マスカレイド

沢麻

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二十年前

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 リカと和志は大学同期で、付き合い始めたのは卒業後の二十六歳の時だ。在学中はバスケット部で一緒だった。バスケット部と言ってもそれは、バスケ以外にもサーフィンをしたりバーベキューをしたり、とりあえず講義のないときに集って遊ぶ軍団だった。
 リカは見た目は地味だったが性格は豪快だしサバサバしているし、女子力の高い部員達とは一線を画していた。部内では男女交際も流行っていて一月経てば組み合わせがシャッフルされるような環境で、誰の元彼女が今は誰の彼女だっけ? というようなことはざらだったが、リカも和志も部内の誰とも交際しなかった。和志はリカが気になっていた。だからリカと他の男が会話するだけでそわそわして、明日になったらあいつと付き合っていたらどうしようとか無駄に思い悩むことがけっこうあった。あまりにリカや和志に浮いた話がないので、男飲みと言われる男子部員限定の飲み会でその件が話題に上ったことがあった。
 「和志は、外に恋人がいるわけなの?」
 博貴をはじめとする男子部員に囲まれて、和志は咄嗟に「今は恋愛に興味がない」などと大嘘をついた。
 「リカはいるだろうな。和志とリカだけ、誰とも付き合わない」
 「リカこそ恋愛に興味がなさそうだな」
 「レズなんじゃないか?」
 「仲良い女もいないから違うだろ」
 「俺はリカのこと、けっこう狙っているけどね」
 博貴がいきなりそんなことを言うので、和志は狼狽えた。博貴は遊び人だった。
 「ちょっとまじで挑戦してみるわ」
 博貴は皆にリカを落とす宣言をし、翌日から本当にリカに付きまとうようになった。ちょうどその頃の博貴は、当時の彼女の光と別れそうだった。まさかリカが遊び人の博貴になびくとは思えなかったが、それでも和志は気になって二人の動向を常にチェックし、いつにない積極性でリカが単品の時は話しかけ進行状況を確認した。
 「ぶっちゃけた話、博貴はどうなの? 男としてあり?」
 なかなか収穫がなく、和志はついにストレートに訊いた。するとリカは「ないよ」とさらっと言ってのけた。それが後々、博貴の両刀を知っての返答だったことが判明するが、和志は安堵した。
 「私好きな人がいるんだよね。だから、バスケ部の男子とか別に。バスケも好きだから入ったのに、みんな飲み会ばっかりでちょっとうんざりしてる。やめるかも」
 好きな人がいる。バスケ部の男子とか別に。
 いつの間にか和志がバスケ部にいる理由はリカがいるからになっていた。やめるな、リカ。俺の居場所がなくなる。
 「……やめんなよ。皆が飲み会してる間、俺とワンオンワンでもしよう」
 リカは、いいねーと笑った。
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