オレが推しを抱くなんて！ かませ犬転生元社畜×闇深最強ラスボス

番外編

見えない愛

（成人して同棲してる潮と玄二）

目が覚めると自然に手探りで玄二を追いかけていた。
がら空きのベッドを探ると、キッチンから出て来た玄二がオレが起きてるのに気づいた。

「兄貴、おはよ……寝ててよかったのに」
「ん、はよ。なんか目覚めたわ」

オレがそう言いながら上体を起こすと、玄二は身を屈めてオレに視線を合わせて言う。

「朝飯ありがとう。美味しかった。じゃ、行って来ます」
「あんがと。いってらっしゃい」

手を振って玄二を送り、オレは一人部屋に残された。
オレが遅番の日は、玄二の朝飯を用意してから寝る。
玄二は出ていく際に必ず感想を言ってから出勤する。普通のサンドイッチなのに、律儀だなぁ。

「さて……」

一人になった部屋の中、オレは立ち上がってベッドを直す。軽く掃除をしてから食事をして、出勤の支度をする。

玄二は夢を叶えて、水族館で働いている。
叢雨市の都市開発の時に出来た結構規模が大きいもので、他県からもかなりの数の観光客が来る。
玄二はそこにいる動物たちの事をいつも話してくれる。
新しく来たイルカが群れに馴染んでくれたとか、ペンギンが卵を産んだとか、あの眩しい笑顔で言うのだ。
そんな彼を見る度にオレは癒されていく。

職場での関係もいいようで、みんな玄二に良くしてくれる。
昨日も上司の方にフルーツを貰った。
今度二人でいいお返しの品を見つけないとな。

そしてオレは、現在介護士をしている。
周りをよく見ていて、それぞれにあった気配りが出来る。そんなオレに向いている仕事だと玄二は言ってくれた。
彼の言う通り、この仕事はオレには合っていた。
人の異変に気付きやすかったり、若い男ということで力もあり、職場でも結構頼りにされた。人間関係も悪くなく、前世のような搾取だけではない温かい環境であった。
もう少し経験を積んだら、介護士より更に手厚い保障のある介護福祉士を目指すために資格を得るのも悪くない。

パートでやってる主婦や、体力のない人に代わり夜勤を代わる事が多く、朝早くに出ていく玄二とは時間帯が合いづらくなってしまったのは悔しいけど……

確かに学生時代より一緒にいる時間は少なくなったけど、寂しさは感じない。
上手く言葉に出来ないが、玄二と離れていても玄二を感じられるんだ。
オレは夜帰ると、玄二とオレの分の朝食を作り、オレが働いている間に帰って来た玄二は夜食を作ってくれている。
それで十分なほど、彼からの愛がそこにあると思える。

出勤前に冷蔵庫を確認し、足りないものをメモした。
今からなら買い足す時間はある。近くにスーパーがあって本当によかった。

玄二が作りやすいように、色々と買い足しておこう。食い切れなかった奴は休みの日に作り置きつくって保存すりゃいいし。

「さ、行こうか」

買い物袋を持って、オレはマンションの扉を出ていく。
そこに彼はいなくても、彼と確かに繋がっていると感じる。