愛の裏切り

相良武有

文字の大きさ
80 / 99
第三話 愛の虚妄

⑧次郎は麗華の肉体に淫した

しおりを挟む
 二人の関係が度重なるにつれて次郎は麗華の肉体に淫した。それを留めようとしながら、結局、彼女は己の全ての底の底に在る渇えたような自分をどうすることも出来なかった。彼女が徐々に教え込んだ愛技で互いに求め合い満たし合いながら、麗華はふと自分の誤算に気付いて狼狽えた。嘗て満たされ合いと共に育って行った沢本に対する思慕の情を、相手を変えて次郎に求める時、彼女は自分の教え込んだ愛技の故に、次郎が最早や引き留め難くその技にだけ淫してしまったのを覚った。
 やがて冬が来て何かにつけて不便な季節になっても、次郎は週に一、二度は麗華の元へ通った。麗華が歳をとった訳ではない。唯、沢本よりも若々しく粗野な次郎のエネルギーは、沢本が麗華に教え麗華が彼に伝えた性愛の技を外れても、その激しさだけで麗華を逆に引き摺って行きさえした。そして、彼女は最早それに溺れても居た。それは、嘗ての実体の無い愛の虚妄に縛られた麗華の愛における一つの反作用であった。彼女が今得たものこそが、また異なった一つの全き愛であったのである。が、それでも彼女は時折、不安になった。彼女が企てて始まった次郎との交渉がこういう形となった今では、二人の関係の主導権は何方に在るのか、麗華には覚束無かった。嘗て麗華が虚妄に支配されて傅いた誤算が、今また次郎の肉体について繰り返されているのだった。彼女は又しても彼との交渉の中で、次郎に対する渇きの内に自分自身を見失って行った。だから麗華は、次郎とのベッドの中の会話の内で沢本について語り、沢本が嘗て彼女に教え、それを最も素晴らしいと彼女も信じたことを次郎に話して聞かせた。次郎は、麗華の期待した嫉妬の表情も現わさずに、黙ってそれを聴いていた。彼はベッドを離れた時、ちょっと胡乱な眼差しを麗華に向けただけだった。
 その後、二週間も顔を見せない次郎を、麗華は、きっとあの夜にベッドで語った沢本との経緯が思った通りに彼の胸に強い嫉妬を呼び起こしたものと思い込んだ。やがてはやって来る次郎を、彼女は余裕を持って迎えることが出来ると思った。
だが、次郎は一向に現れなかった。焦燥と懸念に気が落ち着かない日々を過ごしながら、姿を見せない彼を思うと、麗華は前には得手勝手に自分で納得させていたことが全て誤算に思え、逆に彼に対する思慕とも渇望ともつかぬ苛立ちが彼女の肉体を責めて苛んだ。だが、そうした苛立ちが決して嫉妬にならなかったところに、彼女の一人勝手な愛の仕組みが有ったのである。
堪りかねた麗華は所用に託けては街中へ出かけ、次郎の姿を探したが出逢うことは無かった。その都度、益々、身を締める苛立ちに今まで感じたことの無い一種の屈辱を背負って彼女はまた広い大きな邸宅へ帰った。
 麗華が気にしつつ待っている間にじりじりと一週間が過ぎた或る夕刻、彼女が入浴していると、浴室の窓を叩く音がした。恐る恐る窓を開けると次郎が立っていた。何処を通って来たのか肩で大きく息をし、頬に小さな掻き傷があった。裸を見られる羞恥も忘れて中へ招じ入れた麗華に次郎がにっこり微笑って言った。
「漸くやって来たよ」
そのまま掻き抱いて唇を合わせる中、次郎に窘められて麗華は着衣に奥へ入って行った。
その後、次郎と抱き合った彼女は久方振りに満たされ乍らも、先日来抱いて来たものとは全く別種の焦燥を感じた。次郎は彼女が教え込んだ愛技とはまた違う技で彼女を引き回した。そうした不意打ちに狼狽しながらも次郎の思うままに求められ、与えて、ことは終わった。その焦燥が当ての無い嫉妬であるなどとは一本気な麗華には判らなかった。
 次郎はそれ切りまた姿を見せなった。
麗華の肉体の内を得体の知れない幾種類もの苛立ちが駆け巡り、彼女は独りで居ることの淋しさに晒された。
 また春になって、気の入らない庭園の手入れを麗華が始めても次郎の姿は無かった。少し東の農園へ行けば彼が居ることは解って居ながらも彼女にはそれが出来なった。次郎が初めて一人で彼女の処へ来た時に掘り起こしてくれた球根を植えながら、麗華は自分の口から嘆息の漏れるのを聞いた。球根を一つ一つ手で埋めながら、こうしてまた次郎との思い出を己が手で埋めてしまうのだろうか、と思うと、思わず手が土を離れ、屈んだままよろめく躰を虚しく地に支えた。毎春行って来た樹木や花壇の手入れが限り無くただ疎ましい繰り返しに思えてならなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

真面目な女性教師が眼鏡を掛けて誘惑してきた

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
仲良くしていた女性達が俺にだけ見せてくれた最も可愛い瞬間のほっこり実話です

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...