余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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承諾の言質と朝一の非難 2





「ですから好きに言ってください。もう仕事なんで失礼します」
「っ、まだ話は―――――」
「…スーラン、今日もギリギリ…テゼル…?何故ここに?」
「…っ、ホーイェン」


そこにすらりとした長身の深緑色のローブを纏った治療魔術長、梟族の伯爵家ホーイェン・アウレンドロが現れた。

薄い灰色の癖っ毛な髪はいつも手櫛で適当に整えているが、落ちてくる長めの前髪が鮮やかな赤橙色の瞳を隠してしまうので折角の整った顔が台無しな魔術長である。研究集中体質でだらしなさとずぼらさはスーランと良い勝負だ。


「ホーイェンさん、いつもですが良く前が見えますね」
「スーラン…遅刻手前」
「はいはい。入りまーす」


スーランが今度こそテゼルを横切って中へ入ろうと進んでいくと、後ろから大きな声が届いた。


「私は認めない!」


テゼルが認める認めないもどうでも良いのにと思いながらスーランは首を傾げ中に入っていく。その後ろから歩いてきたホーイェンがぼそりと尋ねてきた。


「総帥との…ことか」
「あれ、珍しく耳が早いですね」
「…殆ど、皆、…知っている」
「へえ」


ホーイェンは治療魔術の長ではあるがあまり話すことが好きではない。いつも途切れ途切れでぼそぼそと話すのだが長となるくらい治療魔術師としては一流である。

スーランと似ててあまり周りに関心がなく珍しいと思ったが、恐らく面白がっていたキリウあたりが発信源だろう、スーランは再度欠伸しながら施設内に入っていった。


「スーランさん、おはようございます」
「おはよー」


スーランが研究室に入ると、キリウが近づいてきた。


「何だか凄いことになってますね」
「キリウ発信じゃないの?」
「ふふ、僕です。明日が楽しみで皆に話してしまいました」
「ふうん」


スーランは研究する自分の席に座り、欠伸を噛み殺しながらのそのそと準備を始める。


「キリウ…テゼルが、来ていた」
「え」
「スーランに、絡んでいた」


ホーイェンから事の次第を聞いたキリウは申し訳なさそうに眉を下げた。


「うわぁ…スーランさんすみません伯父がご迷惑を…」
「平気。大きい声だけは勘弁だけど」
「…えー…そんな大声出さない人なのに」
「キリウのお母さんのことを想って憂いたんだよ、きっと。私は大丈夫」


スーランは番避けの薬の調整の前にやり残している魔力薬の調整から始めることにする。


「うーん。何だか伯父は父上を美化し過ぎているんですよね…心酔しているというか」


テゼルが何をどう思おうがそれは自由で良いと思う。そしてスーランが何をどう思い行動しようがそれも自由だ。何も伴侶が存命していて横から掻っ攫っているわけではないのだから。

スーランは体内の魔力を少しずつ動かし体外に放出し始め、指先に集中させる。


「そもそも、父上はあまり女性に関心がないというか。恋情系に疎いというか興味が無いというか、…母上もそんな感じだったみたいで、戦友みたいな感じで婚姻したって父上から―――」
「…キリウ」
「はい?」
「もう、…聞いて、いない。キリウも仕事、しろ」
「あ」


スーランの藍色の瞳はしっかりと開き、既に研究に没頭し始めていた。

指先からの魔力放出の加減を調整しながら、薬の効果の状態を都度確認しつつ、視線はそのままに決まった場所に置いてある作業机から小さな試験管に手を伸ばす。

スーランの指先から淡くきらきら煌めく魔力の織にキリウとホーイェンは思わず目を奪われる。


「…相変わらずスーランさんの魔力は綺麗ですね。目もぱっちりになっている」
「スーランの魔力は…濁りが、見えない」


もうスーランの耳には何も届かない。

スーランがガブリアルノから気にかけてもらったり、態度や行動が怠惰でも特に何も言われないのは、実力もあるが研究や精製、魔術への取り組み方が誰よりも真摯であるからだ。

それが実を結びいくつもの良薬を開発し、本人は自分の為だと言ってはいるが結果的に女性にとって有り難い効能の薬が生まれたことは確かなのだ。

それに加え関心があることにははっきり物を申すが、それ以外は特に何を言うでもなく言葉遣いは適当だが傲慢でもない。それを知っているからこそキリウ始めホーイェンや施設の仲間、寮の者達も他に何もできないスーランの世話をついつい焼いてしまうのだった。


その日は休憩中も帰る際にも色々な人からバウデンとの話を聞かれ、スーランは適当に相槌を打って寮に帰宅した。寮でもあれこれ聞かれそれも適当に対応して部屋に戻り明日引っ越す準備を始める。

と言ってもキリウが人を呼んでくれると言っていたので、少しまとめるとすぐに疲れてしまいスーランは半分うとうとしながら湯を浴びて寝台に横になった。

明日は午後有休をとって引っ越しとなる。


「…明日総帥はちゃんと夜居るのかな」


スーランの魔力の器は元々大容量なので休息だけではなかなか魔力が満たされることはない。魔力薬も休息より僅かに効果があるくらいだ。

しかし前より着実に最大量が減っていることは確かだった。寝そべったままその記録を残して、スーランはぼやきながらうとうとし始めた。


「…そろそろ…魔力やばい、…性欲もそこそこ…総帥の、…硬いの、貸してもらわない…と。濃ければ濃いほど…」


そんな卑猥且つ不躾なことを堂々と口に出しながらスーランは夢の中へ意識を沈めていった。





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