1 / 10
①
しおりを挟む
悠は教室に入って驚いた。生徒が五人しかいなかったからだ。しかもそのうちの一人は子供がいそうなくらいの年齢に見えたし、また他の一人は小学生くらいに見えた。全員女だった。五人がバラバラに散って座るから、余計に教室が寂しい印象になる。授業の内容も、中学レベルからのスタートだった。習ったことがあるとすぐに感じ、暫くすると感覚を思い出してすらすら問題が解けるようになったが、それは悠だけだった。他の四名は苦戦し、特に子供がいそうな彼女は先生に何回も質問していた。ここは予備校で、高卒認定試験のクラスだ。今日が初回の授業だ。
休み時間に煙草が吸いたいので、予備校の外に出た。今はどこでも禁煙で、少し離れた駅の外に仕切られた喫煙所があるのでそこまで歩く。煙草自体あまり流行っていないらしく、喫煙所にはおじさんやおじいさんやおばさんしかいない。若者がいない。年配に混ざって火を点けると、同じクラスにいた女の子が入ってきた。目が合うと、女の子はニコッとしてくれたので、悠も同じように微笑んだ。この子は教室の中でも、割と話せそうな気がしていたので嬉しかった。
「あたしミカ。よろしく」
ミカは悠の隣に来た。悠も名乗った。年齢を訊くと一個下だった。二人とも未成年で、喫煙所ではそこは大声で話せない。
「ヤニくっさいよね。加熱式が欲しいんだけど、チャンスがなくて」
「私あと半年で二十歳だから、そうしたら買おうかな」
「いいね。ショップで買えるんだよね」
とりあえず煙草の話から入って、お互い身の上話に落ち着く。ミカは遠方から出てきたばかりだ。高認の予備校に通うためだ。高校は二年の途中で中退している。親は社長らしい。
「彼氏欲しいな、彼氏。公務員コースの人とかで、いい人いないかな」
「公務員コース?」
「三階は公務員コースの教室あるんだよ。若い男がたくさんいた」
三階に男が沢山いたのは悠も見た。しかし悠達よりは年上に思えて、それなのにはしゃぐ様子が子供っぽくて、興味は沸かなかった。
「悠ちゃんは、彼氏いるの?」
「うん、一応」
一応、じゃない。付き合って三ヶ月、仲の良い彼氏がいる。高認を取ろうと思ったのも、彼と付き合ってからだ。それまではその日暮らしでいいと思っていた。そういう幸せな自分を出すのは、苦手だった。
三日もすると、高認クラスのメンバー五人は覚えた。試験までまだ暫くあるので徐々に増えてくるらしいが、今のところ人数も少ないし上手くやったほうが良い。まず子持ちかと思われたのはあずみさんと言って、二十七歳で独身だった。そして若く見えた子は倉敷さんと言って十七歳で実はミカと一歳しか違わなかった。もう一人はマユと言ってそこも十八だった。結果として倉敷さん以外は全員喫煙者で、休み時間は連れ立って駅まで歩いた。
あずみさんは公務員コースの人のことも詳しかった。口説かれたとか、そういう内容のことも何故か自慢げに言うのだが、年上だし突っ込んでよいのかわからずに黙っていた。あずみさんはすごく可愛くて清楚に見えるが、それでも年より少し老けて見えるし、派手さがないので目立たない。今風のミカの方がよっぽど目立つ。ミカは、あずみさんの自慢話をいつもニヤニヤ聞いている。
「悠ちゃんは彼氏いるんだよ」
ミカが話題を変えると、あずみさんも「私も微妙な関係の人がいるよ」とか言う。するとマユまで、「私も微妙なのがいる」と言い出す。なんだろう。とりあえず彼氏がいるので公務員コースの話になると悠は黙った。
「なんかさぁ、何者って感じじゃない? あの二人」
二人の時に、ミカが言った。
「ところでさぁ、公務員コースの厚木さんてわかる? たまに喫煙所に来るんだけど。おしゃれな美容室の話になってさぁ、教えてみたいになって、その流れでライン交換した」
「へぇー、よかったね」
「うん、けっこうイケメンなんだよね」
にっこりするミカを見て、顔が可愛いあずみさんよりも可愛いと思った。上手くいけばいいな、と思った。
休み時間に煙草が吸いたいので、予備校の外に出た。今はどこでも禁煙で、少し離れた駅の外に仕切られた喫煙所があるのでそこまで歩く。煙草自体あまり流行っていないらしく、喫煙所にはおじさんやおじいさんやおばさんしかいない。若者がいない。年配に混ざって火を点けると、同じクラスにいた女の子が入ってきた。目が合うと、女の子はニコッとしてくれたので、悠も同じように微笑んだ。この子は教室の中でも、割と話せそうな気がしていたので嬉しかった。
「あたしミカ。よろしく」
ミカは悠の隣に来た。悠も名乗った。年齢を訊くと一個下だった。二人とも未成年で、喫煙所ではそこは大声で話せない。
「ヤニくっさいよね。加熱式が欲しいんだけど、チャンスがなくて」
「私あと半年で二十歳だから、そうしたら買おうかな」
「いいね。ショップで買えるんだよね」
とりあえず煙草の話から入って、お互い身の上話に落ち着く。ミカは遠方から出てきたばかりだ。高認の予備校に通うためだ。高校は二年の途中で中退している。親は社長らしい。
「彼氏欲しいな、彼氏。公務員コースの人とかで、いい人いないかな」
「公務員コース?」
「三階は公務員コースの教室あるんだよ。若い男がたくさんいた」
三階に男が沢山いたのは悠も見た。しかし悠達よりは年上に思えて、それなのにはしゃぐ様子が子供っぽくて、興味は沸かなかった。
「悠ちゃんは、彼氏いるの?」
「うん、一応」
一応、じゃない。付き合って三ヶ月、仲の良い彼氏がいる。高認を取ろうと思ったのも、彼と付き合ってからだ。それまではその日暮らしでいいと思っていた。そういう幸せな自分を出すのは、苦手だった。
三日もすると、高認クラスのメンバー五人は覚えた。試験までまだ暫くあるので徐々に増えてくるらしいが、今のところ人数も少ないし上手くやったほうが良い。まず子持ちかと思われたのはあずみさんと言って、二十七歳で独身だった。そして若く見えた子は倉敷さんと言って十七歳で実はミカと一歳しか違わなかった。もう一人はマユと言ってそこも十八だった。結果として倉敷さん以外は全員喫煙者で、休み時間は連れ立って駅まで歩いた。
あずみさんは公務員コースの人のことも詳しかった。口説かれたとか、そういう内容のことも何故か自慢げに言うのだが、年上だし突っ込んでよいのかわからずに黙っていた。あずみさんはすごく可愛くて清楚に見えるが、それでも年より少し老けて見えるし、派手さがないので目立たない。今風のミカの方がよっぽど目立つ。ミカは、あずみさんの自慢話をいつもニヤニヤ聞いている。
「悠ちゃんは彼氏いるんだよ」
ミカが話題を変えると、あずみさんも「私も微妙な関係の人がいるよ」とか言う。するとマユまで、「私も微妙なのがいる」と言い出す。なんだろう。とりあえず彼氏がいるので公務員コースの話になると悠は黙った。
「なんかさぁ、何者って感じじゃない? あの二人」
二人の時に、ミカが言った。
「ところでさぁ、公務員コースの厚木さんてわかる? たまに喫煙所に来るんだけど。おしゃれな美容室の話になってさぁ、教えてみたいになって、その流れでライン交換した」
「へぇー、よかったね」
「うん、けっこうイケメンなんだよね」
にっこりするミカを見て、顔が可愛いあずみさんよりも可愛いと思った。上手くいけばいいな、と思った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる