余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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公爵家へお引っ越し 3






「―――――では報告の通りと、…入浴はメイドが介入して問題ないですか?」
「それ。実は楽しみにしてました。洗っているうちにいつも眠くなるので途中から諸々適当になっちゃうんです」
「それはそれは」
「実際何度か湯船で溺れそうになったことがあるので、その時は引き上げてもらえると助かります」


湯船にドボンと顔まで沈む可能性に本気で困っていたスーランなのだが、イーガンは何故かふいっと顔を背けドリスはくすっと笑う。


「お任せくださいな。私がスーラン様の専属メイドとなります。今後ともよろしくお願い致しますね」
「よろしくです。専属料はバウデンさんからたんまりと…あと、私からも何かくれてやりますね」
「ふふ。くれてやるのですか?」
「言葉遣いがよろしくないのはもう見逃してください。一応名ばかりの公爵夫人になりましたが仕事以外で一切公に出さないことをお薦めします」


スーランは本気で仕事以外の公には出して欲しくないと思っている。それ以前に着飾って外出とか不可能なのである。一歩も歩けないからだ。


「お部屋は旦那様の隣の奥様専用の部屋を準備しております」
「あれ。亡くなられた奥様の部屋だったのでは」
「旦那様の決定です」
「そうですか。どこでも良かったんですけど、今考えれば性交した後に戻る手間が―――」
「スーラン様、それ以上言わずとも」
「ん?そうですか」


既に有能な家令であるイーガンはスーランの性質を把握し始めているらしい。


「部屋ですが日が浅かったので最低限しかご用意できておらず、衣服や装飾品など旦那様から要望があれば購入していいと言われております」
「最低限生きていけるものがあれば他は何も要らないです。興味も無いので無駄になりますし、楽な部屋着が数着あれば十分。その分ドリスさんの専属料に充ててもらえれば。装飾品とかは邪魔で仕方ないし精製に集中出来ないのは困るので」
「旦那様のように魔力を込めた耳飾りなども必要ないですか?」
「バウデンさんみたいに大きな魔力が動くならば有りですけど、有事でなければ治療魔術師の私は必要ないですね」
「なるほど。それとスーラン様、ドリスはメイドなので呼び捨てでお願いします」
「えー…」
「私どもへの敬語も要りません。どうしてもと仰るならば、こちらも遠慮なく奥様と―――」
「ドリス、よろしくね」
「ふふ、はい。こちらこそ」


イーガンの手強い条件提示にスーランは即座に妥協する。


「スーラン様、不躾ですが夜は…何故部屋に戻られるのですか?」
「ん?」
「いえ…あの」
「スーラン様は期間限定とはいえ旦那様と夫婦という形になります。共に寝ることに何か問題でもあるのかとドリスは尋ねたいのでしょう」
「ああ。愛や想いがある前提ならそれも有りだけどそうではないし。お互いすっきりした後はそれぞれゆっくり休みたいだろうと思って。バウデンさんは私みたいに暇じゃないし忙しいし」


あけすけ過ぎる話に流石のイーガンも固まり、ドリスは頬をより染める。


「それに今まで私自身一度もそういうのなくて。性交は嫌いではないけどどちらかというと気持ち良い思いをして魔力が貰えるって認識で」
「…魔力、ですか」
「うん。私は人よりも魔力量が多いから休息や魔力薬だと回復が遅すぎるの。でも気持ち良いことは嫌いじゃないからお互い良ければ丁度良いかなって。場所もそういう専用の宿屋しか使ってないし、基本家でゆっくり寝たいから事が済んだらすぐ帰ってた」


スーラン自身、心が特定の相手に向いたことがないので、今まで性交した相手もほぼ覚えていないし、心を通わせる方向に持っていこうとした相手に対しては上手く避けながらフェードアウトしていた。


「今までお付き合いをしたことは…」
「ないない。私の性格上無理だし、誰かを慮ること自体難しい。誰かが私の性交思考はクズ仕様っていってたけど本当にその通り」


次々に繰り出される新公爵夫人の赤裸々な性事情に二人は呆然とする。


「でも婚姻ってものを考えた時にしてみたいと思ったのは何故か総帥って思った自分自身もわからないからこそ試してみたかった。それに統括総帥というくらいだから間違いなく魔力も濃そうなのがもら―――――」
「スーラン様、もうよろしい」
「…濃そう」


イーガンの口調は既にギュスターと同じ方向性を示し、ドリスは真っ赤になりながらも卑猥になり得る言葉をついついぼやいてしまう。


「とはいえ半年間だけだから、イーガンさ…イーガンとドリス始め皆も少しだけ我慢でよろしく。朝だけ起こすのと入浴だけ入れてもらえれば他は適当に。食事もパンだけ与えておけばどうにでもなるから。あ、そうだ。庭で薬草を育てる区画を少しだけ分けて欲しいかな」


二人の動かぬ姿に気にすることもなく、またもや沢山話したなぁとスーランは淹れてくれた紅茶を飲み、はふっと息を吐いた。





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