余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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言うか言わないか 3





ある休みの日。
スーランは薬草の手入れと様子を見に行き、終えた後敷かれている敷物に横になりのんびり日向ぼっこをしていた。

もう期間限定婚姻も残り一週間あまりとなり、薬草も引き上げようと思っていたのだが、ボーグが「延長される場合があるかもしれませんし、私も薬草に興味が湧きましてな!」と笑顔で言われてしまえば撤去するとは言い辛く、まあ好きにしてもらおうと区画いっぱいに植えられている薬草を見ながら、最近習慣になっているうたた寝タイムに突入する。


報告の後、王と何かを話したであろうバウデンはあれから時折物言いたげにスーランを見ることが多くなった。それでもスーランは態度を変えずにいつも通りに過ごすしかなかった。


季節的に陽当たりは良いが風は少し涼しくなってきた。
スーランの習慣を掌握している優秀なメイドのドリスは、敷物と一緒に常に厚手のブランケットを置いておいてくれているので、それを体に包み横になってうとうとと微睡みに沈んでいった。



優しく優しく頭を撫でられる。
そして蟀谷から耳の後ろにさらりと流れる大きな温かい手がスーランは好きでとても気持ちが良い。

意識が浮上して瞼を上げると、敷物に座りながらスーランを撫でていたバウデンが視界に入った


「あれ。今日は早いですね」
「書類仕事が溜まっていたから屋敷で捌く」
「そうなんですね」


バウデンがスーランの頬を撫でたまま体勢を変え肘を曲げて頭を支え横たわった。


「汚れますよ」
「敷物の上にいる」
「はみ出しているローブと長い脚です」
「構わん」


バウデンがそう言うなら良いかと、スーランは目を閉じて頬撫でを享受する。


「薬草の栽培はどうだ」
「良好ですよ。あと一週間で終わるのにボーグが薬草に興味が湧いたって沢山植えてました。あとは任せることにします」


その言葉にバウデンの手が止まる。
スーランは目を閉じたままじっと見ているだろうバウデンがどんな表情をしているのだろうと思いながらも目は開けない。


「…気持ち良いのでもっと撫でてください」
「―――――心地が良い」


頬撫でを再開したバウデンの小さな声にスーランが目を開けると、彼の真摯なレモン色の瞳がスーランを見ていた。


「…確かにこうして撫でられるのも、ちょっと抵抗するバウデンさんを襲って性交するのも心地良いですね」
「お前な…私はそういう意味――いや、それもあるが…スーランと共に居る時間そのものが心地が良いという意味だ」


バウデンのレモン色の瞳はとても温かい。
温かくなった。

心地良いのはスーランも同じだ。

ずっと一緒に居られればと内心どれだけ思ったことだろう。


「私もキリウも、屋敷の皆も同じように思っている」
「私もそれは大いに同意しますが期間限定だからこそ、そう思えるのかもしれませんよ」
「違う」
「それでも期間の延長はありません」


自分が発した言葉にズキリと胸に抉られるような痛みが奔る。僅かに眉を顰めしまったスーランはそれだけ言って目を閉じようとしたが、その前に頬を撫でていたバウデンの指がスーランの顎を捕らえ正面から見据えられる。

そこには静謐なバウデンの顔。


「スーラン…何を隠している?」


胸が苦しい苦しいと痛みを訴えてくるが、スーランは表情を変えずに見つめ返す。


「…限定でなければいけない理由は何だ。俺には言えないことか?」


スーランは少し冷たくなった指を伸ばしバウデンの唇に触れる。


『もう言わないで』


温かい唇を撫で人差し指を当てる。


『泣き喚いて言いたくなってしまうから』




死にたくないと。




何も答えないスーランにバウデンは溜息を吐いた。


「三日後の式典までは慌ただしい。終わったらゆっくり話をしよう」


陽が陰り涼しさが増す。スーランは頷きバウデンに擦り寄ってくっつき背中に腕を回して暖を取る。

ブランケットを肩からかけ直してもらい、バウデンの腕が背中に回る。

とんとんと一定のリズムで優しく叩かれる。



スーランは何も言わないまま、ずっと頭の中で目まぐるしく考えていた。

本当に何も伝えずに居なくなることが、正しいのかそうでないのか分からない。分からなくなった。

言ったところで何も変えられない。
言わないと残りの時間バウデンの憂いを募らせてしまう。

黙秘を続けることも、流すことも、嘘を吐くことも、もうしたくない。

どちらを選択すれは良いのだろう。
どうすれば良いのだろう。

自分勝手に周りに知られずに好きに生きて終えたいという気持ちは、今のスーランの心境の中から消えつつあった。

でも為す術もなく無力を味わせたり悲しませるかもしれないという懸念がどうしても消えない。


(式典を終えてから改めて考えよう)


その時までに決断できていれば良いなと思いながら、スーランはバウデンの温もりに包まっていた。





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