人生の時の瞬

相良武有

文字の大きさ
62 / 63
第1話 真珠と海と誇りと

②有色人種を露骨に差別した白豪主義の時代だった

しおりを挟む
 だが、有色人種を露骨に差別した白豪主義の時代だった。
それは白人最優先主義とそれに基づく非白人への排除政策であった。イスラーム教徒や黒人、先住民族アポリジニや東南アジア諸国民、メラネシア人などへの迫害や隔離など人種差別が行われていた。異民族間の結婚も凡そ一割が認められなかったのである。
 ランチに入ったレストランでは、見晴らしの良い窓際の明るい席が空いていたが、案内されたのは壁際の暗い小さなシートだった。
「あそこの窓際の席が良いんだけど・・・」
大島が明るい席を指差して異議を唱えると、ウエイターがぴしゃりと拒絶した。
「あそこは白人席です。白人以外は座れません!」
ウエイターはあからさまに嫌な態度を示し、オーダーもなかなか取りに来なかった。
その態度に腹を立てた大島はとうとう彼にチップを支払わなかった。
 数日後に入った映画館でも、白人の席は前部、アポリジニは最後部。二人が座ったのはその中間の横側だった。
 二人の結び付きを強めたのは差別される者同士の共感と憤りだった。白人が頂点で、次がアジア系。エラのようなアジア系とアポリジニの混血は「雑種」と呼ばれた。
 店のレジ係として働いていたエラは暗算に自信を持っていたが、或る日、白人たちに言い掛かりをつけられた。
「勘定がおかしい。お前がそんなに早く出来る訳が無い」
客の眼の前で丁寧に筆算するとエラの暗算は間違っていなかった。客はようやく納得して帰って行った。
 肉屋に買い物に行くと、くず肉が廻って来た。
「今日はお祝いの日なの。ヒレ肉の良いところを下さい」
「お前たちに売ってやれる肉はこれしか無いんだよ!これを持ってさっさと帰んな」
大島もエラと同じように蔑まれ、虐げられた。
「そいつにパンフレットを渡す必要は無い。どうせ英語が読めないんだから」
「英語くらい読めるさ。一枚呉れよ」
「喧しい、黙れ!ジャップ!」
 或る時、酒場でふとしたことから白人に、やにわに、顔に酒を浴びせかけられた。
ウッとなった大島は静かにポケットからハンカチを取り出して顔を拭うと、猛然と白人に殴りかかって行った。最初は白人に比べて小柄な大島が掴まえられて床に転がされたが、直ぐに起き上がると、繰り出されるパンチを巧みに躱しながら、強烈な左フックを相手の鳩尾に見舞った。ううっと呻いて前に屈みこむ相手の顎を今度は下から右のアッパーで突き上げた。白人の大男は仰向けにひっくり返って床に尻もちをつき、それっ切りもう立ち上がっては来なかった。大島は一人静かに店を後にした。
それからは大島に対して誰も「ジャップ!」と蔑まなくなった。

 だが、その他にも有色人種に対する白人中心主義の差別はまだまだ在った。
 タクシーを拾うのに一苦労した。空車に手を挙げても停まって呉れなかった。後から手を挙げた白人をさっさと乗せて走り去るだけだった。
 レストランから出て来て迎えの車を待っていると、知らない人間から駐車場係と間違われて車の鍵を預けられた。
蝶ネクタイの礼装でディナーに出席した折には、ウエイターと間違われて、コーヒーを持って来てくれ、と頼まれた。
 休日に、ジャンパーにジーパンという伊出達で街を歩いていると、警官に強盗と間違えられて手錠を掛けられた。
 真珠養殖の会社を興した際も、真珠貝採取の割当量は白人の企業よりも少なかった。
大島はエラに何度となく言った。
「白人を殴り倒したい衝動を何度押し殺さなきゃならないんだ!」
悔しさを露わにして、エラも語気を強めた。
「日本は世界で一番養殖技術が進んでいるにも拘らず、未だに差別する人が居るのは許せないわ」
だが、大島は信じていた、真実は自分たちの方がよほど優秀なのだ、と。
エラは彼の静かな誇りにより一層惹かれて行った。
彼女は友人たちに事ある度に話した。 
「色んな人に言い寄られたけど、彼が一番洗練されている。とても波長が合うの」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...