余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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濃いのをください 2





「総帥、お疲れ様です。入ったら名前で呼んで良いですか?」
「…ああ、好きにしろ。足で鳴らしたのかお前は」
「両手塞がってて」


そう言って瓶とグラスを持ち上げた。


「それは?」
「国王陛下から婚姻祝の贈り物」


バウデンは先日のことを思い出したのか溜息を吐き、髪を掻き分けながらスーランを中に招き入れた。仕草一つでも絵になるなと思いながらも、閨をするために訪れているのだからともじもじ恥じらいの欠片もないスーランはすたすたと中に入り、寝台の側にあるサイドテーブルに瓶とグラスを置いて「あー重かった」とぼやきながら両手を振る。


「お前は体力づくりは」
「したことないです」
「だろうな」
「魔力量で何とかカバーしてる感じですね」


ゆっくりとバウデンが寝台に近づいてくる。いつも複雑に編み込まれている右側の髪の部分も今は解けていて、改めて新鮮なバウデンを目の当たりにしてスーランは高揚した。


「あらかじめ言っておくが、私はあまり閨事に関心がないし慣れてもいないぞ」
「問題ないです。勃てばどうにでもなります」


初夜としてはあまりに甘さもへったくれもない会話。
バウデンは無神経なスーランの言葉に今日一日の疲れが出たのかぐったりと肩を落とした。


「バウデンさん、せっかく国王陛下から酒をもらったんで寝台で乾杯しましょう」


スーランはバウデンの後ろに回り、「はいはいこちらへー」と寝台にバウデンを押していく。寝台端に座ろうとしたバウデンをヘッドボード側に押しやって寛げる姿勢にさせてから、スーランはサイドテーブルから瓶を持ち上げて見せた。


「何でも年代物の希少価値の蒸留酒だそうで。バウデンさんが好む味だと聞きました」
「…良く手に入れたな」
「数回分の褒賞をまとめてって感じですからこれくらいは。バウデンさんもついでに」
「私はおまけ扱いか」


都合のよろしくない言葉は流してスーランはシュポンッと蒸留酒を開け…ようとしたが、固くて開けられずバウデンに頼む。渡された蒸留酒をトクトクと小気味良い音をさせながら少なめに注いでバウデンに渡した。


「少なめにしておきましょう。酔っ払って勃たなくなったら大事なんで」
「お前は私を何だと思っているんだ」


げんなりとした表情をしながらもバウデンは好物である蒸留酒のグラスを受け取り目線に合わせて色を見ていた。あの交渉の日からバウデンの色々な表情を見ているスーランはこの期間限定の婚姻はやはり意味のあるものだったと確信しながら、自分のグラスにも少なめに注ぎ寝台の端に座ってグラスを掲げた。


「ではかんぱーい」
「…ああ」


テンションが違い過ぎる二人が軽くグラスを掲げる。ぐびっと一気に呷ったスーランにバウデンは些か驚いていた。喉に刺激の強い蒸留酒が流れ、まあまあだなと思いながら空になったグラスを置く。


「かなり強いやつだぞ。蒸留酒は少量ずつ味わうものだろう」
「私にとっては酒は酔うものですね。つまるところ何でも良いんです」


国王が出し惜しみするくらいには希少な酒なのだが、スーランにはあまり意味を為さない。バウデンは、再度溜息を吐きながらグラスを傾けた。


「バウデンさんにとってはかなり美味って感じですか」
「だな。ちゃんと整えられた環境で熟成された良いものだ」
「へえ」


聞いたところでよくわからないので適当に返事をしながら、じっとバウデンを見つめる。


「…なんだ」
「いえ、まだかなーと」
「美味い蒸留酒くらいゆっくり飲ませろ」
「いえ、そういう意味でなく」


じゃあ何なんだとバウデンが訝しげにスーランを見つめ返した時。


「っ…?」


バウデンが異変を感じたのか、口に手を当てた。


「な、…んだ?」
「あ、ようやく効いてきました?」


スーランは悪びれなく答えバウデンに近づいて彼の手元からグラスを取った。


「…おいっ」
「これ全部飲むと余計に痺れますよー」
「は?」


サイドテーブルにことんとグラスを置いたスーランはドリス達によって綺麗に整えられた髪を掻き分けながら寝台に膝を乗せる。


「いえ、万が一バウデンさんが乙女づいちゃって性交できないとか言われたら困るんで」
「は?」
「ちょっと盛っときました」
「は!?」


寝台にどっこいしょーと掛け声を上げながら上がったスーランは痺れが効き始めたバウデンのすぐ近くまで近づく。


「お前、酒に何か盛ったのか…?」
「あ、大丈夫ですよ。グラスに盛っただけなんで希少な蒸留酒は問題なく。あれ差し上げますんであとでゆっくり飲んでください」
「何で痺れさせる必要がある!?」
「逃げられたら困るんで。痺れは首から下のみなんで喋れはします」


統括総帥に一服盛るという前代未聞の所業にスーランの微塵も気にした様子が無い態度がバウデンを愕然とさせる。


「うわ。バウデンさんのそんな驚いた表情初めて見ました」
「薬を盛られれば誰でもそうなる!気づかなかったことが不覚だ!」
「ああ、無味無臭なんでわかりませんよ。痺れは三割、媚薬は七割って感じで。急いで作った割には上手いこと効果発揮してて安心しました。今夜だけの特別仕様です」


基本媚薬は上の了承なく精製することは禁じられている。


「…お前、まさか―――」
「ちゃんと申請してますよ。確実に捕獲できないと困るからって言ったら渋々一回分だけ許可を―――」
「私は猛獣か!」
「基本の精製方法は借りましたが今回は私のオリジナルです、頑張りましたー。一度二度吐き出せば痺れはとれますよ、ご安心を」
「どこに安心できる要素がある!」


スーランはヘッドボード側に寄りかかっていたバウデンの足をんしょんしょと下に引き摺って寝そべらせた。


「っ、スーラン!」
「はいはい」
「私をわざわざここに座らせたのは…」
「この為ですね。力無いんで」


あまりに狡猾な手段を用いてきたスーランにバウデンは唖然とする。そんなバウデンの心境露知らずなスーランは痺れによってされるがままの彼にこの上なく興奮してきた。





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