余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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蝕みと心からのごめんなさい 1






「直接は、触れない、蓋は開けて、良いけど間接的に」
「はいはい」


王宮を散歩がてらゆっくりと周ってから戻ると、既に通達されていたのかホーイェンが待っていた。見せられたのはいつも使用する試験管の半分程度の試験管。その中には半透明の薄黒い螺旋状の魔力の模様がどろどろと同じ動きを繰り返している。


「本当に黒い」
「ああ、悍ましい」


一律の動きではあるが何とも言えない気持ちの悪さを感じる。まるで人の悪感情がそのまま形になったよう。


「では始めますね。話しかけないでくださいよ」
「了解です。スーランさん慎重に」
「はいはい」


ゆっくりと試験管の蓋を開けるが中の動きはそのまま継続している。

間接的に行う為、スーランは試験管から少し離れた位置から人差し指を集中させ魔力をそこに集め始めた。


(試したのは治療魔術。それは促進を促した。トラップのようなものだった。…ということは防御魔術だと意味がなく、…攻撃魔術ならもしかしたら――――)


スーランは弱めの攻撃魔術を編み込み始めてみた―――――一瞬のことだった。

試験管で同じ動きをしていた薄黒い魔力が突如動きを変え、試験管からぬるりと飛び出しスーランの人差し指からじゅわっと侵入し潜り込んだのだ。


「!」


人差し指から入った呪いは瞬く間にスーランの魔力器に到達し喰い荒らし蝕み始めた。


「っ…」
「スーランさん!」
「スーラン!」
「黙って」


こんな微量のものがそこそこの効力を発揮している。魔力が失われていく様にスーランは顔が微かに歪む。


「…っ取り敢えず、攻撃魔術を片っ端から内部の奴らにかけていくから、口頭で、…言う、から、記録」
「でも…っ」
「いくよ」


説明している間にもスーランの魔力は喰われていく。時間が無い。

スーランは攻撃や防御の魔術が使えないわけではない。治療魔術師に特化しているというだけで、それなりに使えるのだ。

魔力を蝕む気持ち悪い体内の苦痛に耐えながら、スーランは目を瞑り食い荒らされる魔力の残りから、火の攻撃魔術から順に呪いに直接放っていく。

スーランはいとも簡単に行っているが、体内への攻撃魔術は緻密な操作を必要とする。下手したら自分自身に攻撃を当てることになってしまうからだ。

スーランは精神を集中させ体内に蔓延って縦横無尽に暴れまわる糞な呪いに的確に魔術を放っていった。


「火…は効果なし。…水も。―――――風も、…っ、」
「スーランさん!」
「次」
「スーラン魔力薬を持ってきている。手に持たせる」


珍しくホーイェンの言葉が滑らかだと、そんなことを考えられるならまだ大丈夫だと頷いて、雷を発動しながら蓋の開けられた魔力薬を飲む。


「雷…もだめ…、土…―――も、…」


五大魔術が効かない。となると無属性の――――――――重力。

脂汗が出て来たスーランは脳内で残り少なくなっている魔力を編み込ませて球体を作る。その中に魔力を入れ、奴らを誘導させると案の定飛び込んできた。直ぐ様入口を閉じて圧迫させ消滅を図る。


「ぐっ…」


球体で暴れまわる醜悪な呪いを更に残った魔力で雁字搦めにして圧力をかけて潰し消滅の流れに持っていくと、パリンという感覚と共に悍ましい薄黒い魔力がしゅわんと掻き消えた。残り少なくなった魔力で周囲をみてもどこにも見当たらない。

最後の方は息を止めていたスーランはようやく一息ついて、呼吸を再開させ頭がガンガンと脈打つように痛むのを眉を顰めながら伝える。


「…はっはっ……無属性、…重力、の球体に、…っ、引き込んで、圧縮させ、て消滅、で可能―――」


それだけ何とか伝えるとふっと意識が遠のき、椅子から転げ落ちた。


「スーランさん!」
「スーラン!」


床に落ちる直前にふわりと体を受け止められ直後に抱きかかえられた。


「医務室へ!すぐに点滴用の魔力薬を準備しろ!あるだけ持って来い!」


すぐ上で珍しく大きな声を出しているのはホーイェンだ。抱えて医務室に向かってくれているのだろう。


(…なんだ。普通に喋れるんだ)


そんな呑気なことを思いながらも魔力が枯渇手前になったスーランは目も開けられず、体も全く力が入らない。

急いでくれているのか、体が揺れて周りがざわついているのが何となく耳に入る。医務室は食堂と同様中央に併設されている。「こちらです!」という声が聞こえた後、ホーイェンが急に止まった。


「…何があった」


バウデンの声だった。





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