26 / 110
肌ぽかぽか 3
「休憩。果実水の味は何?」
「は、はい。はちみつレモンと青リンゴです」
「はちみつレモンくださーい」
二人はいつも通り何も変わらないスーランに、ようやく自分の仕事を思い出し動き始める。
スーランは桶で手を洗い布を受け取りながら、二人座れるくらいの敷物に「よっこいしょー」と掛け声をかけながら座り、氷で冷やしたはちみつレモン水をもらって喉を潤した。
「ぁー、美味い。一仕事のあとの一杯って何でこんなに美味しいんだろ」
「ふふ。お酒を召し上がる時もそんな感じなのですか?」
「お酒は酔う為かな。味はあまりわからない」
そう言えば先日バウデンの部屋に置いてきた王家御用達の蒸留酒は飲んでいるのかなと思い出す。
「バウデンさんはお酒楽しむ派なの?」
「そうですね。蒸留酒や甘みの少ない葡萄酒など好まれるイメージです」
「ふーん」
スーランは陽のあたり具合を見ながらこくこくと果実水を飲み干す。それから再び腕まくりをして作業を始めようとすると、ドリスから「日に焼けますから」と窘められ不承不承手首あたりまで捲って妥協した。
それから更に一刻ほどして、大体の作業を終えたスーランは敷物に座りながら全体を見渡して一つ頷いた。
「こんなもんでしょ」
そのまま屋敷内に戻っても良かったのだが、あまりに陽当たりの良い場所なのでまたもや眠気に襲われたスーランは少しだけと思い、敷物に寝転がって目を閉じた。
「…猫が日中こうしている気持ちが物凄いわかる…」
そんなことをぼやきながらスーランは揺蕩う意識を徐々に沈めていった。
「―――い、おい。起きろ」
何だか最近同じような台詞を聞いたなと思いながらスーランは意識を覚醒していった。
ゆっくりと瞼を上げ声のする方に顔を向けると逆光で余計に背が高く見えるバウデンが見下ろしていた。
「…あれ。総帥…じゃなかった、バウデンさん?」
「お前は何をしているんだ」
「見ての通り昼寝です。あまりに心地よくて…猫の気持ちが心の底から理解できました」
「何を言っている」
バウデンが突っ込んでくるがスーランは適当に流し敷物の中で寝返りを打つと、はらりとブランケットが落ちた。スーランは首を傾げ、きっとドリスあたりが掛けてくれたのだろうとそれを取り首元にかけていそいそと二度寝に入る。
「んー…」
「おい。日が暮れ始めている。眠いなら部屋で寝ろ」
「…バウデンさん、今日は帰って来るの早かったですね」
「書類仕事が溜まっていたから屋敷でやる為に早く帰宅しただけだ」
「それはご苦労さまで…――――ぐぅ」
「おい」
若干凍えるような声が聞こえたので、気怠そうにスーランは再度バウデンを見る。逆光なので表情はいまいち見えないが煩わしいとでも思っているんだろうなと思うのだが。
そんなバウデンに対しても、スーランはスーランである。緩慢な動きで両手を彼に向かって差し出した。
「…何だ?」
「抱っこ」
「は?」
バウデンのこうした驚く顔を見るのは何度目だろうか。スーランは温かみの無いバウデンの表情が少しずつ動く様に何故か嬉しくなる。焦った顔も。怒った顔も。僅かに眉が下がった顔も。
「…何ですか。起こしたなら責任を取って抱っこくらいしてくださいよ」
そう言うとバウデンの顔が瞠目したので、その顔に満足し手を下ろす。
「ああ…でもバウデンさんが汚れちゃうので止めときます…あと半刻くらいしたらボーグが来ると思うので抱っこしてもらおうかな…あれだけ体格良ければ年齢関係なさそうだし…体大きいから片手で軽々してくれそう…今起きるの無理」
そうぼやきながら再度横を向いて目を閉じる。暫しの沈黙があったがバウデンの去っていく足音は聞こえない。屋敷に入らないのかと思っているとふわりと体が浮いた。
バウデンが軽々とスーランの脇を持って抱え上げ、片腕抱っこをしたのだ。
「…あれ。バウデンさん、ローブ汚れちゃいますよ」
「構わん」
「そうですか」
本人が言うなら良いかとスーランは手を伸ばしバウデンの首に回して肩に頭を置いた。
「頭って何でこんなに重いんですかねぇ」
「眠いだけだろう」
バウデンは人一人抱えているのを感じさせないほど安定した動きで屋敷に戻る。
「この揺れで部屋に戻るまでに余裕で眠れるー…涎垂れそう」
「ローブに落とすなよ」
「大丈夫です、ぎりぎりでじゅるっと吸い込むんで」
「お前な…」
溜息を吐きながらもそのままにしてくれる状態のバウデンにスーランは笑みを溢しながら目を閉じた。
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした
由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は――
年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。
「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」
人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。
最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに――
「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」
不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。
これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
好きな人が嬢を身請けするのが辛くて逃げたら捕まりました~黒服の私は執着騎士に囲われる~
こじまき
恋愛
騎士が集う高級酒場「夜香楼」で女性黒服として働くソフィアは、客である寡黙な騎士ゼインに恋していた。けれど彼が指名するのはいつも人気花嬢イサナで、身請けも近いと予想されていた。
ソフィアは、叶わない想いにと嫉妬に耐えきれず、衝動的に店を去る。
もう二度と会うことはないはずだったのに、身請けした嬢と幸せに暮らしているはずの彼が追ってきて――
「お前への愛は焼き印のように刻まれていて、もう消えない」
――失恋したと思い込んで逃げた黒服が、執着系騎士様に捕まって囲われる話。
※小説家になろうにも投稿しています
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。