隣の彼女

沢麻

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発表会

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 万夢は模試の結果を見て落胆した。倍率はおよそ三と見られる。つまり三人に一人しか南栄に入ることができない。塾の模試を受けた南栄希望者の中で万夢はギリギリ上位三分の一というところで、楽勝ではないことを噛み締める。
 真面目に取り組めば、巻き返せる。しかしもう、集中力は途絶えていた。潤二郎が頻繁にラインしてきて、うんざりしている。しかしスッパリ「勉強の邪魔だから連絡しないで」とは言えない。そしてグループラインでは万夢以外の全員が劇チームなのでまた疎外感が増した。万夢の学年はダンス経験者が多く、ダンスチームはさほど練習しなくてもいけそうなので放課後の練習は毎日はない。勉強にはいいな、と思ったのに、劇で親密になっている優吾と茉莉沙のことが気になって仕方ない。
 何もかもぱっとしない。
 あとちょっと。あとちょっとで小学校生活は終わる。あとちょっとの我慢なんだと言い聞かせる。
 朝、たまに茉莉沙に会うことがある。魔王になってから、茉莉沙は劇チームの中で居場所を見つけた。あれほどクラスのみんなを「苦労人の自分とは世界が違う」と言っていたのに、受け入れられれば馴染んでいるのがムカつく。あのユヅキとですら「茶髪チーム」とか言ってふざけ始めたのにはドン引きした。だから、万夢は前のように接することが難しくなっていた。
 「おはよう」
 一方明るい方へ傾いている茉莉沙は、少し快活になっている。
 「おはよう」
 返事をするが、なんだか話題をふるのも面倒だった。
 「ブリーチ使ったんだってね」
 「えっ」
 「一條が言ってた」
 いきなり言われた。優吾。どうして。
 「あははは。そうなの。失敗しちゃって、黒に戻した」
 おどけて返す。秘密にしたかったのに。茉莉沙のように、上手にできなかったから。
 「マユメ、髪の毛長いから難しいんだよ。今度やる時は手伝うね」
 「あ、ああ。ありがとう」
 気を使われている。茉莉沙は悪くない。クラスのみんなとうまくやることは、いいことだ。それを目の敵にする、万夢が間違っている。
 「マリサ、最近クラスのみんなと仲良いね。よかったね」
 「そのほうが得策だと思ったからね」
 「?」
 茉莉沙はよくわからないことを言って、それからはずっと優吾の話をしてきた。優吾と最近話していないので、情報はありがたいが、やはり嫉妬してしまう。校門をくぐるあたりで、茉莉沙は「発表会終わったら私、髪色戻すわ」と言った。そうか。茉莉沙は本当に魔王なんだ。そう思った。
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