12 / 110
公爵家へお引っ越し 1
翌日昼過ぎ。スーランは公爵家の使いの者達がくる前に長年お世話になった寮の人達にお礼を言いに行った。
不思議なことに誰もがスーランの世話ができなくなることを惜しんでくれたのには些か驚いた。
ガブリアルノに拾われてからずっと同じ寮に居て多少情が入っているのかもしれない。皆奇特でお人好しだなぁとスーランは深く感じた。
皆が半年間限定だと知っているので、また戻ってくるんだろうとか、そのままずっと公爵邸に居たりして等と想像談義しているのを、特に口を挟まず好きに言ってもらった。
半年後にまだ生きているのなら戻る可能性はあるかもしれないが、不明確なことであるしできるだけ嘘は吐きたくなかったので適当に流しておいた。
部屋に戻り自分が持って行くものをのろのろと整理していると、ノックが鳴った。
扉を開けるとそこにはキリウとその後ろに二名の男性と一名の女性が姿勢良く立っていた。
「スーランさんお待たせしました」
「キリウ、ありがと」
スーランは後ろにいる三名にもぺこりと頭を下げた。
「紹介します。執事のグェン、メイドのドリス、馬丁のカイザです。あと一人居ますが、馬車二台できているので外で待っています」
紹介された三名が揃って一礼した。
「思った以上に荷物無かったの。大して運ぶものもないのにすみません」
スーランは再度後ろの三人にぺこりとお辞儀をする。
「良いんですって。僕はこの後仕事に戻らなければならないので諸々動いてもらったり向こうに行く前にある程度話したり説明したりで三名は必要かと思ったので」
キリウがそう言って横に避けると、後ろから一歩前に出たのは執事のグェンだ。黒い髪を後ろに撫でつけダークブラウンの燕尾服で年はスーランより少し上といったところだろうか。
「ホークル公爵家の執事グェンと申します。スーラン様をお迎え出来て光栄です。荷物の方はお気になさらないでください」
「様…そうなるのか…半年間だけよろしくお願いします」
「承知致しました。では早速荷物をまとめて運びましょう。外に馬車は用意しております」
「じゃあスーランさん、夕食で会いましょう」
「うん。ありがと、助かった」
キリウはにっこり微笑んで三人に一つ頷いてから去っていった。
「ではスーラン様、荷物をまとめていきましょう」
「…スーラン様」
慣れない。
名ばかりだがスーランはバウデンの伴侶で公爵夫人ということになり、期間限定でも公爵家の一員になるのだから当然の如く様付けされてしまうのだ。もしかしたら向こうでは奥様と呼ばれてしまうのだろうか…それだけはちょっと辞退させていただきたい。
スーランの虚無の表情を見てくすくすと微笑むのは、ダークブラウンのメイド服で薄茶色の髪をぴっちりと団子状にして結っている、スーランと同年代くらいに見えるドリスだ。
「様付けは慣れませんか」
「はい、果てしなく。出来れば呼び捨てくらいが丁度良い…」
「流石にそれはできません。期間限定とはいえ旦那様の伴侶になられたのですから本来なら奥様になりますので」
「それは…是非とも止めていただきたく…」
「ではスーラン様のままで?」
「はい。妥協します…」
スーランの諦観の滲んだ言葉に快活に笑ったのは馬丁のカイザだ。短いベージュの髪に動きやすそうな服装、一般女性平均の背丈であるスーランが見上げるほど背が高くガタイが良い。
「ははっ。急に畏まられては恐縮してしまいますか?」
「何だか今更ですが、先に起こる未来をもう少しちゃんと考えれば良かったなと…」
「おっと、それはあまり考えずに決断していただいて良かったです。ようやく新しい伴侶がいらっしゃると皆楽しみにしてましたから。亡くなられたテレサ様もそれを望んでいらっしゃったと聞いていますので」
「そうなんですね」
どうやらテレサ自身はテゼルの考えとは違っていたようだ。それを聞いたスーランは首を傾げる。
「でも総帥は亡くなられた伴侶の方をとても大切にしていたと聞いています。屋敷の皆さんは今回の件に誰も反対してないんですかね。これでもそれなりに破天荒な行動したとは思っているんですけど」
「旦那様は無理なものならば断固として断られる筈ですので、受け入れたということならば我々はそれに従いスーラン様が快適に過ごしてもらえるように努めるのみです。それに今止められてしまったら準備が台無しになってしまいますから」
「はあ。まあ止めるつもりは毛頭ありませんが」
執事のグェンがそう言うならお言葉に甘えて好きにさせてもらおう。スーランとしては様呼びはともかく周りに何を言われても特に気にもならない性質だし最低限のことだけしてもらえばそれで十分なのだ。
「あはは!良い心がけですね。さあ、運びましょう」
カイザはスーランがんしょんしょと引きずりながら扉近くまで持っていった荷物をいとも軽そうに持ち上げて出て行った。
そしてグェン主導の元、半刻も経たないうちに全ての荷物が運ばれた。元々家具も備え付けで大道具系も一切ない。
スーランは外で待っていた思った以上に大きくて立派な馬車に乗った。荷物の為に馬車を二台用意してもらったのだが、物にも殆ど頓着がないので本当に必要最低限なものしかなく、馬車一台の半分も埋まらなかった。
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした
由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は――
年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。
「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」
人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。
最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに――
「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」
不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。
これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
好きな人が嬢を身請けするのが辛くて逃げたら捕まりました~黒服の私は執着騎士に囲われる~
こじまき
恋愛
騎士が集う高級酒場「夜香楼」で女性黒服として働くソフィアは、客である寡黙な騎士ゼインに恋していた。けれど彼が指名するのはいつも人気花嬢イサナで、身請けも近いと予想されていた。
ソフィアは、叶わない想いにと嫉妬に耐えきれず、衝動的に店を去る。
もう二度と会うことはないはずだったのに、身請けした嬢と幸せに暮らしているはずの彼が追ってきて――
「お前への愛は焼き印のように刻まれていて、もう消えない」
――失恋したと思い込んで逃げた黒服が、執着系騎士様に捕まって囲われる話。
※小説家になろうにも投稿しています
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。