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番外編
将来の事
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(本編から少し先のお話)
将来の夢。
そう言われてもいまいちピンとこない。
前世では親が好みそうな大学と企業になあなあで入ったし、自分のしたい事なんて二の次だった。
――そろそろ進路決めねえとなァ。
高校三年生に差し掛かり、オレはそんな事を考えていた。
母子家庭って事も考えて大学いくより働いた方がいいだろうけど、問題はどういうとこで働くかだ。
高卒だと道は限られてくるだろうが、せめて安定した収入を得たい。それにオレには、前世になかった目的がある。だからこそしっかりした職場で働きたい。
漠然としているが、一応は目標はある。
――でも流石に人生二回も社畜生活はいやだなぁ。
前世での恐ろしい職場経験を思い出し、鳥肌を抑えるように腕をさする。
今度は慎重に選ばねえとな……
「玄二は将来の夢って、決まった?」
「オレ?」
学校からの帰り。
いつもの公園のベンチに腰掛けていると、そんな事を話し出した。
玄二は金色の瞳をパチクリとさせ、一回頷いてから答えた。
「やっぱりさ、水族館で働きたいな。色んな海の動物たちと寄り添いたいし、水の中入るのも好きだし」
そう、オレにだけ見せる屈託のない、いつもよりあどけなさを感じる笑顔で言う。
その笑顔が、月光のような色をした目が、とても眩しい。
よかった。玄二は自分の好きなものを夢にするんだな。きっと玄二ならうまくやれるだろう。
「でも接客が不安だけどなぁ。子供って大きいってだけで怖がるだろ?」
「そうか? そりゃ喧嘩の時はすげー威圧感あるけど……」
むしろ大きいと興味持ちやすい気がするけど。
やっぱり、大人=大きい人間=恐怖の対象って価値観が玄二の中にはまだ残ってるのかな?
まだ癒えきらない彼の心の傷に思いを馳せ、玄二の頭をそっと撫でる。
優しく、優しく。人の手は怖いものではないと教えるように。
「お前は怖くないよ。人より何でも出来て、痛みを知ってるからこそ強くて、そんで優しい兄ちゃんだ」
「……うん」
「オレにとっては、献身的で、可愛くて可愛くて仕方ない恋人だ」
「うん」
「人生うまくいかねえことあるけど、きっと玄二はそれを乗り越えられる。オレも傍で支えてやる」
オレの言葉に玄二は目を見張り、頬が赤くなっていく。
彼の翳りが無くなるよう頬を撫でると、瞳が潤い出す。
大丈夫だ、玄二。お前はもう一人じゃない。
守るって誓ったもんな。兄貴になるっていったもんな。
すぐ傍でそう言ってあげるから。
「だから自信もっていいよ。玄二」
「っ、ありがとな兄貴。おかげでやる気出てきた」
玄二は目尻から零れた涙を指ですくって、オレ専用の笑顔をまた見せてくれた。
そしてしばらく間をおいてから、オレも玄二に自分の悩みを打ち明けることにした。
「実はさ、オレも進路について考えててさ。就職するにしても、これからどうすっかなあってなって」
「で、相談してくれたんだ。オレに」
「うん。恥ずかしい話だけどな」
「当然のことだよ。だってオレたち、ずっと一緒にいるんだろ? だから兄貴の将来はオレの将来でもあるわけじゃん」
そうか。玄二もちゃんとわかってくれてるんだな。
勢いみたいなかんじでしちゃったプロポーズだけど、玄二は忘れてなかったんだ。
むしろすごく嬉しそうな顔をしてくれている。
なんかこっちまで嬉しくなって、心がくすぐったくなってくる。
しばらくすると、玄二は「あ」と手を打ってこちらを見た。
「兄貴が不安だったら、オレも手伝うぜ? 職探し。同僚の人柄もよくて、兄貴を任せられるとこ」
「いや悪いってそこまでさせんの」
「これも夫婦の助け合いってやつだよ。内助の功っていうらしいぜ?」
「お、おう」
夫婦って言葉にされると、もうめちゃくちゃ恥ずかしい。
でもそれと同じくらい嬉しい。
玄二はもうちゃんとわかってるんだな。
自分は一人じゃない。
自分を守ってくれる人がいるって。
なんだかうだうだ一人っきりで悩んでたオレが馬鹿みたいだ。
はじめから玄二に話しておけばスッキリしてたのにな。
玄二の行動は早かった。
次の日にはオレに合う職場をいくつかピックアップして書類にして見せてくれた。興味を持てば一緒にその会社に向かってもくれた。そうすることでリアルな職場の様子が見えるんだと。
自分のいい所を見つけるのが苦手なオレの長所を、玄二は代わりに見つけてて、「こんな感じで働いたらみんな兄貴の事頼ってくれるだろうな」とも言ってくれた。
そうやって支えてくれる玄二を見る度に、オレは彼に恋してよかったと思う。
将来の夢。
そう言われてもいまいちピンとこない。
前世では親が好みそうな大学と企業になあなあで入ったし、自分のしたい事なんて二の次だった。
――そろそろ進路決めねえとなァ。
高校三年生に差し掛かり、オレはそんな事を考えていた。
母子家庭って事も考えて大学いくより働いた方がいいだろうけど、問題はどういうとこで働くかだ。
高卒だと道は限られてくるだろうが、せめて安定した収入を得たい。それにオレには、前世になかった目的がある。だからこそしっかりした職場で働きたい。
漠然としているが、一応は目標はある。
――でも流石に人生二回も社畜生活はいやだなぁ。
前世での恐ろしい職場経験を思い出し、鳥肌を抑えるように腕をさする。
今度は慎重に選ばねえとな……
「玄二は将来の夢って、決まった?」
「オレ?」
学校からの帰り。
いつもの公園のベンチに腰掛けていると、そんな事を話し出した。
玄二は金色の瞳をパチクリとさせ、一回頷いてから答えた。
「やっぱりさ、水族館で働きたいな。色んな海の動物たちと寄り添いたいし、水の中入るのも好きだし」
そう、オレにだけ見せる屈託のない、いつもよりあどけなさを感じる笑顔で言う。
その笑顔が、月光のような色をした目が、とても眩しい。
よかった。玄二は自分の好きなものを夢にするんだな。きっと玄二ならうまくやれるだろう。
「でも接客が不安だけどなぁ。子供って大きいってだけで怖がるだろ?」
「そうか? そりゃ喧嘩の時はすげー威圧感あるけど……」
むしろ大きいと興味持ちやすい気がするけど。
やっぱり、大人=大きい人間=恐怖の対象って価値観が玄二の中にはまだ残ってるのかな?
まだ癒えきらない彼の心の傷に思いを馳せ、玄二の頭をそっと撫でる。
優しく、優しく。人の手は怖いものではないと教えるように。
「お前は怖くないよ。人より何でも出来て、痛みを知ってるからこそ強くて、そんで優しい兄ちゃんだ」
「……うん」
「オレにとっては、献身的で、可愛くて可愛くて仕方ない恋人だ」
「うん」
「人生うまくいかねえことあるけど、きっと玄二はそれを乗り越えられる。オレも傍で支えてやる」
オレの言葉に玄二は目を見張り、頬が赤くなっていく。
彼の翳りが無くなるよう頬を撫でると、瞳が潤い出す。
大丈夫だ、玄二。お前はもう一人じゃない。
守るって誓ったもんな。兄貴になるっていったもんな。
すぐ傍でそう言ってあげるから。
「だから自信もっていいよ。玄二」
「っ、ありがとな兄貴。おかげでやる気出てきた」
玄二は目尻から零れた涙を指ですくって、オレ専用の笑顔をまた見せてくれた。
そしてしばらく間をおいてから、オレも玄二に自分の悩みを打ち明けることにした。
「実はさ、オレも進路について考えててさ。就職するにしても、これからどうすっかなあってなって」
「で、相談してくれたんだ。オレに」
「うん。恥ずかしい話だけどな」
「当然のことだよ。だってオレたち、ずっと一緒にいるんだろ? だから兄貴の将来はオレの将来でもあるわけじゃん」
そうか。玄二もちゃんとわかってくれてるんだな。
勢いみたいなかんじでしちゃったプロポーズだけど、玄二は忘れてなかったんだ。
むしろすごく嬉しそうな顔をしてくれている。
なんかこっちまで嬉しくなって、心がくすぐったくなってくる。
しばらくすると、玄二は「あ」と手を打ってこちらを見た。
「兄貴が不安だったら、オレも手伝うぜ? 職探し。同僚の人柄もよくて、兄貴を任せられるとこ」
「いや悪いってそこまでさせんの」
「これも夫婦の助け合いってやつだよ。内助の功っていうらしいぜ?」
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