【天才アスリート少女】普通男子と天才少女の物語【普通男子の武道家】

里見 亮和

文字の大きさ
44 / 64

赤いチャイナドレスの戦慄

しおりを挟む
「ちょっと!須美ちゃんやめてよ!!」

 芹沢が大慌てで、春埼さんのスマホを手で覆った。

「いいじゃない別に?あなたが勝った試合なんだから皆に見せても」

 春崎さんは、芹沢との「出会いのエピソード」を話し終えると、嫌がる芹沢の手を跳ねのけて「芹沢薫子vs伊波紗弥子」の対戦映像をスマートフォンで再生しようとしていた。

 そして結局、芹沢の抵抗も虚しく俺たちは「その映像」を見ることとなった。

 その試合は、流石に当初ウィリス未惟奈との対戦が予定されていたというだけあって、有明ウルトラアリーナが会場のようだった。

 地上波での放送はなかったらしいが、ネット配信用にリングサイドにはカメラが入っていた。

「凄くないですか?有明ウルトラアリーナが超満員ですよ?」

 俺は心底驚いてそうリアクションした。

「それはそうよ。もともとはウィリス未惟奈が出場予定だったんだから」

「悪かったわね、私のような無名選手になってしまって」

 少し”すねたふり”をしながら芹沢が言った。

 しかし肝心の未惟奈が出場せずに、全くの無名なはずの芹沢相手にこれだけの観客を動員したプロモーションはたいしたものだ。

 おそるべし「RYUJIN」。

 そして俺は、なぜ芹沢が大慌てをしてこの映像を隠そうとしたのかがすぐに理解できた。

「芹沢先生、ずいぶん”らしくない”コスチュームですね?」

「か、神沼君……そういうところは見なくていいから」

 芹沢にしては珍しく顔を真っ赤にして本気で照れている。

「でもこれだけの観客にすでに”晒して”しまってるんだから、俺達が今更見てもよくないですか?」

 春崎さんが説明した芹沢薫子のバックボーンである中国武術。

 そこから想像するファイトコスチュームは「中国着、いわゆるカンフー着だろう」とは思っていたが、まさかスリットが大きく入った「チャイナドレス」とは……。

 芹沢の美しい脚が丸見えで、ちょっと視線のやり場に困るレベルだった。

 しかも、めちゃくちゃ動きにくいでしょ……これ。

 まあ対戦相手である伊波紗弥子にしたって、ムエタイスタイルで短パンをはいている訳だから、脚を晒すこと自体はイーブンなんだけど……。

 いやいや、同じ見えるにしてもやっぱチャイナドレスのほうがなんか……男性の心をザワザワ掴んでいるな……うん。

「よく似合ってると思いますよ」

 隣にいた美影聡一は、顔色一つ変えずに本心なのかフォローなのかも分からないセリフを吐いた。

「や、やめてよ、美影君まで……」

「翔?さっきからどこ見てんのよ?コスチュームなんて関係ないでしょ?春崎さんもこんな映像見なくてもいいんじゃないですか?」

「ごめん未惟奈ちゃん、こんなに男性陣の食いつきがいいとは思わなくて……。 だから翔君?未惟奈ちゃんの前で他の女性に興味あるそぶりはダメでしょ?」

「は?なんで?別にいいでしょ?」

「ダメだよ!翔は!」

 未惟奈が不機嫌そうに即答した……え?なんで俺はダメなの?

「はい、はい、男性陣はそんな事ばかりに関心もたないで」

 春崎さんはそう言いながら、”生暖かい目”を俺に送りつつ、その場を収めるよう誘導した。

 *  *  *

 芹沢のコスチュームの”おふざけ感?”から想像はできていたが、この試合は公式戦ではなく、観客動員だけを目的としてマッチメイクされた「エキシビションマッチ」ということだった。

 だからスマホ越しに感じられる観客の雰囲気も、どこか緊迫感のない浮ついた感じがした。

 しかし、その会場のまったりとした空気感とは異質の空間が一つだけあった。

 伊波紗弥子、その人だ。

 まるで”怒り”にも似た形相で、対戦相手の芹沢をコーナーから睨んでいた。

 まあ、それはそうだろう。

 未惟奈との対戦を大人の勝手な判断で断たれ、代わりに用意された相手が全くの無名選手。

 しかもガチなムエタイコスチュームの伊波とは対照的に、まるでふざけているかのようなチャイナドレス姿なのだ。

 伊波からしたら”バカにするのもいい加減にしろ”というところだろう。

 初めて見る伊波紗弥子。

 身長は170cm近くに見えた。

 さらに絞り切った身体と小さな顔から、とてもスタイリッシュな美少女に見えた。

 頭は真っ黒な髪を独特な編み込みにしている。

 肌の色はタイでの修業が多いからなのだろうか?小麦色に日焼けしているのが、いかにもムエタイ少女という雰囲気を醸し出していた。

 それに比して、真っ白な肌で真っ赤なチャイナドレスの芹沢とはあまりにも対照的に映った。

 きっと誰もが思っただろう。

 伊波紗弥子の圧勝だ、と。

 この二人の”いで立ち”を見て、誰が芹沢の勝利を予測しただろうか……。

 そして長々しい選手紹介が終わり……。

 ようやく……。

 ゴングが鳴った。

 俺はまず、芹沢がとった”構え”を見て”ぎょっ”とした。

「や、やっぱり俺と同じ……」

「そうよ、翔君。薫子は空手でいうところの後屈立ちで、前羽の構えをとるのよ」

 そう春崎さんが言うと、いままでチャイナドレスをいじられて散々動揺していた芹沢が、不敵な笑みで俺を見た。

 ふいに、武道や格闘技には一番疎いはずの美影がつぶやいた。

「なるほど……形意拳か」

「え?形意拳?」

 俺がそう聞き返すと、美影がそれに答える前に映像の中の伊波紗弥子に異変が起きた。

 いきなり伊波が”うっ”と呻いたような苦しげな顔になり……突然、前のめりに倒れてしまったのだ。

 その映像を見ていた皆が息を呑んだ。

「え?な、なにが起きたんですか?」

 俺は正面に座っている芹沢の顔を凝視した。

 すると、芹沢はまださっきの不敵な笑みを浮かべたまま黙っていた。

「神沼、だからこれが形意拳だよ」

 またもや美影がつぶやいた。

 形意拳だと?

 ……これが?

 いや、でも知らねえし?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...