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08. 悪役令嬢は、宰相殿がお嫌い
しおりを挟むエリーゼ こっちに来てよ
なぁに
みて!おほしさまがおちてるんだ
おほしさま?
そうだよ!ほら
まぁ、これは七色てんとうね
七色てんとう?
そうよ、ほかの生き物に食べられないように、ぴかぴか光ってびっくりさせるの
へ~!ぼくもぴかっと光れる?
……ふふ、あなたならできるかもしれないわね
そっかぁ、じゃあぼく
大きくなったら、エリーゼの七色てんとうになるよ――
………こんやく?
突然の言葉、突然の登場、険悪な雰囲気。
何もわからぬ子どもたちは、人形のように唯々話を聞くばかり。
「イレーナ、君は――」
ついに顔色を悪くさせた宰相は、抵抗しようと羽ばたくが、それすらすでに虫の息。
黒薔薇の裁判官には、この場の誰も勝てぬのだ。
「今日の騒ぎを見て、国王陛下と考えたわ。この先、この国を支えていくのに、何が必要なのか。――貴方と殿下は、頑張りすぎてしまうから。叱ってくれる人が必要なの。私たちがいなくなった後、支えてくれる、一緒に進んでくれる、そんな人が」
バチン。
長く黒い睫毛が蠱惑的に伏せられた、彼女の扇を打つ音が響く。
「よって」
赤い唇が紡ぐ言の葉。
バチン。
何かを思い出すように。
「国王陛下、皇太子殿下の名の元に」
バチン。――
黒薔薇は気高く歌う。
「ユクレール王国宰相、シルヴァン・オーギュスト。ヴィシャス公爵家嫡女、フィアンナ・ヴィシャス。この両名の婚約を」
ここに、――証明します。
「お母様」
ころり。
飴玉のように転がる一言が、静寂の中にとろけて消える。
何かがずれていく
私のせいでずれたのか、ずれたせいの私なのか
物語は「白薔薇の花嫁」を離れ
別の物に
知らない物語が動いていく
この先は私すらも分からない
「フィアンナ」
眠ったアリスは赤の女王ではなく、
「『王子様』を夢見るのは終わり。貴方は今日から、この国を背負う」
黒の女王に背中を押される。
「未来の宰相夫人に、なるのよ」
だが悲しいことに、眼鏡の壊れた白兎。
「何を――勝手なことを!」
黒を赤と間違えて。
「――俺は誰とも婚約などせんッ!」
白を赤と間違える。
「こんな――こんな馬鹿げた話」
そうして。
「誰がお前のちんちくりんな娘などと!」
白いアリスを怒らせた。
ち。
ちんちくりん?!
「さ、宰相殿。それは、どういう、意味かしら」
堪り兼ねたちんちくりんは、ひくひくと青筋を浮かべて質問をすると、白磁期のように美しい顔を乱れさせた宰相がその声のするほうへ烈火のごとく怒りを投げつける。
「言った通りだ!なぜこの俺が、貴様のような」
ちんちくりんで!
グサッ
抜けていて!
グサッグサッ
何も取り柄のなさそうな!
グサッグサッグサッ
「18も年の離れた娘と!婚約などせねばならんのだッ!」
………………。
ハーハー。と肩で呼吸をした宰相は、怒りのほどをぶつけ終えたのか。くしゃりと前髪を片手で搔き上げるとハッ、としたような様子であたりを見回すがもう遅い。
「ハハハハハ」
目に涙を浮かべるほどに腹を抱えたカアン国王。
「……さ、宰相殿」
悲しいやら怒るやらで表情が忙しいアルバート公爵。
「……やっと、本音が出たわね」
やれやれと扇をはためかせるのはイレーナ公爵夫人。
「し、シルヴァン……?」
慕っていたシルヴァン宰相の変貌に不安げに目を瞬かせるルカ殿下。
「………………」
困ったように微笑む執事のジェラール。
そして。
「……ふぅん」
「そ、ん、な、風に。思っていらしたのね」
びきびきと顔を痙攣させるちんちくりん。
「そう、そうなの。素敵な人だと思っていたけれど私のこと、そんな風に考えていらしたのね」
がたりと椅子から立ち上がり、つかつかつかと足早く顔色を悪くさせた宰相の間近近づいていく。
その只ならぬ雰囲気に冷や汗を垂らす宰相殿。
「こ、これは違――」
「違おうが違うまいがどっちだっていいわ」
フィアンナは宰相の長髪をぐいッと引っ張ると自分の顔へ無理矢理に近づけさせた。
髪の毛を引かれれば手綱を引かれる動物のように、首を垂れるしかないのが世の常。
当然、宰相殿も例外ではない。
「い”ッ!?」
ここまでコケにされたのよ
「私決めたわ」
こうなったら
「貴方と」
宰相殿と
「婚約するわ」
ハッピーエンドを目指してやろうじゃない!!
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