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一話 最悪な転生
にわか雨の降る中、黒い着物を纏った人たちが集まっている。
僕の前には二つの棺がある。
一つは父上、もう片方が母上。
不慮の事故だった。仕事に行く先で馬車が襲われたのだ。
隣から、すすり泣く男の子の声が聞こえる。
ふと目をやると銀髪の美少年が、ぽろぽろと翡翠色の瞳から涙を流していた。
――この子は、紅葉だ。『出来損ない狐と陰陽剣士』の主人公の紅葉だ!
その瞬間、僕は前世を思い出した。
社畜で都合よく使われ、おそらく過労死した僕は今、自分が愛読していたBL漫画の中にいる。
ストーリーはこうだ。
性別関係なく番う事ができ、霊力と呼ばれる力を持った存在、妖。
そんな妖が人と共存している、明治か大正っぽい世界観で、悪しき存在である魔物と戦う陰陽剣士がいた。
紅葉たちの両親を襲ったのも、魔物だ。
主人公の狐宮紅葉は妖として生まれながら、一族固有の霊力を持っておらず周りから出来損ないと呼ばれ蔑まれていた。
彼を気にかけていた両親が亡くなってからはそれがひどく、実質的な当主となった弟に虐げられ、使用人として扱われていた。
(あれ、待てよ……視界に入る自分の髪、紅葉と同じ色だよな……しかもこの、太くて、みっともない指……まさか、今の僕って……)
「麗霞様。喪主として、皆様にご挨拶を」
(やっぱり!!)
いかにも「意地悪な姑」という言葉を擬人化したようなおばさんに名前を呼ばれ、僕は絶望した。
主人公である銀髪碧眼の美少年、紅葉と同じ色の髪を長く伸ばした、肥満体系のガキ。
そう……今の僕こそが、兄である紅葉を虐げ続けた悪役弟、狐宮麗霞であった。
兄を虐めている時の鼻の穴を広げ嘲笑う憎たらしい顔芸とその肥満体系から、読者からは「豚猿」と呼ばれ嫌われていた。
しかも紅葉の相手役であるヒーローの婚約者でもあり、自分よりも無能の兄に執着する彼を快く思わず、様々な姑息な手を使って妨害してきた。
そして最期は元婚約者から徹底的に断罪され、兄に魔物を差し向けようとしたが自分がそれに食われるという末路を迎える。
彼の末路を思い出し、冷や汗をかく。
そんな僕に、姑顔の女は続ける。
「大丈夫ですよ、麗霞様。あなたはアレと違って優秀なお方なのですから、堂々とご自分が狐宮家の跡取りであると宣言なさってくださいまし」
彼女の言葉に、僕はハッとする。
どんなに虐げられても希望を捨てずに生きてきた紅葉。そんなあの子をずっと応援していた。
そんな彼を、原作みたいにいじめるなんてしたくない。
……でも、ここで他の人間に任せたらどうなる?
僕は参列者の顔を見る。
ここに集まっているのは狐宮家の分家と、競合相手だ。
霊力の無い紅葉は、彼らにとってどう映るだろうか?
都合のいい傀儡? すぐに消せる邪魔な存在?
そのどちらにしろ、彼らは紅葉に良い感情は持っていないことは確かだ。
もし仮に僕が跡取りであることを辞退してしまったら、紅葉は悪感情を持った大人たちにより搾取されたり、または排除されてしまうだろう。
(そんなの……絶対に嫌だ! 僕の婚約者になっているヒーローに、紅葉を会わせるまでは、狐宮家に置いておかないと)
僕は唇を噛み締め、決意した。
そして宣言する。
原作の麗霞らしく、高飛車に。
「皆さまお集まりいただきありがとうございます。次期狐宮家の当主の、麗霞ですぅ」
自分でも鳥肌が立ってくるほどぶりっ子として振る舞って、挨拶をする。
この家は亡き両親に代わって自分が仕切るという事を宣言する。
そして、泣きじゃくる紅葉の手を強引に引いた。
自分と違い細くて華奢な腕に、心がズキッと痛む。
それを隠して僕と参列者の前に突き飛ばす。
「……お兄様。霊力を持たない出来損ないのあなたを、慈悲深い次期当主である僕が飼ってあげる。適当な家に駒として出すまで生かしてあげるんだから、感謝してよね?」
こう言い切る事で、分家たちに「紅葉は当主のものだから手を出すな」とアピールした。
彼らはクスクスと紅葉の無様さを笑っており、異を唱える者はいなかった。
「返事は?」
「……わかり、ました」
紅葉はそう言って正座して頭を下げる。
心が痛い。
でも、彼がヒーローに出会うまでここで守らなくてはならない。
それが出来るのは豚猿と呼ばれ嫌われた僕しかいない。
(紅葉お兄様の幸せの為なら、いくらだって嫌われてやる……!)
僕の前には二つの棺がある。
一つは父上、もう片方が母上。
不慮の事故だった。仕事に行く先で馬車が襲われたのだ。
隣から、すすり泣く男の子の声が聞こえる。
ふと目をやると銀髪の美少年が、ぽろぽろと翡翠色の瞳から涙を流していた。
――この子は、紅葉だ。『出来損ない狐と陰陽剣士』の主人公の紅葉だ!
その瞬間、僕は前世を思い出した。
社畜で都合よく使われ、おそらく過労死した僕は今、自分が愛読していたBL漫画の中にいる。
ストーリーはこうだ。
性別関係なく番う事ができ、霊力と呼ばれる力を持った存在、妖。
そんな妖が人と共存している、明治か大正っぽい世界観で、悪しき存在である魔物と戦う陰陽剣士がいた。
紅葉たちの両親を襲ったのも、魔物だ。
主人公の狐宮紅葉は妖として生まれながら、一族固有の霊力を持っておらず周りから出来損ないと呼ばれ蔑まれていた。
彼を気にかけていた両親が亡くなってからはそれがひどく、実質的な当主となった弟に虐げられ、使用人として扱われていた。
(あれ、待てよ……視界に入る自分の髪、紅葉と同じ色だよな……しかもこの、太くて、みっともない指……まさか、今の僕って……)
「麗霞様。喪主として、皆様にご挨拶を」
(やっぱり!!)
いかにも「意地悪な姑」という言葉を擬人化したようなおばさんに名前を呼ばれ、僕は絶望した。
主人公である銀髪碧眼の美少年、紅葉と同じ色の髪を長く伸ばした、肥満体系のガキ。
そう……今の僕こそが、兄である紅葉を虐げ続けた悪役弟、狐宮麗霞であった。
兄を虐めている時の鼻の穴を広げ嘲笑う憎たらしい顔芸とその肥満体系から、読者からは「豚猿」と呼ばれ嫌われていた。
しかも紅葉の相手役であるヒーローの婚約者でもあり、自分よりも無能の兄に執着する彼を快く思わず、様々な姑息な手を使って妨害してきた。
そして最期は元婚約者から徹底的に断罪され、兄に魔物を差し向けようとしたが自分がそれに食われるという末路を迎える。
彼の末路を思い出し、冷や汗をかく。
そんな僕に、姑顔の女は続ける。
「大丈夫ですよ、麗霞様。あなたはアレと違って優秀なお方なのですから、堂々とご自分が狐宮家の跡取りであると宣言なさってくださいまし」
彼女の言葉に、僕はハッとする。
どんなに虐げられても希望を捨てずに生きてきた紅葉。そんなあの子をずっと応援していた。
そんな彼を、原作みたいにいじめるなんてしたくない。
……でも、ここで他の人間に任せたらどうなる?
僕は参列者の顔を見る。
ここに集まっているのは狐宮家の分家と、競合相手だ。
霊力の無い紅葉は、彼らにとってどう映るだろうか?
都合のいい傀儡? すぐに消せる邪魔な存在?
そのどちらにしろ、彼らは紅葉に良い感情は持っていないことは確かだ。
もし仮に僕が跡取りであることを辞退してしまったら、紅葉は悪感情を持った大人たちにより搾取されたり、または排除されてしまうだろう。
(そんなの……絶対に嫌だ! 僕の婚約者になっているヒーローに、紅葉を会わせるまでは、狐宮家に置いておかないと)
僕は唇を噛み締め、決意した。
そして宣言する。
原作の麗霞らしく、高飛車に。
「皆さまお集まりいただきありがとうございます。次期狐宮家の当主の、麗霞ですぅ」
自分でも鳥肌が立ってくるほどぶりっ子として振る舞って、挨拶をする。
この家は亡き両親に代わって自分が仕切るという事を宣言する。
そして、泣きじゃくる紅葉の手を強引に引いた。
自分と違い細くて華奢な腕に、心がズキッと痛む。
それを隠して僕と参列者の前に突き飛ばす。
「……お兄様。霊力を持たない出来損ないのあなたを、慈悲深い次期当主である僕が飼ってあげる。適当な家に駒として出すまで生かしてあげるんだから、感謝してよね?」
こう言い切る事で、分家たちに「紅葉は当主のものだから手を出すな」とアピールした。
彼らはクスクスと紅葉の無様さを笑っており、異を唱える者はいなかった。
「返事は?」
「……わかり、ました」
紅葉はそう言って正座して頭を下げる。
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