【天才アスリート少女】普通男子と天才少女の物語【普通男子の武道家】

里見 亮和

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ウィリス未惟奈に友達宣言!?

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「女子を壇上から落とすとか、ありえないだろ?」

「お前、TV局来てんだからもっと空気読めよ?」

ウィリス未惟奈が体育館の壇上から落下するという”事件”の後、俺はこんなセリフを何人もの生徒に浴びせられることになってしまった。

つまり無理やり押し付けられたあの”事件のおかげで”入学早々に学校からは「天才美少女アスリートを痛めつけた残虐非道な男」もしくは「空気の読めない痛い男」として「ヒール認定」されてしまったという訳だ。

でもそんな感想を持たれてしまうのはよく分る。

俺だってもし傍から”あの場面”を見ていたらきっと同じ印象を持ったに違いない。

しかも体育館に集まった生徒のほとんどはウィリス未惟奈を”天才空手家”というよりは”美少女スポーツタレント”として認識している。

実は彼女の空手技術が有栖天牙のような神童をも一撃で沈める実力があることをほとんどの生徒は知らない。

だから俺がいくら必死になって「本気出さなければ、俺が病院送りにされていたんだぞ!」などといい訳(というかおそらく事実)をしても誰も聞く耳は持ってくれなかった。

そんな時である。

「おい、翔?マジやべぇぞ!?」

朝のホームルーム前に、慌てて声をかけてきた男子生徒がいた。

彼は中学からの腐れ縁でこの北辰高校に進学してきた及川護(まもる)だ。

クラスは確かウィリス未惟奈と同じ五組だったはずだ。

「よう護、どうした?」

「ウィリス未惟奈が激怒して、お前を呼んで来いって息まいてるんだけど?」

「はぁ?未惟奈が?なんでだよ?」

「俺が知るかよ!というかお前ちゃんと謝ったのかよ?あの体育館でのこと。」

「当たり前だろ?とっくに謝ってるよ」

「じゃあ、なんで彼女はあんな怒ってんだ?」

「知るかよ!全然心当たりないんだけど??」

「ってかさ、お前。謝ったってことはウィリス未惟奈と話したの?」

「そりゃ話さなければ謝れないだろ?」

「お、お前いつの間に抜け駆けしやがって!!俺なんて同じクラスなのに今日初めて話しできたと思ったらいきなり激怒だぞ?しかもお前のせいで!」

「知らねぇよ!」

「でもお前さ、彼女マジ激昂してるんだけど大丈夫なのか?」

さてさて、なんなんだ?

体育館の件は父親のエドワード・ウィリスと一緒にあれほど”気にするな”と言っていた訳だから今更その話を蒸し返しているとは到底思えない。

かといって”その件”以外に俺と未惟奈の絡みはないからなあ。

「いいから、とにかく廊下で待ってるから早く行けよ」

まあ、考えても仕方ない。

直接聞いてみるか。

俺は教室で今の話を盗み聞いていたであろう複数のクラスメートから憐みの視線を向けられながら廊下に向かうことになった。

俺が廊下に出ると確かにそこにウィリス未惟奈がいた。

「翔!!あんたどうなってんのよ!!」

未惟奈は俺の姿を見るなりいきなり大声で怒鳴りつけてきた。

その怒声に廊下中にいた生徒の視線が集まった。

確かに未惟奈は怒ってる。それは間違いない。でもなぜだ?

「ちょ、ちょっと待て、なんでそんなに怒ってんだよ?この前の件は気にするなって言ってたろ?」

「そんなこと言ってんじゃないわよ!!」

「え?どういうこと?他になんかあったっけ?」

「なんで翔が空手部にいないのよ!!」

「はあ?」

「昨日の放課後、空手部に顔を出したのよ」

「え?なんで?」

「なんで!?あなた私をバカにしてるの?」

「いやいや、全然話が見えないんだけど?」

「空手部に入部するからに決まってるでしょ!!」

「はあ!?……おまえ空手辞めんだろ?」

「辞めないわよ!」

「え?え?どうして?」

「だからこの前保健室でいったでしょ?」

「なにを?」

「よろしくって!」

確かにそんなこと言っていた気がするが、それは単なる挨拶がわりの「よろしく」であってそれ以外の意味はないだろう?

「え?何をよろしくなんだよ?」

「バカじゃないの?あの会話の流れで言ったら、あなたが私に空手を教えるってことでしょ?」

何と言う独善的な解釈なんだ?チヤホヤ育てられて15年もするとこんな人間が出来あがるのか?

俺はだいたい状況がつかめてきた。

「あの会話の流れでなんでそうなるんだよ?おまえそれはおかしいぞ?」

「さっきからおまえ、おまえ言わないでよ!この前ちゃんとウィリス未惟奈って名乗ったでしょ!」

「ああ、悪い。じゃあ未惟奈。誤解があるようだけど、俺はそんなことは全く考えていなかった」

「だ、騙したの?!」

「だから騙してない。未惟奈の勘違いだ」

「でもあなた空手部の説明会で壇上にいたじゃない?」

「……あれは訳があって」

「ほら嘘ついてる。翔は空手部じゃないんでしょ?」

「まあ、そうなんだけど……」

なんだよ?なんで俺が後ろめたくなってるんだよ?

別に俺が空手部であることを偽ったのは、無理やり吉野先輩のお願いを聞いたまでだ。

少なくとも未惟奈には何の実害もない話だ。

そこまでの考えに至ると、さすがに腹が立ってきた。

「言わせて貰うけど、勝手な言いがかりは止めろ。俺が空手部にいないことなんて未惟奈には関係ないだろ?自分勝手に解釈して相手に罵声を浴びせるなんて失礼極まりないぞ?」

「わ、私が悪いと言うの?!」

「そうだよ」

「だ、だったら空手も教えてくれないの?」

俺が顔を出してから噛みつかんばかりに、挑みかかっていた未惟奈の声が少しばかりトーンダウンした。

そしてなんと顔が見る見る泣きそうになってきてしまった。

なんだよ?今度は俺がいじめっ子みたくなってるじゃないか?

俺は未惟奈の表情の変化につられて怒りの勢いをそがれてしまった。

「そ、そうは言ってない」

「意味分かんない」

完全に未惟奈はむくれてしまった。

しばらく気まずい沈黙がつづいてしまったことに耐えられなくなった俺は、疑問に思っていたことを未惟奈に尋ねた。

「そもそも、未惟奈は空手辞めるって聞いてるけど、なんでまたやることになってんだよ?」

「そんなの決まってるでしょ?」

「決まってる?どういうこと?」

「翔はホント鈍くて困る」

「俺はスポーツ記者でも格闘技ライターでもないんだから未惟奈の最新情報なんて知らないから」

「そうじゃないでしょ?むしろ今は翔しか知らないし」

「え?俺しか知らない?」

「だから、翔が私を倒したから……もう少し空手を続けようと思ったのよ」

「なっ!……なんだって?!」

俺が原因!?

なんでそうなる?

そもそも未惟奈がなんで空手を始めたかすら俺は知らないけど、未惟奈程の天才アスリートが空手にそんなこだわる理由はないだろう?

「もしかして、未惟奈って空手が大好きとか?」

「え?……それは嫌いなら始めてないわよ。でも大好きとかではない」

ますます分らん。

でも俺は重大なことに気付いてしまった。

未惟奈の言葉を信じるならば、未惟奈が空手を辞めないという事実を知るのは、現時点で俺だけだ。

未惟奈が空手を引退するということすらスポーツ紙のトップ記事になる程の”大事件”だったのにそれがまた”引退しない”となったらスポーツ界に激震が走るはずだ。

スポーツ界では未惟奈が高校に入学したことを契機に、いよいよメジャースポーツに転向すると期待している。

果たして何のスポーツに転向するのか?父の後を継いで陸上か?それとも母の後を継いで新体操か?はたまた他の種目もあり得るのか?

こんな世間の注目があるからこそ、高校の部活動説明会にTV局が入って、未惟奈の動向をウォッチしていた訳だ。

そう言った意味では俺との対戦なんて未惟奈を演出するためのおまけに過ぎなかったはずなのだ。

未惟奈はまだ不貞腐れつつ、思わず吸い込まれそうになるくらいに大きく、そして綺麗なブルーの瞳を俺に向けていた。

「だ、だから結局、未惟奈はどうしたいんだよ?」

「さっき言ったでしょ?空手教えてよ」

「ならもっと分りやすく最初からそう言えよ」

「教えてくれるの?」

「べ、別に断る理由はないよ」

そう俺が言うと未惟奈はほんの少しだけ口角を上げてちょっとだけ嬉しい仕草をした。

「でも、なんで翔はそんな文句ばっかり言うのよ」

「未惟奈が文句言われる様なこと言ってんだよ。だから友だちとしてそこはキッチリ指摘やったってこと」

「友だち?」

勢いづいた俺は、調子に乗って自分から友だち宣言してしまった。

でも、こうなったら開き直るしかない。

「そうだよ、友だちだよ。この流れで言ったらそうだろ?違うのかよ?」

「いや、そうなんだ……あ、ありがとう」

ありがとう?

なんでありがとう?

未惟奈のリアクションに少しだけ心拍数が上がってしまったことに、俺は激しく動揺してしまった。

クソッ!何の予感だよこれは?……全く。
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