オレが推しを抱くなんて! かませ犬転生元社畜×闇深最強ラスボス 

毒島醜女

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灰夜編

四十二章

違う地区の『灰夜』のトップである二人の男。
その彼らと玄二に面識があった。
お互い、オレの知らない話を知っている。

「こいつらのこと、知ってるのか?」

オレの言葉で我に返ったのか、戸惑いながら玄二は続けた。

「ああ、昔のダチの兄弟。兄貴に会うずっと前に別れたけど」

ふと、龍也と呼ばれた男が玄二に近づく。
彼はごく当たり前に、友人にそうするように玄二の方に肘を置く。
ぶわっと、嫉妬心が湧き上がる。

「な……ッ」
「オレらから説明しよっか? 他のグループの幹部と仲良しなんて、お前ンとこに誤解されそうだろ?」
「……オレがするよ。心配すんな」
「その言い方、昔のまんまだな。いっつも一人で抱え込んでさ……身体だけ大きくなっても、心は変わってないんだ」

龍也の細長い、節くれだった手が玄二の膨らんだ胸元に近づく。

オレの手は咄嗟に、その男の手を掴む。
これ以上玄二に触れて欲しくない。
コイツがオレの知る前の玄二を知っていたとしても、玄二はオレの恋人だから。

「兄貴」

玄二の目がオレを見る。
オレは、龍也の手を玄二の身体から距離を置かせてから手を離した。
龍也、そして少し離れた所にいる虎太郎はオレを品定めするように睨む。

「今の玄二にはオレが、オレたち、『クライシス』がいる。だから、問題はねえ」

引き出した声は、とても低く、威圧感に満ちていた。
自分からこんな声が出るなんて思いもしなかった。
不良になってから結構経つが意識しないでこんな態度を取ってしまうなんて、人の顔を伺う事しか出来なかった前世じゃあり得なかったな。

VIPルームには沈黙が流れたが、それを破ったのは玄二だった。

「誤解がないように、皆に説明させてくれ。砂城兄弟(すなしろ)とは兄貴と出会って『クライシス』に入るずっと前オレの親が生きていた頃に会った。コイツらは……オレと同じような環境で生きてた。だから、家から出ていかされた時とか、妹と一緒に過ごしたりしてた」

玄二の親が生きていた時。
つまり、玄二と恋白が両親からの虐待を受けていた頃だ。
同じ環境ということは、龍也と虎太郎の二人も保護者から虐げられていたというわけだろう。
想像できる。同じ恐怖と痛みを抱える者同士、四人は仲良くやっていたのだろう。

玄二の表情が、昔を思い出したせいで苦々しいものになる。
本当は今すぐにも側にいてやりたいが、彼は続けた。

「ある日を境にこの二人を見なくなって、オレ……てっきり、親に殺されたとばかり思ってた」

そう言って再び、兄弟の方を向く。
龍也は申し訳なさげに眉尻を下げ、虎太郎は頭を掻く。

「ごめんね。実はさ、オレたち親父、ヤクザの下っ端だったけど抗争だか、鉄砲玉で失敗しただかで死んでさ、引き取る親戚もいないからしばらく虎太郎とあちこちホームレスしてたんだよ。で、新浜で大人に捕まって、そこの孤児院にいたんだ」
「心配かけたのは悪かったな。そいつは謝るよ。そーいや、恋白は元気か?」
「……ああ」
「そっか……よかった。お前たちは幸せで」

虎太郎は最後の方で語気を弱め、何を言ったのかは聞き取れなかった。

パン

だが彼は、盛大に手を叩き、その場にいる全員の視線をこちらに向かせる。
先程のような親しみのある顔はしていなかった。
こちらに自分の力を示す、戦闘態勢の姿だ。
虎太郎とは違い笑みを崩さない龍也であるが、彼も得体のしれない空気を纏っている。

空気が変わったことに気づいたミキがすかさず彼らを睨む。

「……謝るって空気じゃねえな」
「謝罪はした。これからは、提案だ……オレたち『灰夜』と同盟を組まないか?」

思いがけない話だ。
警戒心から一歩前に出ようとするルイを制して、ミキは続けた。

「全国でも狙ってんのか?」
「そんな漫画みたいな話じゃねえよ。もっと真面目な話さ」

そう言って龍也は手を組んで、前のめりになって語り出す。

「叢雨市でのおたくらの活躍はオレらの耳にも届いてる。素晴らしいものだよ。ヤクザにも立ち向かって、どんなチームもばったばったと倒していって、最早敵無しだ。ハッキリ言って、オレらはその力が欲しい」

彼が言い終わったのと同時に通路から華やかなナイトドレスを纏った女性がこちらにやって来た。
その手には華奢な彼女に不釣り合いな大きなジュラルミンケースがあった。
彼女はそれを机の上に置くと、開いたそれを『クライシス』の座る席の方に向けた。

「……これ」

そこにはびっしりと札束が収まっていた。
整頓された積み木のおもちゃのようで、それが現金だという実感が薄れる。
虎太郎がそれを一つとって、ミキの前に置く。

「手に取って確かめてみろ。ここにある全て、本物の万札だ」

ルイ、そして玄二の顔に困惑の色が浮かぶ。
金を払えばどんなことでもする組織だとは聞いていた。
だがオレたちと同世代でこれほどの金を稼げるとは思ってもみなかった。
玄二自身、幼馴染が変わったことに驚いてもいるのだろう。

いったい彼らは、この金を稼ぐためにどれほどの犯罪に手を染めたのだろうか。

そんな中、ミキは変わらずにいた。

「オレらが金をチラつかせればなんでもするシャバゾウだって言いてえのか?」
「そうじゃない。これは『クライシス』への正当な対価だ。『灰夜』と同盟を組んだ場合だけどな」

ミキに睨まれても、砂城兄弟の様子は変わらない。

「これはお前らにとっても得になる話だ。いつまで経っても、相手が喧嘩で解決しようとしてくるとは限らねえぞ? もっと巧妙で、悪辣なことをしてくるだろう。そんな時に拳一つで立ち向かえるか?」

オレの脳裏に『ゲヘナ』との戦いが蘇る。
玄二たちのお陰で解決できたとは言え、反乱分子である連中のせいで罠に嵌められそうになった。
だがもし、彼らの言う通りの連中がこれから現れたら……オレらは、無事でいられるだろうか。

原作のシーンがフラッシュバックする。
様々な暴力。
理不尽。不条理。
そして大勢の死。

守ってきたはずの皆の幸せが消えない為には手段を選んではいけないのではないだろうか……?

「これからの時代。もっと切れるカードが必要だ。あらゆる敵に立ち向かい、決して負けない為の。その為には手段なんて選んでられないんだよ」
「出来ない」

龍也の言葉をミキはそう言って遮った。
己の手を叩きつけ、ケースを閉じる。
そしてケースを持って兄弟に返す。

「オレらは曲げちゃならねえ道を持っているんだ。その志があったから、救えたものがあった。出会えた仲間がいた。今のお前らのやり方を受け入れたら、オレはその全員を裏切る事になっちまう。だから、お前らとは同盟を組めない」

ミキの言葉で、心の靄が晴れていく。
オレは『ちなたい』の『クライシス』が好きだ。
どんな悲劇や逆境に見舞われながらも立ち向かう強さを持った彼らに何度も救われた。
そして前世の知恵で皆を救い、不思議な縁で玄二を『クライシス』の一員にすることができた。

復讐の為に一切の容赦なく金や暴力を利用した、原作の玄二。
本当はそんなこと望んでいなかった。
誰も守ってくれないから。他に方法を知らないから。
だからそうするしかなかったんだ。

今の『クライシス』にいる玄二は違う。
心の底から信頼できる仲間と過ごし、笑う事ができている。

どうして、そんな事を忘れてたんだ?
オレは一番側で玄二の笑顔を見ているはずなのに。

砂城兄弟の二人は漆黒の瞳をミキに向ける。
恨み言すら一言も言わない。
まさかここで交渉決裂したオレたちをリンチする、なんてことはしないだろう。
だが、このままただで返すとは思えない。

「ほら、言った通りになったでしょ?」

鈴の鳴るような声がした。
透き通ったボーイソプラノだ。

その声の持ち主は闇の中から現れ、ソファーに腰かける兄弟それぞれの肩に触れ、彼らの間に立った。

「だから言ったじゃん。僕以外の連中なんて信じちゃダメってさ」
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