15 / 32
第3章 強くなると決めた日
第四節 カメラの向こう側で
しおりを挟む
「よしっ、次はプランク! 30秒、2セット!」
「はあっ……これ、地味にキツいやつ……」
「でもさ、体幹ってフォームにも泳ぎにも効くって、コーチが言ってたよね!」
その日も、ハルとユキの部屋には、三人の声と汗のにおいが満ちていた。
窓を開け放った部屋に風が吹き込み、壁に貼られたトレーニングメニューの紙がふわりと揺れる。
額に汗をにじませながら、三人はトレーニングの後半に差しかかっていた。
そのとき――
「ピンポーン」
玄関のチャイムが鳴った。
「ママかな?」
「でも、こんな時間に?」
数分後、階段を上がってくる足音に、三人がふり向いた。
「ただいまー……って、さちちゃんもいたのね。よかった」
ハルとユキの母・あかねが、少し緊張した面持ちでドアを開けた。
その背後には――見慣れない男女二人。手にはカメラ機材を抱えていた。
「え……? 誰?」
「えっと……?」
「紹介するね。こちら、○○テレビの取材スタッフの方たち」
「えっ……テレビ!?」
さちが思わず声を上げた。
「先日の県大会の結果が話題になっててね。ハルとユキの日々の努力を、もっと多くの人に知ってほしいって、テレビ局の方からご連絡があったの。で、今日のこの時間に合わせて、取材をお願いしてたの。……ちょっと、サプライズにしたくて」
「ママ……っ! びっくりしたよー!」
「でも……うれしい!」
スタッフの女性がやわらかく笑みを浮かべ、続けた。
「今回は、ニュース番組の特集“街のスーパー小学生”というコーナーで、地域で頑張っている子どもたちを紹介するんです」
「今日みなさんが取り組んでいたトレーニングの様子も、カメラで少しだけ撮らせていただいてもいいですか? 保護者の方からは、すでに撮影許可をいただいています」
「また、インタビューで “どうしてここまで頑張れたのか” “身体の変化” “全国大会への思い” などもお聞きできればと」
ハルとユキは一瞬、目を合わせ――やがて、しっかりとうなずいた。
「もちろんです。……ぜひ!」
「取材、受けたいです!」
さちも一歩前に出て、少し戸惑いながらも目を輝かせて言った。
「私も、いいですか? 来月、市の水泳大会に出場するんです。まだまだだけど、二人と一緒にここまで頑張ってきました。伝えたいこと、あります」
スタッフはうれしそうにうなずいた。
「もちろんです。さちさんのように、仲間と共に取り組んできた経験こそ、きっと見る人に届くと思います」
機材の準備が整い、カメラが向けられる。
三人は、いつもの部屋で、いつものように並びながら――どこか少しだけ誇らしげに、立っていた。
取材は和やかに進んだ。
さちが笑いながらトレーニングメニューを読み上げたり、ハルが筋トレ中のフォームについて説明したり、ユキが記録表を見せたり――
画面越しにも、三人の絆と、積み重ねてきた日々がきっと伝わるはずだった。
インタビューの最後、スタッフがマイクを向けた。
「では最後に、全国大会や市の大会に向けて、それぞれの目標を教えてください」
「私は、悔いのない泳ぎでベストタイムを出したい。そして、今まで支えてくれた家族や仲間に、いい報告ができたらと思っています」
――ユキ
「私は……勝ちたいです。全国の舞台で“勝ちたい”って、今ははっきり言える。そう思えるくらい、全力でここまで来たから」
――ハル
「私は、市の大会で一歩踏み出します。結果よりも、自分に勝つってことを、やっと目指せるようになったから」
――さち
カメラのランプが消えると、三人は顔を見合わせて、小さく笑い合った。
「わたしたち、テレビに出るんだね」
「ね。なんだかちょっと、不思議な気持ち」
「でもさ……全部、ここから始まったんだよね。最初のストレッチから」
あの日と同じように、明日もトレーニングがある。
けれど今日の三人は――少しだけ、未来を見ていた。
「はあっ……これ、地味にキツいやつ……」
「でもさ、体幹ってフォームにも泳ぎにも効くって、コーチが言ってたよね!」
その日も、ハルとユキの部屋には、三人の声と汗のにおいが満ちていた。
窓を開け放った部屋に風が吹き込み、壁に貼られたトレーニングメニューの紙がふわりと揺れる。
額に汗をにじませながら、三人はトレーニングの後半に差しかかっていた。
そのとき――
「ピンポーン」
玄関のチャイムが鳴った。
「ママかな?」
「でも、こんな時間に?」
数分後、階段を上がってくる足音に、三人がふり向いた。
「ただいまー……って、さちちゃんもいたのね。よかった」
ハルとユキの母・あかねが、少し緊張した面持ちでドアを開けた。
その背後には――見慣れない男女二人。手にはカメラ機材を抱えていた。
「え……? 誰?」
「えっと……?」
「紹介するね。こちら、○○テレビの取材スタッフの方たち」
「えっ……テレビ!?」
さちが思わず声を上げた。
「先日の県大会の結果が話題になっててね。ハルとユキの日々の努力を、もっと多くの人に知ってほしいって、テレビ局の方からご連絡があったの。で、今日のこの時間に合わせて、取材をお願いしてたの。……ちょっと、サプライズにしたくて」
「ママ……っ! びっくりしたよー!」
「でも……うれしい!」
スタッフの女性がやわらかく笑みを浮かべ、続けた。
「今回は、ニュース番組の特集“街のスーパー小学生”というコーナーで、地域で頑張っている子どもたちを紹介するんです」
「今日みなさんが取り組んでいたトレーニングの様子も、カメラで少しだけ撮らせていただいてもいいですか? 保護者の方からは、すでに撮影許可をいただいています」
「また、インタビューで “どうしてここまで頑張れたのか” “身体の変化” “全国大会への思い” などもお聞きできればと」
ハルとユキは一瞬、目を合わせ――やがて、しっかりとうなずいた。
「もちろんです。……ぜひ!」
「取材、受けたいです!」
さちも一歩前に出て、少し戸惑いながらも目を輝かせて言った。
「私も、いいですか? 来月、市の水泳大会に出場するんです。まだまだだけど、二人と一緒にここまで頑張ってきました。伝えたいこと、あります」
スタッフはうれしそうにうなずいた。
「もちろんです。さちさんのように、仲間と共に取り組んできた経験こそ、きっと見る人に届くと思います」
機材の準備が整い、カメラが向けられる。
三人は、いつもの部屋で、いつものように並びながら――どこか少しだけ誇らしげに、立っていた。
取材は和やかに進んだ。
さちが笑いながらトレーニングメニューを読み上げたり、ハルが筋トレ中のフォームについて説明したり、ユキが記録表を見せたり――
画面越しにも、三人の絆と、積み重ねてきた日々がきっと伝わるはずだった。
インタビューの最後、スタッフがマイクを向けた。
「では最後に、全国大会や市の大会に向けて、それぞれの目標を教えてください」
「私は、悔いのない泳ぎでベストタイムを出したい。そして、今まで支えてくれた家族や仲間に、いい報告ができたらと思っています」
――ユキ
「私は……勝ちたいです。全国の舞台で“勝ちたい”って、今ははっきり言える。そう思えるくらい、全力でここまで来たから」
――ハル
「私は、市の大会で一歩踏み出します。結果よりも、自分に勝つってことを、やっと目指せるようになったから」
――さち
カメラのランプが消えると、三人は顔を見合わせて、小さく笑い合った。
「わたしたち、テレビに出るんだね」
「ね。なんだかちょっと、不思議な気持ち」
「でもさ……全部、ここから始まったんだよね。最初のストレッチから」
あの日と同じように、明日もトレーニングがある。
けれど今日の三人は――少しだけ、未来を見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
ぼくの家族は…内緒だよ!!
まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。
それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。
そんなぼくの話、聞いてくれる?
☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
