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ヴィクヘルム大公
しおりを挟む公国は混乱している。
だが、許容の範囲内だ。
ホリーが主犯となり行ったとされるブリジット嬢への嫌がらせの賠償金については、すぐ様私の金から出した。
「血税でよその女の尻拭いをさせるのか」「この事件の加害者であるホリー・フリーゲ夫人と結婚すれば王国はさらに公国を目の敵にする」などといった意見もあったが、それほど慌てることではない。
だって金で解決したのだぞ? であるならば済んだことを持ち出す方がおかしいではないか。
それにもうホリーは他人ではない。やっと結ばれた私の唯一の妻だ。
とはいえ、リコリスの死は厄介だったな。
やっとあの王国からきた高慢女が出ていったというのに。死んでも私を苦しめるとは。
離宮からリコリスが脱走したと知り捜索隊を用意したときには、彼女は息子の手によって亡くなっていた。
息絶えた彼女の側にはアザだらけで震えるチェルシー嬢と、婚約者を抱きしめる息子のギルバートがいた。
ギルバート曰く「チェルシーを殺害せんとした母上を止めようとしたが、突き飛ばしてしまい母上は頭を強く打ち、動かなくなった」らしい。
私はリコリスの死を「事故」とした。
余計な噂を流す者は「王国派の悪質なデマ」として厳しく罰した。
ただそれだけだ。
何も問題はない。
今、息子は奥の間で心身共に傷ついたチェルシー嬢を看病している。
私も彼のように愛する者に寄り添おう。
ホリーはまだ妊娠初期だ。
彼女は意固地故に強がりだ。だから安心して身を委ねてもらえるよう、側にいなくては。
胸が高鳴り世界が明るく輝いて見える。
真実の愛とはなんと素晴らしいものだろうか。
リコリスがいたときはこんな感情、抱いたことなどなかった。あれと生活していた頃はいつも暗く、緊張で張り詰め、空気が淀んでいた。ギルバートにも居丈高に接し、苦しめていたそうではないか。
最初からホリーと結婚していれば、こんな事にはならなかっただろう。悔いるのはそんなことばかりだ。
不謹慎ではあるが、リコリスの死には感謝しよう。
私にとっても息子にとっても、あれは害にしかならなかったからな。
妊婦に優しい柑橘類を携えて、私はホリーの部屋のドアをノックする。
何もないのだ。私達に、恐れることなど。
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