【天才アスリート少女】普通男子と天才少女の物語【普通男子の武道家】

里見 亮和

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ウィリス未惟奈が生きるスピード

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その場の雰囲気に流されて、俺は後先考えずにウィリス未惟奈に「空手を教える」ということを約束してしまった。

あんなにも烈しく理不尽な言いがかりを浴びせてきた未惟奈が、急に「教えてよ」と涙目で懇願するというまさかの”ギャップ萌え展開”に、俺はまんまと乗せられてしまったのだ。

未惟奈が意識的にそんな”あざとい”ことをするとは思えないので、逆に”天然”でそれをやられると、その破壊力は意識的な”あざとさ”の比ではないことを思い知った。

さて、どうしたものか?

未惟奈に空手を教えるといっても『いつから?どうやって?』ということすら全くノープランだ。それこそ未惟奈が勘違いしたように俺が空手部に所属していれば『部活動の中で教える』ということで話は早かったが、俺はこの先も空手部に入部することは全く考えてはいない。

もちろんそれ以前に「あなたの実力ってこの程度だったの?」と一蹴される線もかなりの可能性で残っている。

…… …… ……

俺は結局放課後までにこの件について明確な答えを得ることができず、今日のところは”保留”ということでこの問題を棚上げしていた。

しかしである。

俺は下駄箱で靴を履き替えてから校舎を後にして校庭の東側にある校門の前まで来た時、校門の前で待っていた一人の少女に思わず”ぎょっ!”とした。

「ちょっと、なにモタモタしてたのよ?待ちくたびれたじゃない?」

待っていたのはなんと未惟奈である。

「え~と……俺は待ち合わせた記憶ないんだけど?」

「ホントさあ、翔って保健室でもそうだったけど、色々鈍いよね?」

ほらほら、また始まった。これではまた今朝の”事件”の繰り返しではないか?

この様子では、ウィリス未惟奈の中ではどうやら校門で俺と待ち合わせをしたことになっているようだ。

「だから今朝の会話をどう解釈すれば放課後校門で待ち合わせるという結論に辿りつけるんだよ?」

「だって私はそのつもりだったもの」

この自己中心的な発想はどうにかならんのだろうか?。自分がそのつもりだっただと?

「そんなの知るかよ」

自然と俺の返事は怒気を含んだものになっていた。

「なんで翔は直ぐに怒るのよ。怒ることはないでしょ?」

「だ、だっておまえが……」

「またおまえって言うし」

既に未惟奈は今朝のように涙になりはじめている。なんでまた俺が後ろめたくなって……おんなじパターンじゃないか。

「とにかくいきましょうよ」

「え?どこに?」

「空手教えてくれるんでしょ?」

「これから?どこで?」

「どこだっていいわよ!」

「いや、どこでもって俺の部屋に来たって空手はできないぞ?」

「誰が翔の部屋に行くって言ったのよ?イヤラシイ」

「バッ……そ、そんなイヤラシイとかそんな邪なこと考えてねえから」

全く、未惟奈と話していても全く話がかみ合わない。もう話が吹っ飛び過ぎていてとてもじゃないがついていけない。

「そもそもさ、たったあれだけの対峙で空手教えてくれとか、ちょっと俺のこと買いかぶり過ぎじゃないか?」

俺はずっと気になっていたことを思いきって切り出してみた。

「それは翔が気にする必要はないから」

「なんでその答え?……だからその独善的なところ直せって、教える側の俺が気にする必要がないってことはないだろう?」

「何よ、また友だちだから”敢えて苦言”とか言い出すの?」

「だってそうなるだろう?」

俺がそこまで言うと未惟奈は心底あきれ顔になって”はぁ”とばかりにため息までついてしまった。

すると未惟奈は急に今までとは雰囲気をがらりと変えた。そして急に鋭い視線を俺に向けてきた。

俺はその目を見た瞬間、”ゾクリ”と一瞬寒気の様なものを感じた。

「きっと翔は私のハイキックを予想していた……おそらく有栖天牙を倒した技で手っ取り早くあの場を済ませようと私が考えていると思ったでしょ?だから最初の一撃をかわして様子を見たかった。違う?」

な、なんだと?

きっと俺の顔は一瞬で蒼白になっていたに違いない。それはつまり未惟奈が今語ったことは俺がまさに対戦前に想像していたことと寸分違わなかったからだ。

「でも蓋を開けてみると、私があまりのスピードで間合いを潰したから考える暇もなかった。そうよね?」

「……」

俺は目を見開いて、ただただ沈黙するしかなかった。なぜ未惟奈はそれを知っているのだ?

「きっと私もあなたを甘く見てたのよね。あそこまで距離を潰せば普通の空手家は何もできなくなるはずと思ったんだけどね」

俺はゴクリと唾を呑みこんでこの動揺を納めることに集中するしかなかった。

「でもあなたは咄嗟に私の軸足に足刀を入れたわよね?あそこであなたが足刀ではなくセオリー通りローキックの合わせ技を使えば、私はバランスを崩すことはなかった」

ウィリス未惟奈は空手を始めてまだ半年余りのはずだ。なのになぜこれ程までの分析が出来るのだ?確かにハイキックにローキックを合わせて軸足を刈るのが本来のセオリーだ。未惟奈はそれすらも予測して、”あの距離”まで意図的に接近したというのか?

「でもあなたが、普通の選手と違って異様に広いスタンスだったのを見逃してたわ。だから翔は身体を後ろにスウェーするだけで”足刀が蹴れる”距離を咄嗟に作りだせてしまった」

俺は驚愕のあまり足がガクガクと震えた。いや驚愕なんてものじゃない。もう恐怖と言っていい。

未惟奈はあの短時間の状況をどうして既に分析できているのだ?あり得ない。

「も、もしかしてあの時の映像を早速手に入れて分析したのか?」

「なに言ってんの?そんな面倒なことする訳ないでしょ?あの時見たまんまを言ったまでよ」

ありえない。

俺の記憶は未惟奈の二つの青い瞳と彼女のつま先がものすごいスピードで近づいてくる映像だけだ。それ以上は何も覚えていない。いや見えてすらいない。

”俺がこの未惟奈に教えるだって?”バカなことを言うな、こんなことを一瞬で理解する未惟奈に俺が教えることなんて何もない。

「申し訳ないが俺は、あの一瞬でそこまでの分析は出来ていない」

「でしょうね」

「は?でしょうね?」

「そうでしょ?だからこそ翔は無意識にあの技を選択できたんじゃない」

「どういう意味だ?」

「見えてたら反応は遅れていた。それはそうよね?見てから反応してて私の攻撃を避けられる訳ないもの」

「言っている意味が分らないんだけど?」

「だから!!……あなたは意識しなくても、無意識に最上の技をチョイスできるだけの技が身体に染みついているってことよ」

未惟奈の、俺よりも俺のことを知っているかのような口ぶりだ。

「私はね、そこまで分ってて翔にお願いしてるの」

「……」

俺は、ただただ間抜けに口を半開きにしたままフリーズするしかなかった。

「あははは、なんか面白い、翔。ポカンとして」

「い、いや、ポカンとするしかないだろ?」

俺は歪みまくった苦笑いを作って、辛うじてそれだけの言葉を返すのが精いっぱいだった。

ウィリス未惟奈の才能をまだまだ理解しきれていなかった。彼女はただ身体能力を頼りにスピード、パワーに頼って空手をしていたのではない。

彼女の才能は身体能力に留まらない。その世界級の身体能力を自在に操るために、それに見合った超高性能の頭脳を兼ね備えていたのだ。

”たった一ヵ月で有栖天牙を一撃KOした”

この事実はまぎれもない事実だが、それでも”まぐれ””ラッキーヒット”と語る多くの専門家はいる。

でも決してそうではない。間違いなくウィリス未惟奈はあの時点ですでに身体能力だけでなく技術的にも有栖天牙を凌駕していた。

あの時俺と対峙した”たった数秒”ですら、あれだけの学びをする未惟奈が一ヵ月も学び続けたらどうなるのか?

想像しただけでも恐ろしい。

有栖天牙と対戦をした未惟奈は「たった一ヵ月しかキャリアがない素人」ではなかったのだ。あの試合は未惟奈と言う天才が「一ヵ月という長いキャリアを積んでしまった」という結果起きた必然だったのだ。

俺と未惟奈は会話が最初からかみ合わなかった。

その意味もハッキリした。頭の回転の早さももちろんあるだろう。でもきっとそれだけではない。

彼女と俺では生きるスピード感が違うのだ。未惟奈は空手の技を学ぶために直ぐに俺との距離を詰めて、俺から学ぶことを約束し、そして放課後には「今日から教えろ」と言ってくる。

彼女はこのスピード感ですべてのスポーツを学んで来たのだ。

格が違う。これが本物の天才なのか?

「翔?大丈夫?ずいぶんとショックを受けているようだけど?」

そう言った未惟奈はやけにニヤニヤと楽しそうだ。

クソッ!

「人がショックを受けているのに、そんなに楽しく笑うとかどんだけSなんだよ?」

「あ、酷い!今の発言はアウトだぞ!でも翔って……ちょっといじめたくなるキャラなんだよね?フフフ」

そう笑った未惟奈の顔は、やっぱり美少女のそれであって……

俺は確かにショックで震えていたのだが、不覚にもその笑顔に”ドキリ”としてしまった。

しかし俺はもう観念するしかない。きっと未惟奈が俺の空手技術が必要と判断したのならきっとそうなのだろう。情けないがそこは俺が判断する必要はないようだ。

「ところでさ、翔の欠点教えてあげようか?」

未惟奈は、俺をやり込めたことがよほど気分が良かったのか、すっかり上機嫌でそんなことを言い出した。

「え?もういいよ……俺は欠点だらけだよ。もうセルフイメージボロボロだぞ?どうしてくれるんだよ?」

「それそれ!それだよ!」

「は?」

「だから、翔の欠点。翔はもっと自分が凄いってことに気づいた方がいいってこと」

「いいよ、気を使わんでも」

「気なんか使ってないわよ?私はね、自慢じゃないけど人を見る目はあるんだよ?」

「ああ、そうだろうな」

「だからこんなに会話をするのだって限られた人だけなんだから」

それを聞いて、未惟奈がクラスでほとんどクラスメートと会話をしないという及川護の話を思い出していた。

「じゃあ、俺はそんな”ウィリス未惟奈さま”に選ばれてしまった幸運なひとりだったりするのか?」

「もちろん私にとって翔は特別よ?」

校門で未惟奈と会ってから驚愕の連続で動揺しまくっていた俺だが、最後のこの言葉を聞いた時に最も動揺してしまったのは……空手家よりも前に俺も普通の高校生男子という事なのだろう。
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