隣の庭

沢麻

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 「えーっ今日ピーマン入ってる」
 息子が夕飯の丼を見て文句を言った。ピーマンを入れたことによって苦情が出るのを先読みし、俺はピーマンをものすごく細かく刻み更にひき肉を使用して紛れ混ませて目立たなくするという調理法を採用したのに、目敏い奴め。
 「これはな、アヤカちゃんちのお庭で取れたやつなんだぞ。だから食べろ」
 「えっアヤカの?」
 息子は驚いた。アヤカちゃんは可愛くませているので、保育園では人気者だ。
 「庭、全部畑なんだよな。知ってた? 野菜なんて買わなくていいくらい植えてあったぞ。通りかかったらお裾分けって」
 俺は妻に振った。
 「知ってる知ってる。私ももらったことあるよ。なんか職場でも畑をやってて、担当してたらハマったって言ってた」
 「なるほど」
 俺より若そうなのに畑をやるとは、考えようによっては老成した趣味だが納得した。
 「アヤカちゃんのママはしっかりしてるよなぁ。保育園の行事もいつも積極的に手伝ってるし、手作りの野菜を子供に食べさせるなんて偉いわ」
 俺はここぞとばかりにアヤカちゃんのママを誉めた。妻が、私だって、という気分に少しでもなってくれれば、と思って……。
 「うちもやればいいのに」
 アヤカちゃんちのだと聞いて、抵抗なくピーマンを食べていた息子が言った。それは妻に言ったのだと思い、俺はそうだ! と心の中で叫んだ。しかしそのあと妻が「そうだね。パパやればいいじゃない」とさらっと俺に丸投げしてきたのだ。
 「えっ俺が?」
 「野菜買わなくていいくらい実るんでしょ? うちも空いてるスペースあるし、なんか植えたら?」
 「俺も庭の野菜食べたい。だってアヤカんちだけじゃなくて、庭の野菜食べてる友達いっぱいいるもん」
 ……えっ。
 どうしてそういう流れになるのだ。妻のみならず息子まで俺に何もかも押し付けようとしてくるとはどういうことだ。
 ちょっとアヤカちゃんちのような家庭菜園も憧れはしたが、俺が憧れたのは「妻が庭で野菜を栽培する」ということであり、自分でやりたいとかそういうことではない。
 少しでも妻に、家を支えるパフォーマンスをしてほしかっただけなのに。
 「……いや、やっぱり無理だな。パパは車があるから」
 俺はいつもの逃げ道を使った。これを言うと、息子も妻も納得するのだ。
 「そうだね、パパは車が一番好きなんだもんね」
 「そうだね、俺も仮面ライダーが今は一番好きだけど、昔は車が好きだったから気持ちわかるよ」
 「……」
 アヤカちゃんちが羨ましい。アヤカちゃんちの旦那さんは、きっと俺のように毎日一分一秒を惜しんで家事をすることなく、帰宅すればあたたかい食べ物が用意され、洗濯された洋服を着て出勤しているはずだ。俺はどうしてこうなってしまったのか。
 アヤカちゃんちのピーマンを噛みしめながら、俺は思った。
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