絆のトレーニングノート:始まりの春、強さの種

たまに何かを書く人

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第3章 強くなると決めた日

第四節 カメラの向こう側で

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「よしっ、次はプランク! 30秒、2セット!」

「はあっ……これ、地味にキツいやつ……」

「でもさ、体幹ってフォームにも泳ぎにも効くって、コーチが言ってたよね!」

その日も、ハルとユキの部屋には、三人の声と汗のにおいが満ちていた。

窓を開け放った部屋に風が吹き込み、壁に貼られたトレーニングメニューの紙がふわりと揺れる。
額に汗をにじませながら、三人はトレーニングの後半に差しかかっていた。

そのとき――

「ピンポーン」

玄関のチャイムが鳴った。

「ママかな?」

「でも、こんな時間に?」

数分後、階段を上がってくる足音に、三人がふり向いた。

「ただいまー……って、さちちゃんもいたのね。よかった」

ハルとユキの母・あかねが、少し緊張した面持ちでドアを開けた。

その背後には――見慣れない男女二人。手にはカメラ機材を抱えていた。

「え……? 誰?」

「えっと……?」

「紹介するね。こちら、○○テレビの取材スタッフの方たち」

「えっ……テレビ!?」

さちが思わず声を上げた。

「先日の県大会の結果が話題になっててね。ハルとユキの日々の努力を、もっと多くの人に知ってほしいって、テレビ局の方からご連絡があったの。で、今日のこの時間に合わせて、取材をお願いしてたの。……ちょっと、サプライズにしたくて」

「ママ……っ! びっくりしたよー!」

「でも……うれしい!」

スタッフの女性がやわらかく笑みを浮かべ、続けた。

「今回は、ニュース番組の特集“街のスーパー小学生”というコーナーで、地域で頑張っている子どもたちを紹介するんです」

「今日みなさんが取り組んでいたトレーニングの様子も、カメラで少しだけ撮らせていただいてもいいですか? 保護者の方からは、すでに撮影許可をいただいています」

「また、インタビューで “どうしてここまで頑張れたのか” “身体の変化” “全国大会への思い” などもお聞きできればと」

ハルとユキは一瞬、目を合わせ――やがて、しっかりとうなずいた。

「もちろんです。……ぜひ!」

「取材、受けたいです!」

さちも一歩前に出て、少し戸惑いながらも目を輝かせて言った。

「私も、いいですか? 来月、市の水泳大会に出場するんです。まだまだだけど、二人と一緒にここまで頑張ってきました。伝えたいこと、あります」

スタッフはうれしそうにうなずいた。

「もちろんです。さちさんのように、仲間と共に取り組んできた経験こそ、きっと見る人に届くと思います」

機材の準備が整い、カメラが向けられる。
三人は、いつもの部屋で、いつものように並びながら――どこか少しだけ誇らしげに、立っていた。

取材は和やかに進んだ。

さちが笑いながらトレーニングメニューを読み上げたり、ハルが筋トレ中のフォームについて説明したり、ユキが記録表を見せたり――
画面越しにも、三人の絆と、積み重ねてきた日々がきっと伝わるはずだった。

インタビューの最後、スタッフがマイクを向けた。

「では最後に、全国大会や市の大会に向けて、それぞれの目標を教えてください」

「私は、悔いのない泳ぎでベストタイムを出したい。そして、今まで支えてくれた家族や仲間に、いい報告ができたらと思っています」
――ユキ

「私は……勝ちたいです。全国の舞台で“勝ちたい”って、今ははっきり言える。そう思えるくらい、全力でここまで来たから」
――ハル

「私は、市の大会で一歩踏み出します。結果よりも、自分に勝つってことを、やっと目指せるようになったから」
――さち

カメラのランプが消えると、三人は顔を見合わせて、小さく笑い合った。

「わたしたち、テレビに出るんだね」

「ね。なんだかちょっと、不思議な気持ち」

「でもさ……全部、ここから始まったんだよね。最初のストレッチから」

あの日と同じように、明日もトレーニングがある。

けれど今日の三人は――少しだけ、未来を見ていた。

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