思い立ったが吉日的なアレ。【ファンタジー編】

びおら

文字の大きさ
1 / 10

【平和な世界】

しおりを挟む
 俺の人生は、俺だけの物語では無かった。
 俺は、俺の人生でさえも主人公ではなかった。 
 俺の人生は、まさにRPGに出てくるモブそのものと言えた。
 何も成し得なかった。何かに立ち向かったり、仲間たちの喜びを分かち合ったり、歓声を浴びたり、そんなイベントは何一つ無かった。

 そんな人生でも等しく終わりは訪れる。それも予期せぬ時に唐突に。
 敢えて死因は言うまいが、俺の生涯はつい先程、それはもうあっけなく幕を閉じた。そして今、俺の意識は消えることなくぼんやりとした光の中をフワフワと漂っている。身体はなく、意識だけが淡い輪郭を帯びて丸い玉のような形を成しているイメージで。
 そして行き着いた先には女神が立っていた。いやホントに、女神ですとしか言いようがない感じの女性が、俺の魂を迎え入れるように両手を広げて待っている。そして彼女はゆっくりと口を開いた。
「貴方は後悔の中で命を落としましたね」
「いや、別に後悔とかはないけど」
 率直に思ったことを答えただけなのに、どうして急に黙るんだこの女神は。
「貴方は前の人生で、何かを成し遂げたかったのではありませんか?」
「………いやー、特には………」
「貴方は、強敵への挑戦や仲間との冒険を望んでいたではありませんか」
「望んでないけど」
「冒頭で確かにそう言っていたではありませんか………」
「冒頭ってなんだよ」
 女神は再び黙りこくった。何故か圧を感じる。
「貴方にもう一度、生を与えましょう。今度は悔いなきように………」
「ちょ、なに勝手に転生させようとしてんだよ。ヤダよ。モンスターとか魔王とかがいるようなファンタジー世界とか。転生させてくれるんなら現実世界にしてくれ」
「我々にとっては、あの世界こそが現実世界であって………」
「あー、そういう問答は面倒くさいからパス。分かったよ、異世界で良いから、平和な世界で頼むわ」
 女神は一度目を閉じて深く息を吐いてから、再び目を開いた。
「では貴方を、争いなき平和な世界に転生させてあげましょう………本当に良いのですね?」
「良いよ、本当に」
「………剣や魔法、勇者の末裔、魔王討伐………そう言った………」
「だから良いって、マジで、そういうの、本当に」
「………では、目を閉じなさい」
 そう言われて、もう無いはずの瞼を閉じた。まばゆい光が一転、暗闇に染まり、そしてーーー。



 異世界に転生してから、はや80年。これまでの人生の中で本当に、戦いやモンスターや魔法といったものとの出会いは1度たりともなかった。心通じる仲間もいない。しかしここは確かに異世界。わしが前世で行きていた世界とは違う、ふぁんたじーの世界であることは間違いない。しかし、この世界観に魔法やモンスターがいなければそれは、単に少し昔の現実世界とそう変わりはなかった。不便だがそれなりに幸せで穏やかな世界。悪くは、なかった。

おわり


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

令和の俺と昭和の私

廣瀬純七
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...