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第ニ章:暴け真実、取り戻せ記憶
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「……随分と飛躍した妄想ね」
それまで黙っていた夕凪が、ピシャリと言った。真剣な様子で仮説を語っていた一吹が、その一言で目を吊り上げた。
「こころはそうは思わねぇの? 今回のことが全部普通だって言うのか? お前のお得意な、これが常識ってヤツ?」
「……全部とは言わないわ。でも、街から出られないこととかは、昔からそうだから何も疑うことはないんじゃないかしら」
「……あれが世界の常識だって、本当に思うか? オレはもう思えない。いろいろ可笑しすぎるよ。……特に、不自然なことを平然と常識だって謳うこころがな。こころ、お前はオレたちを利用してんじゃね?」
「一吹、ちょっと……」
「繋もそう思うだろ? お前も疑問に思ってたじゃん。こんなことが起きてまだ、あれは常識だって言われて納得できるか?」
一吹が睨むように俺に訊ねる。
そんなわけない。
あれが常識だって言うのなら、この世界で何が起きようと常識となってしまう。不可思議なことが多すぎてもはや何を信じて何を疑えばいいのかは分からない。一吹の言うことも理解できるし、その言い分が真実である可能性なんていくらでもある。
だが、俺は夕凪のことは疑っていない。
確かに、この世界に関して何かを知っているかもしれない。何か意図があって隠しているようにも思える。
その場の感情だけで、夕凪を責めるのはお門違いだろう。
「納得はできないさ。この世界には、常識と呼べるものが少なすぎるよ」
「なら……」
「一吹の話も、可能性がないわけじゃないし、今までで一番筋が通ってる。でもさ、ここで夕凪を疑うのは間違ってるよ。何を常識と思うかなんて人それぞれだし、仮に夕凪が俺達を利用するような真似をしていても、その判断は早計じゃないかな」
「……」
一吹は黙り込んだ。
何かを考えるような、少し苛立ったような表情だった。きっと一吹は、いろいろ葛藤しているのだと思う。世界の秘密の調査をするきっかけとなったのは、彼だから。世界の秘密を探るうちに想像できてしまった展開に、一番責任を感じているのかもしれない。
もしもその推測が真実だとしたら。気づかなければ、俺達は今も呑気に学校生活を送っていただろうから。
「……悪い。カッとなりすぎた」
まだ納得がいっていないようだったが、一吹は夕凪に向き直って素直に謝罪した。
「いえ。私の方こそ、言い方が悪かったわ」
「……別に。なぁ、もし隠し事があるんなら言ってくれよ。オレ、自分の想像が正しいとしたら、お前を疑わざるを得ないよ」
一吹が濁りかけた目で夕凪に言う。ピリピリとした雰囲気は、未だ保健室内に満ちている。北原とあずは、二人の雰囲気に圧倒されてすっかり会話に入るタイミングを見失っているようだった。
「私から話すことは何もないわ。隠していることはないもの」
「……そうかよ」
夕凪が淡々と答えると、一吹はそう吐き捨てて保健室のベッドに腰掛けた。少し乱暴な足取りだったが、表情はどこか悲しそうに見えた。
「この世界は檻だよ。オレたちを閉じ込める檻だ。実験体として、ここで監視されてんだよ」
「南雲くん……」
「そのうち、殺されちゃったりしてな。……早く記憶取り戻して、行くべき世界に行くしかないのかも」
へらりと力なく一吹は笑った。
傷ついたような、疲弊したようなその笑みに、俺は何も声をかけてあげられなかった。
重苦しい雰囲気を抱えたまま、俺たちは安全を確認して解散することになった。あの後、単独行動をする時は気を付けることを約束し、特に会話をすることなく終わった。
頭を冷やす時間が必要だ。
そう最後に告げて、俺は皆と別れた。処理しきれないほどの情報を手に入れて過度な想像を働かせた一吹も、ずっと何かを隠しているような様子の夕凪も、今はゆっくりと落ち着く時間が必要だと思う。北原もあずも混乱しているようだったし、ひとまずは冷静に物事を考えられるようになるまでは、チーム・コンパスの活動は一旦中止だ。
俺は、先程の夕凪の言葉が気にかかっていた。
世界の均衡が崩れ始めている。その言葉は、世界の秘密の何かしらを知らなければ言えない台詞だと思う。あの化け物のことも知っていたようだし、少なくとも俺達が知らない情報を得ているのは確かだ。
下手に夕凪が責められることのないように、俺たちを監視している輩がいないことや、夕凪が俺たちを利用するような真似をしていないことを証明したい。
その思いから、俺はとある部屋に忍び込むことに決定した。今まで、この教室には入ろうと思わなかった。なにせ、あの夕凪が出入りし、そこにあるモノには何の手がかりもなかったと何度も報告してくれていたからだった。
夕凪に対して少しの疑いをかけられてしまった今では違う。
俺は、職員室から生徒会室の鍵を拝借した。現在は誰も使用していないのか、運よく鍵がそこにかけられていた。
なるべく生徒や教師に遭遇しないように、足早に生徒会室に向かった。普段利用している教室とは多少離れた場所にあるこの部屋には、一体何が隠されているのだろうか。そもそも何も隠していないのかもしれないが、今となっては何かしら俺達が求める情報がある気がしてならない。
ごめん、夕凪。
俺は心の中で夕凪に謝罪をし、生徒会室を守っていた錠前に鍵を差し込んだ。静かに鍵を開け、扉をゆっくりと開いた。
それまで黙っていた夕凪が、ピシャリと言った。真剣な様子で仮説を語っていた一吹が、その一言で目を吊り上げた。
「こころはそうは思わねぇの? 今回のことが全部普通だって言うのか? お前のお得意な、これが常識ってヤツ?」
「……全部とは言わないわ。でも、街から出られないこととかは、昔からそうだから何も疑うことはないんじゃないかしら」
「……あれが世界の常識だって、本当に思うか? オレはもう思えない。いろいろ可笑しすぎるよ。……特に、不自然なことを平然と常識だって謳うこころがな。こころ、お前はオレたちを利用してんじゃね?」
「一吹、ちょっと……」
「繋もそう思うだろ? お前も疑問に思ってたじゃん。こんなことが起きてまだ、あれは常識だって言われて納得できるか?」
一吹が睨むように俺に訊ねる。
そんなわけない。
あれが常識だって言うのなら、この世界で何が起きようと常識となってしまう。不可思議なことが多すぎてもはや何を信じて何を疑えばいいのかは分からない。一吹の言うことも理解できるし、その言い分が真実である可能性なんていくらでもある。
だが、俺は夕凪のことは疑っていない。
確かに、この世界に関して何かを知っているかもしれない。何か意図があって隠しているようにも思える。
その場の感情だけで、夕凪を責めるのはお門違いだろう。
「納得はできないさ。この世界には、常識と呼べるものが少なすぎるよ」
「なら……」
「一吹の話も、可能性がないわけじゃないし、今までで一番筋が通ってる。でもさ、ここで夕凪を疑うのは間違ってるよ。何を常識と思うかなんて人それぞれだし、仮に夕凪が俺達を利用するような真似をしていても、その判断は早計じゃないかな」
「……」
一吹は黙り込んだ。
何かを考えるような、少し苛立ったような表情だった。きっと一吹は、いろいろ葛藤しているのだと思う。世界の秘密の調査をするきっかけとなったのは、彼だから。世界の秘密を探るうちに想像できてしまった展開に、一番責任を感じているのかもしれない。
もしもその推測が真実だとしたら。気づかなければ、俺達は今も呑気に学校生活を送っていただろうから。
「……悪い。カッとなりすぎた」
まだ納得がいっていないようだったが、一吹は夕凪に向き直って素直に謝罪した。
「いえ。私の方こそ、言い方が悪かったわ」
「……別に。なぁ、もし隠し事があるんなら言ってくれよ。オレ、自分の想像が正しいとしたら、お前を疑わざるを得ないよ」
一吹が濁りかけた目で夕凪に言う。ピリピリとした雰囲気は、未だ保健室内に満ちている。北原とあずは、二人の雰囲気に圧倒されてすっかり会話に入るタイミングを見失っているようだった。
「私から話すことは何もないわ。隠していることはないもの」
「……そうかよ」
夕凪が淡々と答えると、一吹はそう吐き捨てて保健室のベッドに腰掛けた。少し乱暴な足取りだったが、表情はどこか悲しそうに見えた。
「この世界は檻だよ。オレたちを閉じ込める檻だ。実験体として、ここで監視されてんだよ」
「南雲くん……」
「そのうち、殺されちゃったりしてな。……早く記憶取り戻して、行くべき世界に行くしかないのかも」
へらりと力なく一吹は笑った。
傷ついたような、疲弊したようなその笑みに、俺は何も声をかけてあげられなかった。
重苦しい雰囲気を抱えたまま、俺たちは安全を確認して解散することになった。あの後、単独行動をする時は気を付けることを約束し、特に会話をすることなく終わった。
頭を冷やす時間が必要だ。
そう最後に告げて、俺は皆と別れた。処理しきれないほどの情報を手に入れて過度な想像を働かせた一吹も、ずっと何かを隠しているような様子の夕凪も、今はゆっくりと落ち着く時間が必要だと思う。北原もあずも混乱しているようだったし、ひとまずは冷静に物事を考えられるようになるまでは、チーム・コンパスの活動は一旦中止だ。
俺は、先程の夕凪の言葉が気にかかっていた。
世界の均衡が崩れ始めている。その言葉は、世界の秘密の何かしらを知らなければ言えない台詞だと思う。あの化け物のことも知っていたようだし、少なくとも俺達が知らない情報を得ているのは確かだ。
下手に夕凪が責められることのないように、俺たちを監視している輩がいないことや、夕凪が俺たちを利用するような真似をしていないことを証明したい。
その思いから、俺はとある部屋に忍び込むことに決定した。今まで、この教室には入ろうと思わなかった。なにせ、あの夕凪が出入りし、そこにあるモノには何の手がかりもなかったと何度も報告してくれていたからだった。
夕凪に対して少しの疑いをかけられてしまった今では違う。
俺は、職員室から生徒会室の鍵を拝借した。現在は誰も使用していないのか、運よく鍵がそこにかけられていた。
なるべく生徒や教師に遭遇しないように、足早に生徒会室に向かった。普段利用している教室とは多少離れた場所にあるこの部屋には、一体何が隠されているのだろうか。そもそも何も隠していないのかもしれないが、今となっては何かしら俺達が求める情報がある気がしてならない。
ごめん、夕凪。
俺は心の中で夕凪に謝罪をし、生徒会室を守っていた錠前に鍵を差し込んだ。静かに鍵を開け、扉をゆっくりと開いた。
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