余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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承諾の言質と朝一の非難 1




「……分かった。半年だぞ」


そしてついにバウデンが折れた。

とてとてと元の場所に戻ってきたスーランは両手を上げて待っていたキリウとハイタッチをして勝利を祝う。それを見たバウデンから睨まれたが、そんな感情的な表情を見たことがなかったスーランは何だか嬉しくなりにこりと笑うと何故か目を見開かれた。


「おお。バウデン承諾してくれるのか、ありがとう!国が救われた!」
「英断です」


友人二人からの大袈裟な励ましも今のバウデンにとっては癪に障るだけのようだ。


「総帥、承諾してくれてありがとうございます。…あ、すみません、今すぐ二通の届を持ってきてください。こういう人は時間を与えると頭使って足掻こうとしてくるんで」


お礼を言ったその口で近衛兵に届け出を持ってこさせようとするスーランの癪に障る発言にも、バウデンは何を言うでもなく諦めの境地に入っていた。


それから半刻後、スーランは自分とバウデンが署名した婚姻届と離縁届をガブリアルノに渡した。


「ではこちらを。婚姻届の方はすぐに提出でお願いします」
「うん、わかった。ギュスター」


ギュスターは婚姻届をガブリアルノから受け取り、その場から離れた。


「総帥。限定婚姻中はバウデンさんと呼んでも良いですか?外では総帥のままで」
「勝手にしろ」


放心手前のバウデンは好きにしてくれという風に手を振った。


「ありがとうございます。お家は何時から行っても良いですか?」


次々に話を詰めてくる饒舌なスーランにバウデンはもうヤケになりつつあるのか、「好きにしろ。家令には言っておく」と答え「僕からも言っておきます。明日からでも良いですよ!」と一時的に義理息子になったキリウからも言われた。

とはいえ急なことではあるので、一日開けて明後日からお邪魔することにした。

決まるとバウデンが早々に去って行こうとしたので、スーランが「あ、総帥。初日の夜はちゃんといてくださいよ。だいぶ魔力も性欲も足りてないんで」と念を押すと、肩が下まで落ちてしまうのではないかという程に溜息を吐かれ出て行った。その仕草も新鮮でスーランは今後の婚姻生活が楽しみになる。


「本当にバウデンを言い負かすとはなぁ…」
「はい。無事捕獲できて良かったです。この後良く眠れそう」
「ぷふっ」
「キリウの援護射撃も助かったよ」
「いえ、何だか面白そうだったのでつい」
「義理母にはなれないけど、研究成果はしっかり教えるね」
「それ本当に嬉しいです」
「うん。半年間よろしく」


半年間の言葉にガブリアルノから物憂げな眼差しを感じたが、スーランは気づかない振りをした。


その日の夜は睡魔と色々満足した気持ちでぐっすりと眠れた。




翌日スーランが欠伸をしながらのんびり出勤する。
魔術隊は騎士隊、特殊部隊と共に王宮のすぐ近くに併設されている。魔術隊施設の大きな門を潜ると、そこから三方向にそれぞれの部門ごとの施設に分かれているのだ。

スーランが治療魔術専門の施設前に向かっていると、玄関付近に治療魔術師とは異なる紺色のローブを羽織った男性が立っていた。

紺色のローブということは攻撃魔術部門の魔術師だ。そのまま歩いていくと相手がスーランに気づき向かってくる。


(んーどっかで…――――あ、総帥の)


スーランの目の前で止まった攻撃魔術師は長い茶色の髪を後ろで縛っており、何とも険しい表情でスーランを見下ろすので首を傾げる。


「?」
「総帥から聞いた。事実か?」
「事実とは」
「婚姻だ!」


急に大きな声を出されて、スーランは思わず耳を塞いだ。


「朝から大声は勘弁してくださいよ」
「事実かと聞いている!」


耳を塞いで丁度良いくらいの声音だが、怒鳴る声は好きではない。ふと昨日バウデンが最後の方に怒鳴っていた時は全然平気だったなと思い出す。


「答えろ!」
「誰ですか」
「何?」
「話したことがない、名前も知らない人からの突然の質問に答える必要とは」


すると、魔術師は余計に顔を険しくさせた。


「お前も知っているだろう!総帥の部下だ」
「それは知ってます。貴方は名前も知らない、話したこともない人から開口一番こんな風に怒鳴られて普通に返すんですか」


朝から本当に勘弁して欲しい。スーランは朝がとても弱いのだ。
いつも寮長か寮で働く人にスーランは起こしてもらっていて、自分でちゃんと起きられたことはほぼない。ここに来る時も半分まだ眠っているような状態なのだ。

そこで魔術師は流石に感情的になっていたと気づいたらしく、一つ深呼吸したのでスーランも耳から手を外した。


「…失礼した。私はテゼル。攻撃魔術一部隊隊長だ」
「スーランです」
「貴女が総帥と婚姻したという話は本当か?」
「ああ、はい。本当です」


スーランの回答にテゼルはわかってはいたがショックを受けたような顔をした。


「なんてことだ…」
「褒賞として半年間だけですけど」
「それも聞いている。こんなことが許されるなんて…」
「国王陛下の目の前で決まりました」


何故テゼルの許しが必要なのかと不思議ではあったが、眠気に怒鳴り声で既に面倒になり始めていたスーランは「まあ好きに言ってください」と彼の横を通ろうとすると、小さい声で呟かれた。


「…テレサを大事にしていたんだ」
「テレサ?」
「総帥の死別した伴侶。私の妹だ」


話は聞いていたが総帥の死別した伴侶の名前は初めて聞く。ということはテレサはキリウの母親で、テゼルはキリウの伯父ということだ。


「はい。名前は今初めて知りましたが繁縁で婚姻されたことは存じてます。貴方が兄だということは知りませんでしたけど」
「…総帥はテレサを想ってくれている」
「そうですか」
「未だに恋人が居なかったり婚姻しなかったのもきっと…」
「…?」
「…貴女は何も思わないのか?」
「特に何も」


テゼルの顔が怒りに染まる。


「褒賞を出しにして総帥を手籠めにするなんて…卑怯な女だ!」


卑怯と言われればそうだとしか言えない。確かに褒賞というカードを出したことは一つのきっかけにはなっているのだから。

だからといってそれを他人、幾らバウデンの伴侶だったテレサの兄から言われても困る。最終的に了承したのはバウデンだ。





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