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赤いチャイナドレスの戦慄
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「ちょっと!須美ちゃんやめてよ!!」
芹沢が大慌てで、春埼さんのスマホを手で覆った。
「いいじゃない別に?あなたが勝った試合なんだから皆に見せても」
春崎さんは、芹沢との「出会いのエピソード」を話し終えると、嫌がる芹沢の手を跳ねのけて「芹沢薫子vs伊波紗弥子」の対戦映像をスマートフォンで再生しようとしていた。
そして結局、芹沢の抵抗も虚しく俺たちは「その映像」を見ることとなった。
その試合は、流石に当初ウィリス未惟奈との対戦が予定されていたというだけあって、有明ウルトラアリーナが会場のようだった。
地上波での放送はなかったらしいが、ネット配信用にリングサイドにはカメラが入っていた。
「凄くないですか?有明ウルトラアリーナが超満員ですよ?」
俺は心底驚いてそうリアクションした。
「それはそうよ。もともとはウィリス未惟奈が出場予定だったんだから」
「悪かったわね、私のような無名選手になってしまって」
少し”すねたふり”をしながら芹沢が言った。
しかし肝心の未惟奈が出場せずに、全くの無名なはずの芹沢相手にこれだけの観客を動員したプロモーションはたいしたものだ。
おそるべし「RYUJIN」。
そして俺は、なぜ芹沢が大慌てをしてこの映像を隠そうとしたのかがすぐに理解できた。
「芹沢先生、ずいぶん”らしくない”コスチュームですね?」
「か、神沼君……そういうところは見なくていいから」
芹沢にしては珍しく顔を真っ赤にして本気で照れている。
「でもこれだけの観客にすでに”晒して”しまってるんだから、俺達が今更見てもよくないですか?」
春崎さんが説明した芹沢薫子のバックボーンである中国武術。
そこから想像するファイトコスチュームは「中国着、いわゆるカンフー着だろう」とは思っていたが、まさかスリットが大きく入った「チャイナドレス」とは……。
芹沢の美しい脚が丸見えで、ちょっと視線のやり場に困るレベルだった。
しかも、めちゃくちゃ動きにくいでしょ……これ。
まあ対戦相手である伊波紗弥子にしたって、ムエタイスタイルで短パンをはいている訳だから、脚を晒すこと自体はイーブンなんだけど……。
いやいや、同じ見えるにしてもやっぱチャイナドレスのほうがなんか……男性の心をザワザワ掴んでいるな……うん。
「よく似合ってると思いますよ」
隣にいた美影聡一は、顔色一つ変えずに本心なのかフォローなのかも分からないセリフを吐いた。
「や、やめてよ、美影君まで……」
「翔?さっきからどこ見てんのよ?コスチュームなんて関係ないでしょ?春崎さんもこんな映像見なくてもいいんじゃないですか?」
「ごめん未惟奈ちゃん、こんなに男性陣の食いつきがいいとは思わなくて……。 だから翔君?未惟奈ちゃんの前で他の女性に興味あるそぶりはダメでしょ?」
「は?なんで?別にいいでしょ?」
「ダメだよ!翔は!」
未惟奈が不機嫌そうに即答した……え?なんで俺はダメなの?
「はい、はい、男性陣はそんな事ばかりに関心もたないで」
春崎さんはそう言いながら、”生暖かい目”を俺に送りつつ、その場を収めるよう誘導した。
* * *
芹沢のコスチュームの”おふざけ感?”から想像はできていたが、この試合は公式戦ではなく、観客動員だけを目的としてマッチメイクされた「エキシビションマッチ」ということだった。
だからスマホ越しに感じられる観客の雰囲気も、どこか緊迫感のない浮ついた感じがした。
しかし、その会場のまったりとした空気感とは異質の空間が一つだけあった。
伊波紗弥子、その人だ。
まるで”怒り”にも似た形相で、対戦相手の芹沢をコーナーから睨んでいた。
まあ、それはそうだろう。
未惟奈との対戦を大人の勝手な判断で断たれ、代わりに用意された相手が全くの無名選手。
しかもガチなムエタイコスチュームの伊波とは対照的に、まるでふざけているかのようなチャイナドレス姿なのだ。
伊波からしたら”バカにするのもいい加減にしろ”というところだろう。
初めて見る伊波紗弥子。
身長は170cm近くに見えた。
さらに絞り切った身体と小さな顔から、とてもスタイリッシュな美少女に見えた。
頭は真っ黒な髪を独特な編み込みにしている。
肌の色はタイでの修業が多いからなのだろうか?小麦色に日焼けしているのが、いかにもムエタイ少女という雰囲気を醸し出していた。
それに比して、真っ白な肌で真っ赤なチャイナドレスの芹沢とはあまりにも対照的に映った。
きっと誰もが思っただろう。
伊波紗弥子の圧勝だ、と。
この二人の”いで立ち”を見て、誰が芹沢の勝利を予測しただろうか……。
そして長々しい選手紹介が終わり……。
ようやく……。
ゴングが鳴った。
俺はまず、芹沢がとった”構え”を見て”ぎょっ”とした。
「や、やっぱり俺と同じ……」
「そうよ、翔君。薫子は空手でいうところの後屈立ちで、前羽の構えをとるのよ」
そう春崎さんが言うと、いままでチャイナドレスをいじられて散々動揺していた芹沢が、不敵な笑みで俺を見た。
ふいに、武道や格闘技には一番疎いはずの美影がつぶやいた。
「なるほど……形意拳か」
「え?形意拳?」
俺がそう聞き返すと、美影がそれに答える前に映像の中の伊波紗弥子に異変が起きた。
いきなり伊波が”うっ”と呻いたような苦しげな顔になり……突然、前のめりに倒れてしまったのだ。
その映像を見ていた皆が息を呑んだ。
「え?な、なにが起きたんですか?」
俺は正面に座っている芹沢の顔を凝視した。
すると、芹沢はまださっきの不敵な笑みを浮かべたまま黙っていた。
「神沼、だからこれが形意拳だよ」
またもや美影がつぶやいた。
形意拳だと?
……これが?
いや、でも知らねえし?
芹沢が大慌てで、春埼さんのスマホを手で覆った。
「いいじゃない別に?あなたが勝った試合なんだから皆に見せても」
春崎さんは、芹沢との「出会いのエピソード」を話し終えると、嫌がる芹沢の手を跳ねのけて「芹沢薫子vs伊波紗弥子」の対戦映像をスマートフォンで再生しようとしていた。
そして結局、芹沢の抵抗も虚しく俺たちは「その映像」を見ることとなった。
その試合は、流石に当初ウィリス未惟奈との対戦が予定されていたというだけあって、有明ウルトラアリーナが会場のようだった。
地上波での放送はなかったらしいが、ネット配信用にリングサイドにはカメラが入っていた。
「凄くないですか?有明ウルトラアリーナが超満員ですよ?」
俺は心底驚いてそうリアクションした。
「それはそうよ。もともとはウィリス未惟奈が出場予定だったんだから」
「悪かったわね、私のような無名選手になってしまって」
少し”すねたふり”をしながら芹沢が言った。
しかし肝心の未惟奈が出場せずに、全くの無名なはずの芹沢相手にこれだけの観客を動員したプロモーションはたいしたものだ。
おそるべし「RYUJIN」。
そして俺は、なぜ芹沢が大慌てをしてこの映像を隠そうとしたのかがすぐに理解できた。
「芹沢先生、ずいぶん”らしくない”コスチュームですね?」
「か、神沼君……そういうところは見なくていいから」
芹沢にしては珍しく顔を真っ赤にして本気で照れている。
「でもこれだけの観客にすでに”晒して”しまってるんだから、俺達が今更見てもよくないですか?」
春崎さんが説明した芹沢薫子のバックボーンである中国武術。
そこから想像するファイトコスチュームは「中国着、いわゆるカンフー着だろう」とは思っていたが、まさかスリットが大きく入った「チャイナドレス」とは……。
芹沢の美しい脚が丸見えで、ちょっと視線のやり場に困るレベルだった。
しかも、めちゃくちゃ動きにくいでしょ……これ。
まあ対戦相手である伊波紗弥子にしたって、ムエタイスタイルで短パンをはいている訳だから、脚を晒すこと自体はイーブンなんだけど……。
いやいや、同じ見えるにしてもやっぱチャイナドレスのほうがなんか……男性の心をザワザワ掴んでいるな……うん。
「よく似合ってると思いますよ」
隣にいた美影聡一は、顔色一つ変えずに本心なのかフォローなのかも分からないセリフを吐いた。
「や、やめてよ、美影君まで……」
「翔?さっきからどこ見てんのよ?コスチュームなんて関係ないでしょ?春崎さんもこんな映像見なくてもいいんじゃないですか?」
「ごめん未惟奈ちゃん、こんなに男性陣の食いつきがいいとは思わなくて……。 だから翔君?未惟奈ちゃんの前で他の女性に興味あるそぶりはダメでしょ?」
「は?なんで?別にいいでしょ?」
「ダメだよ!翔は!」
未惟奈が不機嫌そうに即答した……え?なんで俺はダメなの?
「はい、はい、男性陣はそんな事ばかりに関心もたないで」
春崎さんはそう言いながら、”生暖かい目”を俺に送りつつ、その場を収めるよう誘導した。
* * *
芹沢のコスチュームの”おふざけ感?”から想像はできていたが、この試合は公式戦ではなく、観客動員だけを目的としてマッチメイクされた「エキシビションマッチ」ということだった。
だからスマホ越しに感じられる観客の雰囲気も、どこか緊迫感のない浮ついた感じがした。
しかし、その会場のまったりとした空気感とは異質の空間が一つだけあった。
伊波紗弥子、その人だ。
まるで”怒り”にも似た形相で、対戦相手の芹沢をコーナーから睨んでいた。
まあ、それはそうだろう。
未惟奈との対戦を大人の勝手な判断で断たれ、代わりに用意された相手が全くの無名選手。
しかもガチなムエタイコスチュームの伊波とは対照的に、まるでふざけているかのようなチャイナドレス姿なのだ。
伊波からしたら”バカにするのもいい加減にしろ”というところだろう。
初めて見る伊波紗弥子。
身長は170cm近くに見えた。
さらに絞り切った身体と小さな顔から、とてもスタイリッシュな美少女に見えた。
頭は真っ黒な髪を独特な編み込みにしている。
肌の色はタイでの修業が多いからなのだろうか?小麦色に日焼けしているのが、いかにもムエタイ少女という雰囲気を醸し出していた。
それに比して、真っ白な肌で真っ赤なチャイナドレスの芹沢とはあまりにも対照的に映った。
きっと誰もが思っただろう。
伊波紗弥子の圧勝だ、と。
この二人の”いで立ち”を見て、誰が芹沢の勝利を予測しただろうか……。
そして長々しい選手紹介が終わり……。
ようやく……。
ゴングが鳴った。
俺はまず、芹沢がとった”構え”を見て”ぎょっ”とした。
「や、やっぱり俺と同じ……」
「そうよ、翔君。薫子は空手でいうところの後屈立ちで、前羽の構えをとるのよ」
そう春崎さんが言うと、いままでチャイナドレスをいじられて散々動揺していた芹沢が、不敵な笑みで俺を見た。
ふいに、武道や格闘技には一番疎いはずの美影がつぶやいた。
「なるほど……形意拳か」
「え?形意拳?」
俺がそう聞き返すと、美影がそれに答える前に映像の中の伊波紗弥子に異変が起きた。
いきなり伊波が”うっ”と呻いたような苦しげな顔になり……突然、前のめりに倒れてしまったのだ。
その映像を見ていた皆が息を呑んだ。
「え?な、なにが起きたんですか?」
俺は正面に座っている芹沢の顔を凝視した。
すると、芹沢はまださっきの不敵な笑みを浮かべたまま黙っていた。
「神沼、だからこれが形意拳だよ」
またもや美影がつぶやいた。
形意拳だと?
……これが?
いや、でも知らねえし?
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