【天才アスリート少女】普通男子と天才少女の物語【普通男子の武道家】

里見 亮和

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君だけの秘密

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「何の冗談言い出すんだよ?」

 あきれ顔でそう応えられていれば、全く問題はなかったのだ。

 おそらく友人の及川護から同じ話しをされたなら間違いなくそう応えて笑い飛ばすことができたに違いない。

 俺と檸檬のたったあれだけのやり取りを見て”弟の俺が姉の檸檬のことを女性として好きだ”なんて突飛な結論に到達できるなんて普通は思いもしない。

 だから焦る必要なんて決してないはずだった。

 だが、これを指摘したのがあの対戦を一瞬で分析してのけた未惟奈ならどうだ?

 彼女のあの分析力は僅かな俺と檸檬のやり取りで何かを感じ取ってしまったのではないかと想像するに足る能力であった。

 だからこそ俺は不覚にも動揺し、言葉を失ってしまった。

「ど、どうしたのよその顔?また逆ギレ?ホント翔は怒りっぽくて困るよ」

 なんと俺が誤魔化すより先に未惟奈が先に、冗談混じりの口調で話を茶化した。

 未惟奈のことだ。

 きっと自分で踏んではいけない地雷を踏んでしまったことに即座に気付いたのだろう。

「な、なに意味不明なこといってんだよ?」

 俺は未惟奈が茶化してくれたことで、強引な作り笑顔でなんとかそこまでの”誤魔化しのセリフ”を吐くことができた。

 あれ程までに自分のペースでズケズケとモノを言う未惟奈が、急にオロオロとする姿が少し滑稽に見えた。

 まあ、俺もだからといって、そんな慌てた未惟奈を見ても面白おかしく笑える程に余裕はないのだが……

 結局、気まずい雰囲気を引きずったまま、未惟奈が最初から”アタリ”をつけていた『市民体育館』のレクレーションルームを借りて”俺が空手の指導をする”という当初の目的は遂行することになった。

 この体育館は立地的にも、俺たちが通う北辰高校に隣接していて、なによりも利用料が一人時間100円というのがなんともリーズナブルで高校生には都合がいい。

もちろん未惟奈のようなセレブリティーにそんなことは全く関係ないのかもしれないが。

 未惟奈は、体育館に入るや更衣室に直行し、予め準備していたであろうウェアーに手早く着替えてレクリエーションルームに入ってきた。

 未惟奈は空手練習生がよくするように下半身には空手着を纏い、上半身は有名ブランドのロゴが入ったトレーニングウェアを着ていた。

身体にフィットしたコンプレッション気味のそのウェアは未惟奈の体形を否応なしに浮き彫りにさせていた。

そしてその姿は鳥肌が立つほどに美しいものだった。

 この地球上で”動く”ということに特化して鍛え抜かれたその均整のとれた肉体の美しさは、例えばモデル等のスタイルの良さとは全く異質な”美”というものを感じさせた。

 俺はと言えば、もちろん何の準備をしてはいないので、ジャケットと靴下を脱いだだけという中途半端な”いでたち”でかなり残念な感じになってしまっている。

とても空手を指導する側に見えないのがなんとも情けなかった。

「翔?イヤラシイ目で見ないでくれる?」

 未惟奈がそんな軽口をたたいて来た。

 気まずい雰囲気をなんとか解消したいとの未惟奈の配慮なのだろう。

 俺は少し悩んだが、さっきの動揺も収まりつつあったので”わだかまり”は先に解消しておくという選択をすることにした。

「別に未惟奈の身体にそんな興味はないって」

「あら?それ酷くない?」

「バカ、そこは”翔は檸檬さんしか興味ないものね?”と返すべきだろう?」

 俺は精いっぱいのやせ我慢でそう応えた。

 するとさすがに未惟奈は固まってしまった。

「そ、それ言っていいの?」

「良いも悪いも、さっき自分で言いだしたことだろ?」

 さすがに未惟奈は”バツが悪そうな顔”になった。

「だ、だって私は単に翔がシスコンの気がありそうだから、少しからかってやろうと冗談で言ったのに、あんな顔するから……」

「そうか、やっぱりあそこで俺が適当に誤魔化しておけばよかったんだな」

「ご、誤魔化しておけばってことは……その」

「ああ、さすがに未惟奈の直感力にはビビらされたよ。正直、さっきの対戦の分析以上に驚いたわ」

「あの……」

 未惟奈の顔が、どうしていいから分らないという感じで目が泳ぎまくっているのがなんとも面白かった。

「なんだよ?言いたいことがあるなら言えば?」

「そ、そんないきなりぶっちゃけないでよ?私がどう応えていいか困るでしょ?」

「まあそうだよな」

 なんか不思議と未惟奈の焦りの表情を見ていたら、俺の”焦り”はどこかへ吹き飛んでしまい自分でもビックリするほどに開き直ってしまった。

「だったらもう一度聞くけど、翔は檸檬さんのこと好きなの?」

「ああ、そうだね」

 俺は自分に言い澱む暇を与えないよう即答した。

「それって、もしかして血の繋がりがない義姉弟だったりするの?」

「ああ、よくマンガでありがちなテンプレなパターンな。でも、残念ながら俺と檸檬は正真正銘の同じ両親の子供だ」

 俺がそう言うと未惟奈は目を見開いてさすがに絶句してしまった。

 自分でもいままでひた隠して来たし、もっと言えば自分自身ですら否定しようとしていたこの気持ちをついこの間会ったばかりの未惟奈になぜ話してしまったのか?この時は、こんな自分の感情すら全く理解できなかった。

 ただ俺は全てをカミングアウトしてしまったことで気持ちが軽くなってしまった。

「まあ、一応そう言うことだから檸檬にはもちろんのこと、このことは未惟奈だけの秘密ってことで頼むわ」

「ちょっと待ってよ?私だけなの?知ってるのは?」

「そうだよ?こんなこと人にペラペラと話はしないだろ?それに他のヤツは普通気付かないからな」

 未惟奈は心底、困り果てた様子で口を噤んでしまった。

 考えてみれば、馴れ馴れしすぎるくらいな会話をいているとはいえ、俺は未惟奈からすれば会ったばかりの普通の男子高校生だ。

 そんな俺の秘密を知ったところで、他人事と割り切って別段気にする必要も、動揺する必要もないだろうに。

 一見、自分のことばかり考えているワガママ娘だと思っていたが、案外、根は真面目な女性なのかもしれない。

 あぁ……それにしても参ったな。

 全くの想定外のことが起きてしまった。

 でも自分でもなんだか少し肩の荷が下りたようで気分はそんなに悪くないのが不思議だった。
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