余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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禁忌の呪いと育んだ心 2





「一つにまとまったランチプレートの方が好きなんですよね」


そう言いながら、背中は相変わらず丸めたままカトラリーの所作は綺麗なスーランは前菜のフルーツトマトと格闘していた。


「たまには良いじゃない。最近はバウデンと婚姻してなかなか一緒に食事もできなかったしね」


スーランは昼食を食べずに来いとの命令に、また面倒なコースなのかとうんざりしながら王宮に登城した。

呼ばれた場所は客室の一つ。そこには普段ない食事用のテーブルが置かれカトラリー一式が明らかにコース的に並べられておりスーランは肩を落とす。

スーランは既に番避けの薬の効能をある程度は完成に近い状態に出来ていたので経過を報告がてら伝えた。


「うん。本当に助かる」
「服用を止めると二日以内に効果が切れるようには出来たかと思います。それ以上はちょっと時間的に難しそうなんで」


その言葉にガブリアルノの表情が曇るが、スーランは格闘継続のフルーツトマトに集中して気づかない振りをする。


「…ところであれから四ヶ月になるけど、魔力の器は今どの程度?」
「最大量が今までの三分の一ほどですね。でも私魔力量が多いので、キリウやホーイェンさんよりはあると思います。総帥は微妙に負けるかもしれません」
「そっか…」


微かなカトラリーの音だけが響く。ガブリアルノのすぐ傍で控えているギュスターも何も言わずにいるが、もうどうせなら一緒に食事をして欲しい。食べ辛くて仕方ない。トマトを捕獲して欲しい。


「それでも総帥との婚姻はやはり正解でした。流石私の先見の明」
「そっか。バウデンと上手くやっているんだね。楽しいかい?」
「瞳が温かく感じるようになりました」
「ん?瞳?」


スーランにとって性交は勿論だが、今までのスーランでは有り得ない色々な感情…良くも悪くも生まれたような気がする。それが死に向かう過程で知れたことは良いことなのだと思うようにしている。


「はい。温かみのある黄色系なのにいつも冷めたイメージでした。それが今は温かみがあるレモン色に見えます」
「そっか…うん、そっか」
「はい。ガブさん、これ刺してください。マジで曲者」
「ぷっ」
「貴方は相変わらずですね…」


ギュスターがいつもの如く無表情で肩を諌める。スーランは此度もフルーツトマトにとどめを刺せずに諦めてガブリアルノにフォークを渡し、普段まず見られない少し眉の下がった優しい顔で彼は器用に一度でトマトを仕留めていた。納得がいかない。

スーランは直ぐ様憎きトマトを口に放り込みながら、今日ここに呼ばれただろう理由を聞く。


「それでここにわざわざ呼んだ理由は」
「あー、それなんだけどさ…」
「禁忌の呪いですかね」
「あれ。バウデンから聞いたの?」
「ざっとですが。まだ残滓は残っているんですか」
「恐らくあと一回分。これをどうしようか迷っていて。間接的で良いからスーランの見解を知りたいんだけど良いかい?」
「わかりました。この後すぐにやりますか?」
「それは有り難い。ホーイェンには言っておく」
「わかりました」


スーランはあらかた食事を終え、芳しい紅茶をいただいてから席を立った。


「ご馳走様でした。じゃあすぐにとりかかりますね」


そう言って退室しようとすると、ギュスターに呼び止められる。


「スーラン」
「はいはい」
「……返事は、…いえ、バウデンには最期まで言わないつもりですか」
「はい」
「温かみのあると貴方は先ほど言いました。バウデンにとって貴方は大切な人になっているとは考えませんか」


その言葉に半眼のスーランはゆっくりと一つ瞬く。ぱちりと開いた瞳に二人が瞠目する。


「嬉しい」
「?」
「楽しい。面白い。心地良い。気持ち良い」
「…スーラン?」
「今までに在った感情ではありますが、違う意味合いのものがあると知りました」


今まで生きてきて勿論それらの感情はあった。だがバウデンとの生活で知ったのは楽しいのも嬉しいのもまた違う種類のものがあるのだと知った。心から湧き出るようなほわりとする何か。それは一体何なのか。


「私の感情は希薄ではありましたが、それでもこれらが結論、何に結びついたのか何となくわかったような気がします」
「…それは、何?」


静謐な表情でガブリアルノが尋ねる。


「幸せ」


そう。どれもが最後にその言葉に繋がることを知った。過去刹那的な暮らしをしてきたわけではないがスーランは今まで何に対してもそれに辿り着くことはなかったし、そうなれるとも思っていなかった。

そしてそれを知った今。思うことは。


「そして次に出てきたのは、寂しい。悲しい。でした」


その言葉にガブリアルノの表情が歪む。


「これは初めて知った感情です。この短期間でこれだけ知れたんですから儲けもんです」


バウデンと共に居ることでその感情を知れたスーランこそ『幸せ者』ではないだろうか。


「もし話したとして、残りの時間を憐れまれ悲しまれて過ごすことだけはしたくないです。治る術がないものを伝えられて何もできないと思わせたくない」


叶うならば期間限定のその日が来るまでバウデンとのんびり過ごしたい。


「それに死別した伴侶が亡くなった時も、彼は悲しみはしたけど屹然としていたそうです。多少は寂しいと思ってくれるかもしれませんが大丈夫ですよ」


そして最後はやはりスーランはスーランなのである。


「今回のことできっと今後は頑張って自慰から脱出しすっきりと発散できることでしょう」


心がしくしくと痛みはするが、そこはスーランも潔くあの最高の雄をお返しするとしようではないか。


ギュスターだけでなくガブリアルノもガクリと肩を落とした。





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