余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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怠惰な人誑し 2






公爵夫人としては全く以て相応しくないのは誰もが知るところ。

そして人族は平民が多く、昔の名残から出自が不明で元奴隷や孤児が多い。

元孤児であるスーランは運良くガブリアルノに見出され拾われた。元々魔力量が多く魔術も独学で覚え、更には精製と治療魔術に興味をほぼ全振りしている状態である。

普段はのほほんとしているが、キリウ曰く精製時と魔術を放っている時のスーランは目がぱっちり開き淡く輝く魔力はそれは美しいのだという。


以前スーランが「環境に恵まれなかったら、余裕で底辺で這いつくばっていたか、もしかしたらお空に戻っていたかもなぁ」と言っていたが、ドリス達はそうは思わない。

基本怠惰なスーランではあるが、理不尽な命令もせず使用人が困る部類の我儘もない。癇癪も無いし無茶苦茶なことを言うこともない。

普段からうとうとしていることが多いが、世話をした後には必ず流れるようにお礼をいう。当然のことだから必要ないと言った所で「私が必要だと思って言っているんだからそれくらい我慢して」と返してくるのだ。

そして最後には決まって半年間だけなんだからという。


何よりも治療魔術師としての能力も高く精製に長けていて何度も褒賞をもらうくらいの人物であるのに、驕ることなく出来ないものは出来ないのだと誰かに頼み高慢さは欠片も無い。それらを遠慮なく享受しながらも感謝を忘れることなく、労いの言葉を当たり前のように発する。

それに時折香油のように差し入れや物を買ってきてはポイッと投げて渡してくる。
恐縮すると「私がしたいだけだから我慢して受け取ってー」とか「なら明日の髪型はもっと時短でー」とか「なら明日必ずあの細っこいパイを作るのだー」とか「じゃあ入浴時のこめかみのマッサージ多めでー」とか「でかいミミズをたんまりと土に放っておいてー」とか「お小言を一回減らしてー」などと言葉を残しながら恩着せがましさは微塵も無く、何度もお礼を言うと寧ろ煩わしそうにするのだ。


ある時は怪我をした使用人に「あまりやり過ぎると自然治癒力衰えるから今回だけ特別。普段は薬使って。沢山作ってイーガンに渡してあるから」など使用人達に無意識な気配りを忘れない。

そして最後にはいつも「それ以上に怠惰に過ごさせてもらってるしー」で終わるのだ。


そんなアンバランスさに、使用人達は次第に自分達が世話をしないとこの人は駄目になってしまうというのではないかと責任感に転換され、同時に色々な意味で癒やしも与えられている。

事の次第によっては拘りはあるが、それ以外は「好きにしてー」と言い使用人のやり方に満足すると「これ良いね。流石だねー」と使用人魂をこれでもかと無意識に刺激してくるのだ

そんなスーランに彼らは自分達が仕え…世話を焼かないとこの人は生きていけない!というほどまでになり、今ではそれぞれが望み進んでやるようになっていた。


そして時折見せるスーランの無邪気な笑みが爆発的に可愛らしい。垂れ目が更にほろりと垂れそれは嬉しそうに笑む。

無自覚らしく本人は気づいていないが、使用人が楽しく話をしていたり、あれこれ談義しながら仕事の効率の話をしていたり、慇懃無礼な家令や執事を少し困らせている時やスーランが手に持った幼虫に悲鳴を上げるメイドを見た時にその表情をする。

その笑顔が今では使用人にとってはまるでご褒美のようになっている。


権力も身分も興味無く、ずぼらで無頓着で二言目には何でも良いというスーランに、使用人一同自分たちがしっかりお世話して綺麗にまともに保たねばと団結するようになっていた。


イーガンが初日に渡された寮長の手紙にもそのようなことがつらつら書いてあったらしい。


中にはホークル家で長年働き、死別した伴侶のテレサを慕っていた者も僅かに居る。
スーランに良い感情は抱いていなかったが、半年であることと自分達が思ったような相手ではないことで落とし所を付け、仕事はちゃんとこなしていた。



そしてスーランの人となりと同等に屋敷の者達が彼女を受け入れた理由の最たるが主の変化だった。

イーガンの話によると、鷹族の傘下であるテレサとは幼い頃からずっと共にいて、お互い恋愛感情は無くても大事な存在であり繁縁の間柄であった。

双方ずっと魔術一筋に生きてきて異性に興味が無く、周囲が婚姻云々煩くなってきたところで、お互いの利害が一致したという形で婚姻したのだ。

その後も二人は今までと変わらず愛し合う仲睦まじい仲というよりは同志のような関係だったことは誰もが知るところだった。

テレサが病で亡くなった時もバウデンは悲しみはしたが、悲観に暮れ自分のすべきことを放棄することはなく、番絆や番縁のように伴侶を失った獣人が狂ってしまい家を廃れさせてしまうこともなく主としてずっと公爵家を守り立てていったのだ。

そして元々異性に興味が薄いことから新しい伴侶を迎えることもなく、このまま爵位をキリウに継承していくのだろうと誰もが思っていた矢先のスーランとの限定婚姻だったのだ。

褒賞条件としての内容は勿論屋敷の者全体に知らされ、始めこそバウデンも面倒事になったという表情を隠していなかった。

だがスーランの破天荒な行動の数々が普段から冷静沈着で何事にも動じないバウデンが怒ったり焦ったり困ったり構ったりと、今まで見たことがない主の姿に皆が驚いていた。

今まで公爵家という重責を一人で担ってきたバウデンの、一個人としての感情がスーランと通して知れるようになり、屋敷の者達は主の表情の変化や行動の変化をとても嬉しく思っていたのだった。


そしてこの頃になると誰もが思っていた。
半年間でなければ良いのにと。
このままずっと続けば良いのにと。





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