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42話 消える女性客

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 翌日、とりあえず会って話を聞こうと孔雀さんとの待ち合わせ場所に向かった。少し広めの駐車場へ行くと、すでに孔雀さんは僕達を待っていた。

「おーあんちゃん! ここだここだ。おお、メアリーちゃんも来てくれたのか」

 タクシーの横に制服姿で立つ孔雀さんが手を振ると、メアリーも手を振り返す。

「こんにちは孔雀さん。先日のお礼をまだちゃんとしてなかったから。これよかったら」

 そういって彼女は途中で買った羊羹を手渡した。孔雀さんは和菓子が大好物らしく紙袋の中身を見ると途端に笑顔になった。 

「おっこりゃありがてえ。早速今日のおやつにでも頂くとするか」

 タクシーの中で孔雀さんが一本の羊羹を丸かじりする姿を想像してしまう。なんら違和感を感じないのはなぜだろうか。


「早速ですけど昨日の話を詳しく聞かせてもらっていいですか?」

 メアリーがそう言うと孔雀さんはすっと真面目な顔つきなった。

「ああ。例のお客を乗せたのは昨日の夜10時くらいだった。場所が青山霊園の近くだったからちょっとだけ嫌な感じではあったんだけどな」

「それはやっぱりおばけ的なもの……ですか?」

 僕が恐る恐る訊くとメアリーが孔雀さんより先に答えた。

「タクシーの乗客が消えるっていう都市伝説があるのよコウヤっち。有名なのが青山霊園の話ともうひとつは京都の深泥池みどろがいけの話ね」


 いつものようにメアリーは少し興奮気味にその都市伝説の話をした。青山霊園の話というのはこうだ。

 とあるタクシーが深夜に墓地の近くを走っていると、ヘッドライトの先で一人の女性が手を上げていた。運転手はこんな時間にこんな場所で、と少し不気味なものを感じながらもその女性をタクシーに乗せた。

 彼女は行き先を告げるとそれからはずっと黙ったまま。途中、運転手が何気なくルームミラーを見ると後部座席には誰もいない。驚いて後ろを振り返るとそこには確かに俯いた女性が乗っていた。

 運転手は恐ろしくなったが、なるべく何も考えないようにしながらひたすら目的地だけを目指した。なんとか指定された家の前へと辿り着くと女性はお金を取ってくるので少し待ってほしい、と言い残しその家へと入って行った。

 しかしいくら待っても女性は戻ってこない。仕方なく運転手がその家を訪ねると出てきたのはさっきの女性の母親らしき人物。運転手が事のいきさつを話すとその母親は途端に顔が真っ青になった。そして家の中に案内されると仏壇には先程の女性の写真が飾ってあった。「娘は先日なくなりました」その母親は運転手にそう言ったそうだ。


「京都の方は途中で消えちゃうって話なんだけどね。座席のシートがぐっしょり濡れてたってやつ。コウヤっちも聞いたことはあるでしょう?」

「うん……聞いたことあるようなないような。怪談話はなるべく避けて通ってきたから」

「京都の話はあながち怪談話ってわけでもないのよ~実際その運転手は警察に連絡して捜索も行われているの。一応新聞にも載ったのよ」

 僕は話を聞いただけで背筋が寒くなった。やっぱりここに来る前に神社でお守りをもらってくるべきだった。すでに胸いっぱいだったがメアリーの話は続く。

「この手の話は海外にもあってね、アメリカのシカゴでは消えるヒッチハイカーの霊がいて『復活メリー』っていう名前もついてるの。心霊スポットを巡る観光ツアーもあるそうよ」

 楽しそうに話すメアリー。それに対し頷きながら孔雀さんが言った。

「タクシー業界でもそういう話はよく聞くなぁ。まさか自分が体験するとは思ってなかったけどな」

 なぜかこちらも愉快に笑っていらっしゃる。そんな二人を僕は一歩、いや三歩ほど引いて見ていた。そんな僕をメアリーがぐいっと引き戻しなら孔雀さんに尋ねた。


「とりあえず本題に戻りましょう。その女性を乗せてからどうなったんですか?」

「目黒方面に向かってくれって言われてな、しばらくは普通に走ってたのよ。それで10分ぐらい経った頃かなぁ。ふとルームミラーを見ると後ろに誰も乗ってねぇじゃねえか。慌てて路肩に停めて車内を隅々まで見たがどこにもいなかったんだよ」

 メアリーが顎に手を当ててなにやら考え込んだ。

「う~ん、まさに都市伝説の通りね……。警察には連絡したんですか?」

「いいや。最近は警察のやっかいになりっぱなしだからなぁ。またいろいろややこしくなりそうだろ? そうだ! 車内の映像があるからよかったら見てみるかい?」

「はい、もちろん!」

 メアリーが元気よく返事をし僕らは孔雀さんのタクシーに乗り込んだ。パソコンのモニターに映し出されたのは運転席込みの映像。確かに白い服を着た女性が一人、後部座席に座っている。

「こういう霊的な人達ってどうして白い服着てるんだろう……?」

 僕がぼそっと言うとメアリーがちらっと視線をこっちに移した。

「その話するとまた長くなるからまた今度ねコウヤっち」

「はい……」

「ちょっと早送りするな」

 そう言って孔雀さんが映像を10分くらい進めた。そして再びプレイボタンを押すとしばらくしてノイズが走り映像が乱れた。するとその直後、さっきまでいた女性の姿が忽然と消えていた。

「ひぃ!」

 思わず小さな悲鳴が漏れた。そんな僕には目もくれずメアリーは何度も映像を見返していた。

「このノイズは霊障みたいなものかしら……これだと消える瞬間がわからないわね」

 彼女はうーんと唸っていたが、突然ぱっと僕の方を見て言った。

「コウヤっち。ナクトを使ってみよう」


 その時、羊羹を手にしていた孔雀さんが怪訝そうな表情で僕らをじろりと見た。




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