余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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硬いアレだけ貸してもらえれば 1






背筋を伸ばして立っていることが困難になりつつあったスーランは、椅子を用意してもらい謁見室の窓側でのんびりと香しい紅茶で喉を潤していると、程なくして重厚な扉が開けられた。

開けた近衛兵が軽く一礼し、端にずれると外で待っていた背の高い美丈夫が入ってきた。

魔術隊統括総帥のみに許された漆黒の艶のあるローブを身に纏い、同色の魔術服は騎士や特殊部隊のようなびしっとしたものはでなく幾分か緩めに仕上げられている。

鮮やかなレモン色だが温かみを感じられない瞳は正面を見据え、胸元まである焦げ茶色とキャメル色のメッシュの癖のある髪は右側だけ複雑に編み込まれ、その部分は込められた魔力で煌めいている。

右側の耳から垂れる銀色の耳飾りには魔力の込められた半透明な黄色い石が鮮やかな輝きを放ちながら揺れていた。

そして何故かバウデンの後方から彼の息子も共に入ってきた。


国王に呼び出された人物、鷲族で三大公爵ホークル家の当主であり魔術隊統括総帥のバウデン・ホークルとその嫡男キリウ・ホークルが揃って胸元に手を当て一礼した。


「お呼びと伺いましたが」
「うん。キリウも一緒なんて珍しいね」


声を掛けられたキリウは顔を上げ、バウデンとは真逆の穏やかな表情で山吹色の瞳を細めて微笑む。さらさらとした短めの薄茶色と淡い黄色のメッシュの髪が目に少しかかった。


「ちょうど父上と周年式典の話をしていたんです。そこへ珍しく近衛兵が父上を呼びに来たので、直感的にこれは一緒に行かなければと思いゴリ押しで馳せ参じました」
「こういう時は何度諌めても聞く耳を持たず」


表情を変えずに話すバウデンに対し、にっこりと微笑むキリウは見た目こそ無害に見えるが、辛辣で口達者でありスーランを理解し対処できる数少ない人物だ。


「へえ。キリウの直感は当たるのかい?」
「大体は。きっと何か面白そうなことが、と」
「面白そう…ねえ」


ガブリアルノは場合によってはそんな流れになるのかもしれないと何とも複雑な気持ちで窓側を見やる。その視線に気づいたキリウが視線を向けると、そこには背中を丸めて日向ぼっこしているスーランが居た。


「あれ、スーランさん?今日はお休みでは?」
「やあ」


キリウの声にゆっくりと振り向いて返したスーランは側に置いてあったティーワゴンにカップを置き、よいしょと立ち上がる。

とてとてと緩慢な動きでバウデンとキリウに向かってきたスーランにバウデンが僅かに怪訝な顔をする。


「スーランか…何故ここに?」
「避妊薬の報告以来ですね」


バウデンに最後に会ったのは男性避妊薬の完成を報告した一ヶ月ほど前だ。
スーランはガブリアルノに視線を向ける。


「もう交渉始めて良いですか?日向ぼっこしてたら眠気が」
「ぷっ」
「…スーランはスーランだなぁ。良いよ」


スーランのマイペースに噴き出すキリウと気が抜けたように溜息を吐くガブリアルノ。ギュスターは肩を諌めるだけの仕草にバウデンは怪訝な表情を濃くした。


「交渉?」
「そうです」
「私にか」
「はい」


首を傾げるバウデンは、何故わざわざ国王の前で話すのかとでも言いたげな顔だ。

スーランは陽に当たり温かく熱を持ったローブのせいで眠気が増し目を擦り欠伸を噛み殺しながら、さっさと終わらそうとバウデンに交渉を開始した。


「前から薬の開発で褒賞の授与を提示されていたんですが、面倒で一度も受け取らず今日まできたんですよね。でも望みが出来まして今回総帥にこうして来てもらいました」
「お前の望みに私が関係していると?」
「そうですね」


答えるスーランにバウデンは表情を崩さないままだ。
キリウに至ってはやっぱり直感は間違っていなかったというような期待感溢れる表情になっている。


「望みとはなんだ」
「総帥との半年間限定の婚姻」


その言葉に息を呑んだキリウは目が輝き、対してバウデンはゆっくりと瞬きをした。


「何だって?」
「総帥との半年間限定の婚姻」
「誰と」
「総帥と私」


再度耳に入った言葉にバウデンは同じくゆっくりと瞬きをしてからガブリアルノに視線を移した。


「これが彼女の褒賞内容ですか?」
「そうだね」
「誂うことが?」
「違うよ、スーランがバウデンとの婚姻を望んでいるのは本当」


その言葉に理解が追いつかないのか、バウデンは首を捻りながらスーランを見る。


「お前が私を異性として意識してたと言うのか?そんな素振りあったか?」
「それがちょっと良くわからなくて」
「は?」


思わず一文字で返したバウデンに、スーラン覗く三名はそりゃそうなるだろうと同時に厳かに頷いた。


「好きでもない相手と婚姻するのか」
「嫌いではないので」
「そういうことではない」


何だかおかしな話になってきたという風にバウデンは首を捻り続ける。


「婚姻とは想い慕う相手とするものではないのか」
「まあ世間一般ではそうらしいですね」
「お前の話を聞いている」


思ったような答えが返ってこないスーランにバウデンは混乱し始めたようだ。


「じゃあ聞くが、お前が私と婚姻したいと思う理由は何だ」


今度は明確な答えを求めてバウデンが尋ねてくる。





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