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プロローグ
しおりを挟むバロアス王国。
獣人を中心とし豊かで広大な土地で歴代の賢王による領土統制が行われている。
獣人には『番』というこの世に唯一無二の相手が存在している。
バロアス王国では、番を始め様々な縁を最優先とした
『番絆』
『番縁』
『繁縁』
という獣人独自の三種の法令が定められている。
番絆。
番同士の繋がりのことで互いが唯一無二である絆の証だ。
恋人になったり婚姻したりした暁には、獣人が相手に対し性交時に首元に噛み跡を残すことで現れる種族ごとの番の紋印を付けて、二人の間に強固な繋がりをつくることが出来る。
獣人族は番の影響を多大に受け、また番相手を生涯の相手として朽ちるまで愛しぬくのだという。
対し人族は番の絆を本能的に感じることが無く、獣人同士ならば問題ないが、番相手が獣人と人族で人族に既に愛する相手が居る場合は、結果番を奪われた獣人は狂ってしまい、最悪死に至ることがあるという。
番縁。
生涯の中で数多の人数の中から番相手を探すのは至極困難であり奇跡に近い出来事でもある。人族は影響を殆ど受けずそれすらも気づかずに生きていけるが、獣人にとっては長年番探しに翻弄され心身が憔悴してしまったり、番相手に既に相手がいて狂乱してしまう可能性が高く、その救済措置として作られたのが番縁だ。
番縁には三つの役割がある。
一つは番相手に既に相手がいた場合。
二つ目は番同士でないが心身の繋がりを得て、この先共に生きていきたいと願った時。
三つ目は番相手が見つからず朽ちて狂う前の本能が動く番探しをしなくて済むようにする場合、だ。
方法としては国に申請を出し『番消し』という薬を飲むことによって番との繋がりを永遠に断つというものだ。
そして男性の番消しの薬は七色だが女性が服用する薬は濃い七色だ。番絆以外で首元に噛みつかれたとしても獣人特有の紋印は現れない。それを可能にさせるのが番消しの薬となる。その後は番絆と同様紋印をつける。そうすることで双方の相手の番絆が現れても分からない。
繁縁。
互いに親友・恋慕ではない心から慕う相手と定めた相手に対し、国に申請して互いの体内の一部に魔術で紋章を刻むことにより、親族同等の状態となり有事の際にも家族や種族と同様の扱いとなる。
これらの法令に関しては本人達の意思が最優先とされ、身分の差や周りが反対を進言をすることは基本タブーとされている。それは番だけでなく『縁』という目に見えない繋がり、特に獣人特有の相手の心に寄り添うという性質を尊重しているからだ。
貴族、特に皇族には獣人が多い。人族は平民が多いが特殊な能力を持つ確率が高い。
魔力というものが大なり小なり生き物の中に存在し、獣人が魔力を体内に保持し驚異的な身体能力を持つのに対して、人族は獣人族よりも脆弱ではあるが、体内の魔力を体外に放出する能力に長けている。そのため錬金や魔術などの技術職に関わる者が多いのだ。
そして獣人族よりも圧倒的に人口が少ない人族はバロアス国では存在を重んじられるという風習がある。
更には婚姻し子を授かった場合、何故か必然として獣人の子が生まれるのだ。
獣人の種族によっては他の獣人と血を混合させたくない場合、人族と婚姻して混血させずに純血を繋ぐ慣習がある。しかしこれも何故そう定められているのか不明だが、無理矢理人族と性交させても心が伴わない場合は孕む確率は無いに等しい。
バロアス国では問答無用で死罪になるが、隣国ではそれを利用して孕むことが無い嫌がる人族の人身売買が行われていることも事実としてある。その為近年では強国バロアス国に移住する人族が増え、国側も人族を率先して受け入れている現状である。
***********************
「まあ、つまるところあれです。週に一度くらいで良いので総帥の硬く変化する体の一部分だけちょっと貸してもらえ―――」
「王の御前だぞ!」
綺羅びやかな王宮の荘厳なる謁見室の場。
バロアス国の国王の前で、いや普通に人前でも話すべきではない卑猥且つ無礼千万な応酬が先ほどから繰り広げられている。
とんとんと頬を指でゆっくり叩きながら、半分ほどしか開いていない目はいつものことであり、これまたいつものように気怠そうに話す魔術隊治療魔術師のスーラン。
対して蟀谷に血管を浮き立たせながらも何とか冷静を保とうとするが、スーランとの暖簾に腕押しな会話と無神経な言葉のチョイスの腹立たしさに、平常心を制御し切れていない魔術隊統括総帥のバウデン・ホークル。
どんなに言葉で返しても手応えの無いスーランに、王の御前だと言ったバウデン本人の声が段々荒んできているのは自覚できていないようである。
バウデンのどのような言葉を以てしても、まあまあと適当に受け流し最終的には自分の思い通りに話を持っていこうとするスーラン。
玉座で時たま噴き出しながら眉を上げて面白そうな表情で見物している国王。
その隣で首を横に振ったり軽く肩を諌め高みの見物に徹している宰相。
そして父親が王から呼び出しを受けたと聞き直感的に何かありそうだと、いそいそと同行してきた息子。
一介の女魔術師と魔術隊を束ねる最高権力者との交渉は、性別も背も身分も権力も意味を成さず何故か圧倒的に女魔術師の方に傾いていた。
事の始まりは、スーランが新たに開発した薬の褒賞として国王に呼び出されたことから始まった。
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