令嬢ではない悪役転生(しかも女体化)

毒島醜女

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九話 予想外の展開、再び。

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本編であるブレプリが開始する年になった。
本編通りであれば、もうすぐ主人公が三人のヒロインと共にこのギルドに来るはずだ。

(……原作のドロデスみたいに破滅する展開はなくなっただろうし、私はいつも通りのままあの子たちを迎えよう)

そう意を決していると、バァンと強引にドアが開く音がした。
そして聞き覚えのある大股の足音がして、顔を上げた。

「おいルルぅ! 帰って来たなら顔見せろよ! 薄情な奴だなぁ!」

がなり立てた男の存在は、嫌でも周りの視線を集めた。
ルルくんの時とは違って冷めた目である事は、本人は気づかないだろう。
赤毛のツンツンした色黒で長身の、背中に大剣を抱えた剣士の名はゴーマン。
戦績こそ一級品でA級剣士なのだが、性格にかなり難がある冒険者だ。
ゴーマンのパーティーメンバーが全員個別相談室に訪ねに来たほどだ。
曰く、暴言や暴力といったパワーハラスメントがひどいらしく、理不尽な彼に振り回されて精神的にも肉体的にもかなり疲弊していた。
私は『パーティーメンバーと三ヶ月連絡が取れなかった場合、解散扱いとする』という規則を利用し、ゴーマンに個別任務として長期の出張を斡旋した。
高めに設定した報酬と私の口車に乗せられた彼はその任務を受注し、三ヶ月後、ゴーマンに苦しめられていたメンバーは無事に他のパーティーへ加入していった。

(いかにもライトノベルの世界じゃ悪役になってる人だよなぁ。そんなキャラがゴーマンとか、わかりやすすぎる)

任務から帰ったゴーマンの怒りはかなりのもので「どうして奴らを引き留めなかった!」と私に怒鳴り込んだ。
私は前世での経験を活かして、至極冷静に「これは規則ですので」と返した。
それでも怒りが収まらず、ついに手が出そうになるゴーマンの前に現れたのが、ルルくんだった。

「仲間がいないなら、私と組みませんか?」

当時から名が知れていたルルくん自らオファーを受けたゴーマンの機嫌はたちまち良くなった。
それ以来、ルルくんはゴーマンのクエストに付き合っている。
ルルくんが組んでいるおかげでゴーマンのハラスメントを受ける冒険者は格段に少なくなっていった。
ルルくんのお陰でクエストは早く終わるし、その後の飲み会もやんわりと断っているおかげで適度な距離感は保ってはいるが、心配だった。

「大丈夫なの? ルルくん。なにかひどい事されてない?」

そう尋ねた私にルルくんは笑った。

「クエスト事態は大したこともないし、彼の望むことは単純なので、ドロシー様が思っている以上にやりやすいですよ。暇なときはずっと自慢話をしてくるのでその方が疲れます」

私はその答えに苦笑した。
かくして、時は戻り現在。
ルルくんの肩をバンバン叩くゴーマンは、酒のせいか赤らんだ顔で彼に笑う。

「こっちはお前のこと待ってたんだぜぇ? 薄情だなぁ」
「すいませんゴーマンさん。先に約束していた方とのクエストがあったもので」
「あーあーわかってるよ。雑魚の教育もしなきゃいけないなんて、お前も大変だよなぁ? 本来ならオレ様みたいな選ばれし人間と組むのが正解なのよぉ」

そう言ってわざとらしく周囲を睨む。
パーティーでの私闘はご法度だ。冒険者免許剥奪もある。
それをしないだけの頭脳はあるらしい。

「ところでよ! これから行きたいクエストがあんだよ! もちろんお前も来るよな?」

仕事終えて帰って来たの知ってるくせに、何言ってんだ!?
とっさに私は立ち上がり、ゴーマンを止める。

「ゴーマンさん。ルルさんは先程クエストを終えたばかりです。いくら彼が優れた魔術師だとはいえ、インターバルが必要です」

しかし私の言葉に被せるように、ルルくんはニコっと笑い答えた。

「わかりました。すぐに終えられるものですよね」
「だいじょーぶだって! オレとお前ならイケるさ! ぎゃっはっはっは!」

上機嫌になったゴーマンはガシッとルルくんの肩を掴んで、連れていく。
その足を止め、彼は集会所中に聞こえる様な大声で言う。

「お前も大変だよなぁ~、昔助けてやってやったって恩だけで、頭の固い、人の仲間を勝手に逃がすような無能ババァに媚びてよお~。つらくなったらいつでもこのゴーマン様に言えよぉ? オレ様とお前なら、王都でだってやっていけんだからなぁ! お前はこういう度に『いい人なんです~』なんて言うけどな。だははっ! 洗脳されてかわいそ~に!」

言葉の途中で、ゴーマンは振り向きざまに私を睨んで笑った。
うう……単純な頭だから忘れてると思ったら、根に持ってたなんて。
こういうタイプが一番厄介なんだよな……
ルルくんは何も言わない。
下手に刺激しない方がいいと判断したのだろう。
二人が集会所から出ていくと、各々ほっとしたり、苛立ちを露わにしたりする。

「あんなこと言うなんてサイッテー……大丈夫ですか、マスター?」
「へーきへーき。仕事戻ろっか」
「……なんかあったら、私たち味方になりますから」

受付嬢の子たちが、集団になってウンウンと頷く。
ゴーマン相手でも一歩も引かない姿勢だ。
こんなに慕ってくれていい子だな。


 ※


ルルくんが去ってしばらくした後だった。

「失礼します。パーティー登録をお願いしたいのですが」
「はぁい。わかりまし、た」

凛とした女性の声に、私は顔を上げた。
思わず声が漏れそうになる。
先頭に藍色の絹のようなストレートヘアに、額あてをして甲冑を纏った女剣士。
杖を持ちとんがり帽子を被り、茶髪をお下げにした小柄な魔法使い。
そして、綿あめのようにふんわりした桃色の髪に、全身白の衣を纏った女僧侶。
画面の中で見ていた存在の登場に、私はテンパってしまった。

「で、では、こちらにお名前をお願いします」

そう言って登録書を差し出す。
三人はそれぞれ、自分の名前を書いていく。
彼女たちはブレプリの主人公が率いる『四つ葉』のメンバーであり、ヒロインの三人。
大太刀使いのトーカ。
武芸者の一族に生まれた女性であり、一族の復興の為に戦う誇り高き剣士。
クールな外見と性格に反して、母性愛に満ちており、主人公を支えていた。
魔術師のブリュレ。
高飛車な性格だが、スラム街で生まれ、成り上がるために魔力を磨いた努力家。
自分を心から優秀だと認めてくれた主人公に素直になり始める、ツンデレキャラだ。
最後に僧侶のエリチカ。
没落した貴族の生まれであり、領民の助けになろうと敬虔に祈りを捧げた生真面目な女性。
見た目通りの穏やかな性格であり、豊満な肉体もあって読者からは「ママ」と呼ばれ、ヒロインの中では一番人気が高かった。
原作のドロデスはトーカには「腕力ばっかで可愛げのない女オーク」と馬鹿にしたり、ブリュレには「小さすぎて見れなかったわ」といってわざとぶつかって突き飛ばし、エリチカは「癒してくれよォ~」といって近づいてセクハラをしてたっけ。

(ほんっとゲス野郎すぎる……原作での私……)

過去の彼のいやらしいシーンを思い出し、苦虫を噛み潰したような表情をしてしまう。
だがヒロインたちの声に顔を上げ、平静を装った。

「書けました。確認よろしくお願いします」
「はいっ。では、失礼します」

トーカの渡した書類を私は確認する。

「え?」

私はそこに書かれていた記述に困惑した。
パーティーメンバーはトーカ、ブリュレ、エリチカ。その三名のみ。
パーティー名は『三つ葉』。

「あの、メンバーは大剣使いのトーカさん、魔術師のブリュレさん、僧侶のエリチカさん。以上の三名でよろしかったでしょうか?」
「はい。私たち三人だけのパーティーです」
「なにか問題があるのー?」
「いいえ、そういうわけでは……」
「テレーシア領のギルドは女性だけのパーティーも多いと聞いて、こちらで登録しようと思ったのです。どうか、よろしくお願いしますね」

トーカの横から顔を出すブリュレとエリチカに苦笑しつつ、私は担当者に書類を運んだ。
ブレプリに欠かせない、三人のヒロイン。
その彼女たちを率いていた主人公、フィンがいない。
そんな事に疑問を抱きながら。
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