隣の彼女

沢麻

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大嘘吐

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 掃除当番ではなかったが、万夢は茉莉沙と帰ろうと思い声をかけた。ユヅキたちと帰るときは、話題についていけず最後列でだんまり。他の女子たちとも共通の話題に乏しくだんまり。優吾と帰れば喧嘩。絶対嫌だったのに、茉莉沙と帰るのが一番精神衛生上いいような気がする。やはり万夢は茉莉沙を下に見ているのだった。何を基準に、何が上で何が下なのかよくわからないのに、茉莉沙と同列にはなりたくないとどこかで思っている。最低だ。
 「マリサ、靴可愛いね。いいな」
 いきなり受験の話もしづらいので、当たり障りないことから話しかけた。すると茉莉沙は「万引きした」と言い出して無駄に焦る結果となった。
 「ええ! それって犯罪だよ。捕まるよ」
 「知ってるよ。だって前の靴小さかったんだもん」
 「いやでも、いけないよ。おうちの人に買ってもらわないと」
 「だって会わないだもん」
 茉莉沙は煩そうに口を尖らせる。まったくどういう神経をしてるのか。例えば万引きをしてしまったとしても、それを堂々と、むしろ偉そうに言い放つのってどうなのか。人間性を疑う。自撮り画像のことを偉そうに言うユヅキたちと大差ないではないか。
 「マユメみたいな、いいこにはわからないよ」
 「……」
 また言う。どいつもこいつも。いいこっていけないことなのか。どうして真っ当なことを言っている万夢が責められなければならないのか。
 「……会わないって、マリサの親は帰ってこないの?」
 「仕事が朝方と夜なんだよ。私が学校にいる間に寝てるらしい」
 「らしい……って」
 「マユメの家は、親とも仲良しなんでしょ?」
 仲良しではない。が、茉莉沙と比べれば仲良しなのかもしれない。
 「普通だよ」
 「うちは普通とは違うからね」
 茉莉沙はいつになくむきになって「普通じゃない」アピールをしてきた。万引きの言い訳だろうか。
 こんなんじゃ当然受験などは考えていないだろうが、一応訊いた。
 「マリサは、中学は星ヶ丘中に行く? それとも違うとこ受ける?」
 「マユメは他受けるの?」
 茉莉沙は目を見開いた。
 「……うん、受けようかなーって。南栄だけど」
 「南栄ってレベル高いとこでしょ」
 「レベルっていうか倍率がね」
 茉莉沙は意外と詳しい。ここに来る前は隣の市に住んでいたようだが、中学受験の情報は同じらしい。
 茉莉沙が何か言おうとするとその前に、万夢は先手を打った。
 「あの、私が受験しようかなって思ったのはさ、あれだよ? いいこだからとか頭いいからとかそーゆーんじゃなくて、なんか違う世界に行きたいなーっていう気分になったからなんだよ。だから私立じゃないしさ」
 もう嫌だ。優等生扱い。万夢は万夢なのに。まじめでもいいこでもない。万夢なのに。
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