわ……」

 多分、それは叶芽のことを言っているのだろうということは予測が着いた。

「あの子達は姉妹だからなのかしらね、最近の呼詠にもあの子と同じ性格のように感じることがあるのよね、おかしいでしょう……」
 美和母さんは、恥ずかしさを隠すかのように紅茶をかき混ぜ、それを飲み始めた。
 
「いえ……そんなことないです」
 多分それは叶芽と入れ替わった時のことを言っているのだと感じた。母親なら誰でも気づくものなのだろうか?

「あら、いいこと言ってくれるじゃないの……だから、あの子ならきっと大丈夫!ちゃんと自分が進む道が見えているもの、あの子に任せていれば安心よ。だから心配しないであげてね……お願い」
 
ーーそこまで彼女達を信頼しているのか?……なら俺も彼女を、叶芽を信じてあげないといけない!それでも俺は……
 
 俺はどうしても美和母さんの口から聞きたいことがあった。それは彼女の名前であった。
「その子の名前って聞いてもいいですか?」
 
 すると少しの間はあったと思うが、重い口を開いて教えてくれた。
「北川  叶芽よ。生きていれば二十四歳くらいになってるわね……」
 
やはり叶芽のことだった……しかしなぜ呼詠さんには内緒にしてあるのだろう……
「呼詠さんは、このことを知らないんですか?」

「そうね……だって叶芽が死んだことのショックが大きすぎて、呼詠には言い出しづらいまま今日まで来ちゃったのよね……さぁ、お夕飯も出来たころだし、そろそろご飯にしましょうか?」
 
 美和母さんは『ハイ、これで昔話はおしまい』とパチンと手を打って、残っていた紅茶を飲み干すと、空いたカップとポットを持って店の中へと戻って行った。

 その頃には夕日もどっぷりと沈み、暗い夜となっていた。それでもやはり俺は叶芽とあの男の行動が気になって仕方がなかった。

 土曜日のお昼前のこと、うちの母さんは仕事で出かけ、美和母さんも喫茶店の仕事がまだ残っていて叶芽の尾行は頼めない。そこでお願いした人物とは……
 
「なんで俺が五條とドライブせんとあかんのだ?」
「いいじゃないですか。かわいい生徒のたってのお願いなんですから……」
 
 そう俺がお願いした人、それは丘石先生であった。愛車である銀色の軽トラを出してもらうことに成功した。名目上は〖観光目的のドライブ〗ということにしておいた。
「できることなら俺だって…………とドライブしたいですよ」
「あん?なんだって……?」
「なんでもありません!」
――俺がしたいのは叶芽と一緒のドライブに行きたかったんだよ~などと言えるはずもなく、頬が赤く染まっていく顔を見られないように窓から外の風景を眺めていた。
 
「……ん?って先生、前!前!」
「あん?うわぁぁぁ……」
 
ファファ~~ン 
 センターラインを超えて対向車線に飛び出た軽トラの前に、大型のダンプカーが迫ってきた。
 
 先生は慌ててハンドルを切りダンプカーをギリギリでかわして行った。
 
「今のはヤバかったなぁ!死ぬかと思ったぜ」
 
 ーーそれはこっちのセリフですよ。本当に死ぬかと思った。俺はまだ先生と一緒に死のドライブなんてしたくはないよ。
「ちゃんと前見て運転してくださいよ」
「あぁ、わあってる、わあってるって!」


 山と海の境目に道が通り、そこを縫うように走る不思議な道があった。山の山頂には数多くの風車が並んでいた。気づけば、山の中腹まで登って来ていた。そこから海を眺めるととても綺麗に見えた。

 俺は尾行していたことを忘れて、すっかり観光気分を味わっていた。
「おい、五條は隣り町に行くのは初めてなのか?」 「ハイ、まだこっちに来て日も浅いし、なにより遊びに行く余裕がなかったんですよね……」
 
 「なるほど、それじゃ今日は俺が思う存分案内してやるよ」
 丘石先生はノリノリで前を走る叶芽達の車を追い越して突っ走って行ってしまった。
「えっええ……ちょっと待ったァ……」
――今日はドライブをするために来たんじゃないのにィ~~い、ちょっと待ってくれぇ……

 
「あれ……今の陸じゃない?」
 軽トラの窓に張り付き通り過ぎてゆく俺を、叶芽は車の助手席から見送っていた。
 
「知り合いなのかい?」
「ハイ!学校の同級生なんです」
 緊張のあまり会話が続いていなかったようで、俺の話題で、会話が弾むようになっていたことを運転手の男は見逃さなかった。
 
「彼氏なのかなぁ……」
「そんなんじゃ……ありませんよ。からかわないでください」
 
 冗談のつもりで口にされた言葉を真に受け、頬を赤らめてうつむく、叶芽がとてもキュートで可愛かったことは言うまでもない。
「ハハハァ……ごめん、ごめん!」

 追い越して行った俺たちの車は、先に目的地である公園にたどり着いた。

 そこは「日本のエーゲ海」とも呼ばれる白い石灰岩に囲まれた景勝地の公園であった。白い岩肌と雄大な海をバックに、アウトドアを楽しむことができる公園となっていた。
 
 なぜ目的地を知っていたかというと、美和母さんを通じて福田先輩に事前情報をチェックしてもらっていたのだ。福田先輩もやる時はやるものだ!


 クマゼミがうるさいほどに鳴きて、真夏の熱さがジワジワと照りつけてきた。熱さで吹き出す汗を拭きながら、売店に売られていたソフトクリームを食べていたのだが、それすらもすぐに溶け出してくる。

 遅い遅すぎる……俺は携帯の時計を見ながら、駐車場で張り込みを続け、叶芽達が来るのを待った。

「おい五條!そろそろお腹空かないか?向こうにレストランがあるからなんか食おうぜ!」
 腹を空かせた丘石先生が昼飯を誘いにきた。一緒に行きたいのだが、今はまだ動けない。

 その時だった。叶芽を乗せた白いセダンの車が駐車場に入ってきた。
「すみません。あとにしてください」
俺はその白いセダンの車を追って駆け出した。
  
「おっ……おい、どこへ行くんだ?」
 俺は先生を残して尾行を再開した。二人はどこかで食べてきたようで、レストランに立ち寄る気配はなかった。
 しかし俺の空腹のムシがグウグウと唸なり、なにか食わせろとしつこく鳴いていた。

 すると二人は白い岩肌をオブジェに見立てた遊歩道を二人並んで歩き出した。
ーーあの野郎……俺だってまだ叶芽と、こんなところを一緒に歩いたことないのに……羨ましすぎる。

 展望台からは四国の山々と青い海と白い空が織り成す水平線が、雄大な大自然を物語っている。まさにロマンチック極まりない雰囲気が漂う場所であった。

 その時、ビューンと強い海風が吹き抜けた。たまに吹く海風が強烈すぎて、目を覆いたくなるほどであった。
 
「キャーーー」
 ん?なんだ……今の叫び声は、砂埃が目に入ってよくみえない……霞む目を無理やり見開き状況を確認してみた。
 
 すると目の前には抱き合う二人が微かに見える。次の瞬間…「いやぁ……ダメ!離して……」
 叶芽がその男を突き飛ばしていた。
 
「貴様ァ……」
 カッとなり頭に血が登った俺は、その男に拳を振りかざして殴りかかろうとしていた。
 
パシュッ、バタンキュー
 しかし次の瞬間、パッとあたりが真っ白になり、気がつけば青い大空に向かって拳を突き上げて倒れていた。
 
「あれ……なんで……こうなるんだ?」
俺はそのまま意識を失ってしまった。
 
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