余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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褒賞に望むもの 1





「慣例だから一応招集はしたけど、今回も断るつもりなの?」


豪奢な肘置きに腕を乗せ、手の甲で顎を支えながら長い足を組み優雅に玉座に座る男性。

一角獣である王族特有の麗しさと威厳が滲む姿、それに相応しい豪奢な王族衣装。

白銀色の美しく長い髪は毛先だけがバイオレットカラーに煌めき赤紫色の鮮やかな瞳は気品と貫禄を併せ持つ。

三十一歳という若さで国王を承継し、十五年以上賢王として名を轟かせバロアス国を繁栄させてきたガブリアルノ・バロアスは組んだ足先を揺らしながら目の前に何とか真っ直ぐ立っている呼び出した女性を見下ろしながら尋ねた。


対し謁見室に招集された女性は、国王を前に辛うじて立ってはいるものの、気を抜いたらすぐに背中が丸くなりそうな状態だ。眠たそうな垂れ目は余計に垂れて見え、半分ほどしか開いていないのが通常仕様である魔術隊治療魔術師のスーランである。

辛うじて謁見室での最低ラインすれすれな態度のスーランであるが、実は十年以上国の繁栄に貢献してきたといっても過言ではない功績を残しているのだが、その表情と態度は全く以てそぐわない。

緩やかな腰近くまである琥珀色の髪は乱雑に後ろでくるくると丸め団子状にし適当に留めてあり、切ろう切ろうと思って結局面倒で暫く経つ。

本来はっきりとした大きな瞳だろう藍色の垂れ目は、いつも眠そうに半分ほどしか開いていない。それが例え国王の御前であろうとだ。それはスーランの元々の性質であり相手が誰でも全く同じ対応なのである。



王国魔術隊では攻撃魔術、防御魔術、治療魔術と部門が分かれており、それぞれ色の異なるローブを纏っている。

攻撃部門は紺色、防御部門は灰色、そしてスーランの所属する治療部門は深緑色だ。

女性魔術師は基本専用の黒いワンピースが支給されているのだが、足元がひらひらスースーすることを好まないスーランは、同色の上下を着用し下はパンツワンピースを履いていた。

スーランは治療魔術師だが、同時に治療薬師でもある。
治療魔術師は治療度合いによっては大量の魔力を消費する。魔力量が少ない者はあっという間に魔力枯渇に陥る為、治療魔術傘下の治療薬師専門に移行することも少なくない。

なので必然と治療魔術師は魔力量が多い者だけが残り、人数はそう多くないのだ。

それに治療魔術は即効性があるとはいえ、幾度も使うと自然治癒機能が衰えてしまう可能性がある。戦時中などでは重宝されるが、治療魔術師の魔力枯渇を避ける為と、薬を服用し自然治癒機能を低下させない方法を有事以外は用いている。


「わかってるなら呼び出さないでくださいよ、今日は休みだったのに。三大欲求の一つ惰眠を貪れなくなりました」
「ぷっ」
「相変わらずですね、貴女は」


噴き出すガブリアルノの横で表情を一切変えない、いや変えたところを殆ど見たことがないバロアス国の宰相であり参謀、そして三大公爵の一つ、蛇族の当主であるギュスター・サーベントが溜息を吐きながらぼやいた。

後ろに綺麗に流されているダークブロンドの髪、高級素材を使用した漆黒の貴族服に身を包み、光沢のある白いフリルタイには希少価値の深紅の魔石が嵌め込められ、同じ色をした三白眼の無機質な瞳は端正で整った顔をより冷淡に見せている。


「わかっているなら進言して諫めておいてくださいよ」
「ご冗談を。口達者との言葉の応酬をわざわざ冒す愚行はしません」
「ひどーい」
「ひどーい」


ガブリアルノとスーランの声が重なり、ギュスターはもう一度溜息を吐きながら首を横に振る。


「貴女の怠惰はこの国に来た時から変わりませんが、一体いつ治るのでしょうね」
「治る…宰相の無表情と在るかすらわからない優しさはいつ治るのですか?」
「実現不能です」
「私もです」
「ぶっ」


こんなやり取りもいつものことで、再度噴き出すガブリアルノにギュスターは毎度ではあるが言わずにはいられなかったらしくやれやれと肩を諌めた。スーランとしては言わないと気が済まないなら特に問題ないので好きにしてくれという方針だ。


「まあ、薬の精製と治療魔術をしている時はちゃんとしてるみたいなんで、それでチャラにしてください。あ、性交の時も意外に――――」
「無遠慮な口を閉じなさい。もうよろしい」
「ぶはは!」


ガブリアルノは顎を逸らしながら笑っている。ギュスターは再度わざとらしく仮面のような動かぬ顔で溜息を吐くという嫌がらせを披露してくれた。

一頻り笑ったガブリアルノが目元を拭いながら顔を正面を戻した。


「あー面白い。ギュスターに臆せず対等に話せるのはスーランくらいだよね」
「声も形共に諸々認識していないのでは」
「鉄仮面と認識してる時点で十分―――」
「もう止めて、わかったから。ギュスターを困らせられることが凄いから」


深呼吸をして息を整えたガブリアルノがふうと一息つけて、改めてスーランを見る。


「それで?いつもなら辞退する一報寄越して終わり。前回…前々回もかな?そうしてたでしょ」
「ですね」
「じゃあ、何で今回に限っては登城したの?」


その言葉にスーランはまずは話せる状況を作る。


「理由を話す前に人払いを」
「ん?」
「込み入った話になるので」
「へえ、珍しいな。――ギュスター」


ガブリアルノの声にギュスターが扉付近に向かって軽く手を振ると、謁見室内に居た近衛兵が一礼してから扉の外に出て行った。


「さて、人払いはしたよ。聞かせてくれる?今までは面倒だと片っ端から断っていた褒賞に関して何故わざわざ登城したのかな」


面白そうな表情をしながらガブリアルノが足を組み直し、スーランは垂れ目の眠そうな目を国王に向ける。





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