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①
③
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あの黒い家の主が同年代の男だということは気付いていた。天気のいい休日になると、決まって愛車であるスカイラインGT-Rをきれいに洗っている。しかも俺が一番好きな白の32で、相当大事に乗っているらしくまったく古くささを感じない。
いいなぁ……
心の底ではそう思っていても、なんだあんな奴、と思って誤魔化す。
俺だって独身の頃はスポーツカーを乗り回す今時の若者だったんだ。車の為に働き、アクセサリーやパーツを揃え、夜になると仲間と集まって暴走し、警察には何度となく追いかけられ、それでも楽しい日々だった。年をとったらノーマルに戻して、大事に32Rを乗るんだと決めていた。
それがどこでどう狂ったのか不況で仕事に溢れ、臭い・汚い・給料安い介護職に就くと車の維持費だけでいっぱいになり、疲れて夜走りにも行けず、同じ職場で知り合った女と遅い結婚をしたら車を売れと迫られ、手放した。金をかけてきたのにものすごく安い売値だった。
介護職はたくさんあるため仕事には困らなかったが、職場環境が悪く転職を繰り返し、仕事が生き甲斐にはなっていない。日々が忙しくて、自分の好きなことなど忘れていた頃にあのGT-Rを見た。太陽の光に白く輝いて、かつての俺のようにニヤニヤしながら洗車している持ち主が隣にいた。俺から見ると、冴えない男に見えた。なんであんな奴が。あんなに冴えない癖に、俺よりきっと金があって自由があって、あんなことができるんだと思うと悔しかった。だからあの黒い家の前は極力通らないようにしていたから、まさかあそこが娘の同級生の家とは知らなかった。
しかも追い討ちをかけるように可愛い奥さんときたもんだ。俺は無駄に落ち込み、ただでさえ最悪な日曜日がいっそう嫌いになった。
「えっインスタントラーメンかよ」
帰宅して妻の拵えた昼食を見てまたがっくりくる。
「なんだよ文句あんのか? ちゃんと具も入れたじゃねぇか」
確かにもやしとニラとハムの炒めたものが入っている。
「俺これ好きだよ」
「あたしも」
子供達が妻側につくと、俺はまた孤独を感じた。
好きなこともなければ家も寛げないし、家族には敵視されるし、俺って何のために生きているのか……。
「さっき公園でコースケに会った。あっちもチャリの練習してた」
娘が突如触れたくない話題を出した。妻は「へぇー」と流す。
「お前あそこが同級生の家だって知ってた?」
俺はつい妻に訊く。すると「当たり前じゃん」と返答。なんだか悔しくて喧嘩を売ることにした。
「ママが付き添ってたけどすげぇ若くてきれいなママだったな」
ここには何故母親であるお前が付き添わないのかということと、何故お前はあんな美しくないのだという二つの意味が込められている。しかし妻は動じない。
「ユキコちゃんでしょ。あたしママ友だよ。若いっつっても三十五、六じゃねーかな。あたしと大して変わらんねーわ」
「えっ」
妻は三十九で、そういえば結婚当時はヤンキーではあったが若くて可愛かったことを俺は思い出した。
一体どうしてこうなってしまったのか……。毎週日曜日に食べているインスタントラーメンを、味わいもせず俺は一気に食べきった。
いいなぁ……
心の底ではそう思っていても、なんだあんな奴、と思って誤魔化す。
俺だって独身の頃はスポーツカーを乗り回す今時の若者だったんだ。車の為に働き、アクセサリーやパーツを揃え、夜になると仲間と集まって暴走し、警察には何度となく追いかけられ、それでも楽しい日々だった。年をとったらノーマルに戻して、大事に32Rを乗るんだと決めていた。
それがどこでどう狂ったのか不況で仕事に溢れ、臭い・汚い・給料安い介護職に就くと車の維持費だけでいっぱいになり、疲れて夜走りにも行けず、同じ職場で知り合った女と遅い結婚をしたら車を売れと迫られ、手放した。金をかけてきたのにものすごく安い売値だった。
介護職はたくさんあるため仕事には困らなかったが、職場環境が悪く転職を繰り返し、仕事が生き甲斐にはなっていない。日々が忙しくて、自分の好きなことなど忘れていた頃にあのGT-Rを見た。太陽の光に白く輝いて、かつての俺のようにニヤニヤしながら洗車している持ち主が隣にいた。俺から見ると、冴えない男に見えた。なんであんな奴が。あんなに冴えない癖に、俺よりきっと金があって自由があって、あんなことができるんだと思うと悔しかった。だからあの黒い家の前は極力通らないようにしていたから、まさかあそこが娘の同級生の家とは知らなかった。
しかも追い討ちをかけるように可愛い奥さんときたもんだ。俺は無駄に落ち込み、ただでさえ最悪な日曜日がいっそう嫌いになった。
「えっインスタントラーメンかよ」
帰宅して妻の拵えた昼食を見てまたがっくりくる。
「なんだよ文句あんのか? ちゃんと具も入れたじゃねぇか」
確かにもやしとニラとハムの炒めたものが入っている。
「俺これ好きだよ」
「あたしも」
子供達が妻側につくと、俺はまた孤独を感じた。
好きなこともなければ家も寛げないし、家族には敵視されるし、俺って何のために生きているのか……。
「さっき公園でコースケに会った。あっちもチャリの練習してた」
娘が突如触れたくない話題を出した。妻は「へぇー」と流す。
「お前あそこが同級生の家だって知ってた?」
俺はつい妻に訊く。すると「当たり前じゃん」と返答。なんだか悔しくて喧嘩を売ることにした。
「ママが付き添ってたけどすげぇ若くてきれいなママだったな」
ここには何故母親であるお前が付き添わないのかということと、何故お前はあんな美しくないのだという二つの意味が込められている。しかし妻は動じない。
「ユキコちゃんでしょ。あたしママ友だよ。若いっつっても三十五、六じゃねーかな。あたしと大して変わらんねーわ」
「えっ」
妻は三十九で、そういえば結婚当時はヤンキーではあったが若くて可愛かったことを俺は思い出した。
一体どうしてこうなってしまったのか……。毎週日曜日に食べているインスタントラーメンを、味わいもせず俺は一気に食べきった。
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