一等身の魂

彷徨い人

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一等身の少年

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  …俺はもとより頭が悪かった。生まれつきの才         
能とでも言っておこう。何をするにも上手く
いかず、大切な人さえも守れない身だ。

「楓、いいか。男は根性だ。一度やると決めた  
    ことは意地でも貫け。それが掟ってものだ」

      毎日のように父はそう言った。どこにでもあ
 る決まり文句だと誰しも思うだろうが、これが
 なかなか難しいと知ったのはずっと昔の事だ。

親父、ごめんな。親父の言葉、何も果たせてねぇや。

 
 このまま死ぬわけにはいかない……

 まだ、親父にありがとうも言えてないのにな。

  
 「俺になんの用だ。」

 「あんた、まだ生きてたの?なかなかの反応速 
     度じゃん…」

 「お前、殺し屋だな?」

 「そうだよ。今回はあの方直々に依頼が来たも
     のだから、少し驚いちゃったよ…」


     男の名を偽獬(ぎかい)といった。“あの方 ”
 とやらが率いる反国制団体の直属配下だ。彼は   “あの方 ”からも人目置かれる存在で、優秀な
 殺し屋らしい。闇夜に突然姿を現し、人の命
 をいとも簡単にかっさらっていく。その仕事の   
 早さから、“命泥棒 ”と一部では言われていた。

「あの人斬りが、そう簡単にやられるわけない
    か」
「あらら。いつから俺は人斬りになったん  
     だ?」

    偽獬は不気味に笑った。まるで全てを投げし た王のような笑顔だ。…分かりずら。

「お前も分かるだろ?この世が腐ってるこ
      と…。俺らはそれを更生する為に動いてん
      だ。そのためには、勿論手段は選ばない。」

「どうだかねぇ。更生しようとしてる奴が、
    人を殺すとは思えないが…」

 背中合わせで話し続ける。お互い殺気を漲らせ    
 ながら、刀を持っている。

「俺だってさ、こんなことしたくないさ…。
    刀の化身とも言われるあんたに、人斬り
    の罪を被せるなんて…」

 「その割にはさっきから殺気しか感じないんだ
     が?」

 張り詰めた空気に、更に重しがかかる。流石は  
 凄腕殺し屋。気配だけは1人前だな。


  「殺したいんなら殺せばいい。俺だって、
      こんな世界にうんざりしてんだよ…」

「無抵抗かい?…いや、そんなわけないか。
    俺も長くはここに居られないんでね…殺し屋
    として雇われている以上は。」

「そうだろう。俺も生憎ここには長くいたくな
    いもんでね…」

     急に空気の流れが変わった。殺気に満ちた獣
 の気配がこちらに迫ってくる。鋭い牙が月の光
 を浴びて奇妙に光った。 

     ー男は根性だ。

 ああそうだな。今になって、ようやく親父の言  
 葉を理解できたよ。

 「こんなの、根性でしか止められねぇもんな」

     偽獬の刀が俺を斬るよりもはるかに速く、
 俺の刀は空を斬った。


 × × × 

  





「…痛てぇ……俺の負けだ。」

  「……いや、相打ちだ…」

 後ろで倒れる音がした。じんわりと血が滲む。
 
「試合は相打ち。だが、根性では俺の勝ち  
    ってことか。ったくよ…ふざけんな…勝った   
    気しねぇよ…」

     刀をさやに収め、斬られた腕を押えながら朝日に照らされた街を歩き出した。







  




ー所詮俺は…一等身だ…。
     










  
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