余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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肌ぽかぽか 1





「騒がしいな」


声が聞こえた方に目を向けるとそこにはテゼルを従えた漆黒のローブを羽織るバウデンが立っていた。


「総帥だ。お疲れ様です」
「はろー」
「お疲れ様です」


取り敢えず挨拶をしたスーランは視線を戻し、キリウによってあっけなくフォークに捕らえられたフルーツトマトを釈然としない気持ちで見つめる。


「父上とテゼル伯父さんはこれから食事ですか?」
「ああ」
「ねーバウデン。スーランと婚姻してどう?」
「どうとは」
「いやさ、色々あるじゃん」
「色々とは」


何事にも動じないような表情で隙がないバウデンの対応に、リグリアーノは首を傾げながら隣にいるコーネインにこそこそと囁く。


「こんな感じで盛られたとか想像できないんだけど」
「私に聞くな」
「コーネイン、リグリアーノの監視役だろう」
「私にも限界がありますから。だいたいが常時超えていますので対応困難です」
「ひどいなー」


肩を諌めながらわざとらしく溜息を吐くリグリアーノであるが、ガブリアルノの腹黒い部分だけ忠実に継承したような彼にバウデン始めコーネインも昔それは手古摺らされていた。

今では多少緩和したとはいえ、それでも厄介事に巻き込まれるととてつもなく面倒だ。


「スーラン可愛かった?そう言えば今日は化粧してるんだよ」
「それが何か」
「そうやってはぐらかしてばかり。ね?スーラ―――」
「寝てますね」
「「「「は?」」」」


その場に居たキリウ以外の四人の声が同時に重なった。
憎きフルーツトマトを捕獲して、…してもらって静かに食事でもしているかと思ったスーランであったが、陽だまりの席が心地良かったのか頭を僅かに揺らしながら目を閉じて口を少し開けてうたた寝に突入である。


「スーランさんはスーランさんですね、相変わらず」
「…凄いよね、王子を前にして眠れるって」
「お前があれこれ話しかけていたから疲れたんじゃないのか」
「総帥の前でなんて無礼な…」
「―――おい」


バウデンがスーランの傍に行き肩を軽く揺らした。それでもスーランは起きずにぐらりと揺れた頭を顎を支えて押さえながら軽く頬に刺激を与える。


「おい、起きろ。食事中だぞ」
「―――はいはい」


ようやく目を覚ましたスーランだが半分も開いていない。自分の顎を支える手の先の人物を見たスーランは瞬きした後にゆっくり目を閉じて口を開けた。


「!?」


その姿に驚いたバウデンが顎から手を離す。


「…何ですか。起こしたなら責任を取って食べさせるくらいしてくださいよ」
「は?」
「「ぶっ」」
「っ、なんて口を…!」
「おい、テゼル」


バウデンの呆気に取られた一言と噴き出す声、そしてテゼルがまたもやご立腹の様子だが大きい声ではないので気にならない範囲だ。コーネインが窘めてくれているが好きに言わせておけば良い。

それよりもバウデンが人前で驚く姿を見れることは滅多に無いので、また見れたなと思ったスーランはキリウに向き直った。


「キリウ。その小癪なフルーツトマトを成敗するからちょうだい」
「ふふ、はい。あーんしてください」


キリウはスーランが既に食べる気力を失くしている状態を理解して、フォークを持ち直してスーランの口にぽこんとトマトを入れてあげた。


「っ!キリウに給餌させるなんて何様だ!」


ついにテゼルのお怒り度が頂点に達したようでスーランは耳を塞いだ。


「テゼル伯父さん、僕がやりたくてやったことですよ」
「キリウ!こんな女にお前が奉仕するなど…!」
「…テゼル伯父さん」
「キリウ。良いから」


ここでキリウの声のトーンが少し下がったのがわかったスーランはスープを一口だけ飲んでから席を立った。


「ここの席温まり過ぎて眠気限界」
「戻りますか?」
「んーちょっと散歩してからじゃないと午後仕事にならなそう。一応パンだけ持っていこうかな」


スーランはくるみパンをむんずと掴んでトレイを持とうとするが、キリウに「ひっくり返しますから」と言われ素直に任せた。


「お騒がせしました」


片手にパンを持ったまま、スーランは半分目が閉じた状態でぺこりと挨拶をしてから食堂を出た。




「スーランさん、本当に伯父がすみません」


案の定散歩に付き合うと言ってきたキリウがパンを包むナフキンを渡しながら謝罪してきた。


「良いんだって」
「ですが、あの言葉は流石に言い過ぎです」


受け取ったナフキンでパンを包みながらスーランはキリウを見る。


「彼には彼の思うことがあって懸念があるから言ってくる。それは自由…公の場で大声で言うのはどうかとは思うけど。でも私にも思うことがあって行動も非道でなければ自由。唯一止められるとするなら当の総帥だけ。それに誰かが窘めたところで自身が納得しなければ余計酷くなる。そもそも私気にもならないから」
「でも…」
「キリウがした訳でもないのに、そうやって毎度謝られたら私は物凄く苦手な配慮をしなきゃいけなくなる」


言い終えてスーランは欠伸をする。


「…分かりました。スーランさんを困らせたくないので」
「うん。研究成果教えるの遅れちゃうよ」
「ふふ、それは困ります。了解しました」
「うん」


その後散歩で眠気を覚まそうとは思ったが、陽射しは変わらずぽかぽかなわけであって、結局眠気を覚ますことができずに後半は何度かホーイェンに起こされるはめになってしまったのだった。





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