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久しぶりに来たミカは憔悴しきった表情で、いきなり厚木さんのことを聞くことが憚られるようだった。
「まじ親が来てさぁ、真面目に勉強してなかったことバレて、仕送りストップされるかもしれない。バイト代だけじゃ今のとこ家賃とか生活きついし、ますます勉強どころじゃなくなる」
どうやら親に怒られたらしい。ミカはよくある、やんちゃなお嬢様なのだ。
「ミカは、高認取ったらどうするの」
「わかんないよ、親が取れって言うから予備校にいるだけで。ていうか街で一人暮らしとかしたかったってのもあるし」
ああ、これじゃだめだと思った。目的がないと、頑張れないものだ。
「悠、髪型変えたんだね」
「あぁ……これは……」
厚木さんと今でも繋がっているなら、いずればれる。
「こないだの名刺の美容師に、タダでやってもらった」
「タダで? まじ。体で払えとかなかった?」
「うん、なかったよ」
厚木さんて、その美容師と同一人物かも。
「厚木さんとは、どうなの」
「厚木さんねー……なんか、正直利用されてる感じする。あんまり予備校来ないから、会えないけど、たまにいきなり呼び出されて、やる」
「……」
そんな人なのかと思ったら落胆する。
「デートとかはないよ。やっぱり、遊ばれてるよね私」
「好きなの?」
「わかんない。やると流される。好きじゃないかもしれないのに、切なくなったり苦しくなったりする」
わかる。悠は髪を切ってもらっただけなのに、気になっている。きっと好きじゃないのに。
ミカはせっかく久しぶりに来たのに、悠と話してばかりで結局勉強はあまりしなかった。親に怒られたというから、暫くは真面目に来るのだろうか。ミカと話していたい。悠は世界が狭すぎる。彼氏しかいない日常だったから、ミカも秋風も眩しく見えるんだ。
「ねぇ今度さ、ごはん行こう。悠とたくさん話したい」
ミカが嬉しいことを言ってくれた。ミカも越してきたばかりで、きっと孤独なのだ。
しかし、悠が友達と食事に行くのはかなりハードルの高いことなのだった。ミカには、予定わかったら教えるね、と伝えたが、予定がわかったらではなく、彼氏の目をかいくぐれたらというのが本当だ。秋風に髪をやってもらった時は、彼氏は仕事中だった。だから勉強中ということにできたが、食事に行く時間帯は確実に彼氏から追跡される。彼氏は悠が他の人間と関わるのを極度に恐れて束縛するのだ。しかしそれは悠も同じだった。彼氏が他の人間と接するのは嫌だった。職場で仲のいい人物が出来ることを恐れて、なるべく一人作業で、若い従業員がいないところで働いてもらったくらいだ。しかし、この考え方がヤバイのはわかっていた。予備校に通い初めるのも最初は反対された。しかし、何をしたかを事細かく毎日報告すると約束して押しきった。同性の同世代と話すことも嫌がるのに、今の悠の予備校での様子を彼氏が知ったら刺されるんじゃないかと思う。
親と食事に行くことにすればいいかと思ったが、高校を辞めたときに完全に決別した話をさんざん彼氏にはしてしまったことを思い出した。
ひょっとしたら悠は、彼氏のことは好きじゃないのかもしれない。流されているだけなのかもしれない。ミカとの会話を思い出した。でももう付き合っているから、どうしたらいいのかわからない。 ミカや秋風と先に出会っていたら付き合わなかったかもしれない。
ミカはその後少し真面目になって、出席率が上がった。ミカと悠が一緒にいると、公務員の人たちもあずみさんも近寄って来なかった。高認の男子たちと、ミカと悠で一つのグループになったようだった。今までグループを見ると恐怖感に支配されてきたが、友達が出来るとそれも普通だと言うことがわかった。
「あずみさんて、公務員の人といるんだ」
ミカがそっちのグループを見ながら呟いた。暫く来ていなかったので、知らなかったのだ。
「年近いから、話が合うんじゃないかな」
「そっか。それもそうだ」
あずみさんの取り巻きには、秋風もいる。ミカは寂しそうに下を向いた。むこうもむこうで、ミカや悠のことをチラチラ見ては、ヨウ君やあずみさんはたまに手を振ってくる。感じ悪い。今悠達の話をしているのではないだろうか。
「ミカちゃんて公務員の人と付き合ってるんだっけ?」
橋本がいきなり言った。バカ、と思った。
「付き合ってないよ。あの人たち、軽くて最低だよ」
「あぁー確かにね。あの厚木って人とあずみさんて絶対できてるしね」
?
「え、まじ?」
ミカと悠は目を見合わせた。
「……まじかぁ。それはそれは」
ミカの目に怒りが宿った。悠は混乱した。あの人たちは全員あずみさんとできているのか?
「あ、余計なことだった? てかミカちゃんて年上しか興味ないとかじゃないよね?」
橋本はとんちんかんな話を続けようとしたが、ミカはもう橋本の話は聞いていなかった。
「まじ親が来てさぁ、真面目に勉強してなかったことバレて、仕送りストップされるかもしれない。バイト代だけじゃ今のとこ家賃とか生活きついし、ますます勉強どころじゃなくなる」
どうやら親に怒られたらしい。ミカはよくある、やんちゃなお嬢様なのだ。
「ミカは、高認取ったらどうするの」
「わかんないよ、親が取れって言うから予備校にいるだけで。ていうか街で一人暮らしとかしたかったってのもあるし」
ああ、これじゃだめだと思った。目的がないと、頑張れないものだ。
「悠、髪型変えたんだね」
「あぁ……これは……」
厚木さんと今でも繋がっているなら、いずればれる。
「こないだの名刺の美容師に、タダでやってもらった」
「タダで? まじ。体で払えとかなかった?」
「うん、なかったよ」
厚木さんて、その美容師と同一人物かも。
「厚木さんとは、どうなの」
「厚木さんねー……なんか、正直利用されてる感じする。あんまり予備校来ないから、会えないけど、たまにいきなり呼び出されて、やる」
「……」
そんな人なのかと思ったら落胆する。
「デートとかはないよ。やっぱり、遊ばれてるよね私」
「好きなの?」
「わかんない。やると流される。好きじゃないかもしれないのに、切なくなったり苦しくなったりする」
わかる。悠は髪を切ってもらっただけなのに、気になっている。きっと好きじゃないのに。
ミカはせっかく久しぶりに来たのに、悠と話してばかりで結局勉強はあまりしなかった。親に怒られたというから、暫くは真面目に来るのだろうか。ミカと話していたい。悠は世界が狭すぎる。彼氏しかいない日常だったから、ミカも秋風も眩しく見えるんだ。
「ねぇ今度さ、ごはん行こう。悠とたくさん話したい」
ミカが嬉しいことを言ってくれた。ミカも越してきたばかりで、きっと孤独なのだ。
しかし、悠が友達と食事に行くのはかなりハードルの高いことなのだった。ミカには、予定わかったら教えるね、と伝えたが、予定がわかったらではなく、彼氏の目をかいくぐれたらというのが本当だ。秋風に髪をやってもらった時は、彼氏は仕事中だった。だから勉強中ということにできたが、食事に行く時間帯は確実に彼氏から追跡される。彼氏は悠が他の人間と関わるのを極度に恐れて束縛するのだ。しかしそれは悠も同じだった。彼氏が他の人間と接するのは嫌だった。職場で仲のいい人物が出来ることを恐れて、なるべく一人作業で、若い従業員がいないところで働いてもらったくらいだ。しかし、この考え方がヤバイのはわかっていた。予備校に通い初めるのも最初は反対された。しかし、何をしたかを事細かく毎日報告すると約束して押しきった。同性の同世代と話すことも嫌がるのに、今の悠の予備校での様子を彼氏が知ったら刺されるんじゃないかと思う。
親と食事に行くことにすればいいかと思ったが、高校を辞めたときに完全に決別した話をさんざん彼氏にはしてしまったことを思い出した。
ひょっとしたら悠は、彼氏のことは好きじゃないのかもしれない。流されているだけなのかもしれない。ミカとの会話を思い出した。でももう付き合っているから、どうしたらいいのかわからない。 ミカや秋風と先に出会っていたら付き合わなかったかもしれない。
ミカはその後少し真面目になって、出席率が上がった。ミカと悠が一緒にいると、公務員の人たちもあずみさんも近寄って来なかった。高認の男子たちと、ミカと悠で一つのグループになったようだった。今までグループを見ると恐怖感に支配されてきたが、友達が出来るとそれも普通だと言うことがわかった。
「あずみさんて、公務員の人といるんだ」
ミカがそっちのグループを見ながら呟いた。暫く来ていなかったので、知らなかったのだ。
「年近いから、話が合うんじゃないかな」
「そっか。それもそうだ」
あずみさんの取り巻きには、秋風もいる。ミカは寂しそうに下を向いた。むこうもむこうで、ミカや悠のことをチラチラ見ては、ヨウ君やあずみさんはたまに手を振ってくる。感じ悪い。今悠達の話をしているのではないだろうか。
「ミカちゃんて公務員の人と付き合ってるんだっけ?」
橋本がいきなり言った。バカ、と思った。
「付き合ってないよ。あの人たち、軽くて最低だよ」
「あぁー確かにね。あの厚木って人とあずみさんて絶対できてるしね」
?
「え、まじ?」
ミカと悠は目を見合わせた。
「……まじかぁ。それはそれは」
ミカの目に怒りが宿った。悠は混乱した。あの人たちは全員あずみさんとできているのか?
「あ、余計なことだった? てかミカちゃんて年上しか興味ないとかじゃないよね?」
橋本はとんちんかんな話を続けようとしたが、ミカはもう橋本の話は聞いていなかった。
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