美人って

沢麻

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仕事できます!

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 「雪菜ちゃんは?」
 畑沢が訊いた。男達が注目する。皆、やっぱり長山雪菜が気になっているのだろう。
 「私は続けますよ。やりがいありますから、やっぱり」
 「おおー」
 男達の歓声が上がる。花怜ではなく、雪菜がひょっとしたら紗耶香のパートナーとして保育園に残ることになるのかもしれない。それならそれでいい。同じクラスを持ったことはないが、雪菜は信頼できる。
 ーー反仕事的な相談はしづらいーー
 この間の花怜の言葉がリフレインした。あれって、花怜の本心でもあるのではないか。
 
 二次会のカラオケが終わって、皆地下鉄や電車やバスで帰路についた。気のいい人ばかりだったので、楽しく過ごせたが、猫山とはついぞ隣同士になることはなかった。だから帰りの方向が同じとわかり紗耶香はこっそり狂喜乱舞したわけだ。但し二人きりではなく、花怜、雪菜と四人であった。
 「みんな家向こうなんだねー」
 切り込み隊長は紗耶香しかいないので、場を盛り上げようと必死に猫山に話しかける。
 「そうそう。俺だけこっちなの」
 「一人暮らし?」
 「うん」
 一人暮らしかどうかは結構重要。実家住まいの男は何も家事ができない奴が多いし、加えて母親と仲が異常に良かったりするとひく。紗耶香も一人暮らしがしたいが、給料と職場への距離の関係で実家である。ちなみに花怜と雪菜は色々切りつめて一人暮らしができている。
 仲良くなりたかったのに猫山が一番早く地下鉄を降り、同僚だけが残った。つまり三人とも保育園の近くに住んでいるので帰りは一緒でいつも通りだ。
 「猫山さんが一番いいよね!」
 紗耶香は猫山がいなくなった瞬間に二人に発表した。暗に、猫山には手を出すなというストッパーのつもりである。しかしその必要はなかったのか、二人ともえぇーという顔をした。
 「……なんで紗耶香ってああいう遊んでる感じの人が好きなんだろう。ほんとに結婚考えてる?」
 「えっ遊んでる感じ? どこがよ」
 花怜は新卒からの付き合いなので、紗耶香のそこからの男性遍歴は把握している。確かに今までは軽い感じの人が多く、長続きしなかったが何を言う。
 「あの三十二歳のほうが遊んでる感じでしょ」
 「いいや。見抜けないんだよ。盲目になっちゃうんだよすぐに」
 漫才さながらの二人のやりとりを見て、雪菜はくすくす笑っている。雪菜は誰がいいと思ったのか気になったが、訊けないまま帰ることになった。
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