44 / 110
言うか言わないか 3
ある休みの日。
スーランは薬草の手入れと様子を見に行き、終えた後敷かれている敷物に横になりのんびり日向ぼっこをしていた。
もう期間限定婚姻も残り一週間あまりとなり、薬草も引き上げようと思っていたのだが、ボーグが「延長される場合があるかもしれませんし、私も薬草に興味が湧きましてな!」と笑顔で言われてしまえば撤去するとは言い辛く、まあ好きにしてもらおうと区画いっぱいに植えられている薬草を見ながら、最近習慣になっているうたた寝タイムに突入する。
報告の後、王と何かを話したであろうバウデンはあれから時折物言いたげにスーランを見ることが多くなった。それでもスーランは態度を変えずにいつも通りに過ごすしかなかった。
季節的に陽当たりは良いが風は少し涼しくなってきた。
スーランの習慣を掌握している優秀なメイドのドリスは、敷物と一緒に常に厚手のブランケットを置いておいてくれているので、それを体に包み横になってうとうとと微睡みに沈んでいった。
優しく優しく頭を撫でられる。
そして蟀谷から耳の後ろにさらりと流れる大きな温かい手がスーランは好きでとても気持ちが良い。
意識が浮上して瞼を上げると、敷物に座りながらスーランを撫でていたバウデンが視界に入った
「あれ。今日は早いですね」
「書類仕事が溜まっていたから屋敷で捌く」
「そうなんですね」
バウデンがスーランの頬を撫でたまま体勢を変え肘を曲げて頭を支え横たわった。
「汚れますよ」
「敷物の上にいる」
「はみ出しているローブと長い脚です」
「構わん」
バウデンがそう言うなら良いかと、スーランは目を閉じて頬撫でを享受する。
「薬草の栽培はどうだ」
「良好ですよ。あと一週間で終わるのにボーグが薬草に興味が湧いたって沢山植えてました。あとは任せることにします」
その言葉にバウデンの手が止まる。
スーランは目を閉じたままじっと見ているだろうバウデンがどんな表情をしているのだろうと思いながらも目は開けない。
「…気持ち良いのでもっと撫でてください」
「―――――心地が良い」
頬撫でを再開したバウデンの小さな声にスーランが目を開けると、彼の真摯なレモン色の瞳がスーランを見ていた。
「…確かにこうして撫でられるのも、ちょっと抵抗するバウデンさんを襲って性交するのも心地良いですね」
「お前な…私はそういう意味――いや、それもあるが…スーランと共に居る時間そのものが心地が良いという意味だ」
バウデンのレモン色の瞳はとても温かい。
温かくなった。
心地良いのはスーランも同じだ。
ずっと一緒に居られればと内心どれだけ思ったことだろう。
「私もキリウも、屋敷の皆も同じように思っている」
「私もそれは大いに同意しますが期間限定だからこそ、そう思えるのかもしれませんよ」
「違う」
「それでも期間の延長はありません」
自分が発した言葉にズキリと胸に抉られるような痛みが奔る。僅かに眉を顰めしまったスーランはそれだけ言って目を閉じようとしたが、その前に頬を撫でていたバウデンの指がスーランの顎を捕らえ正面から見据えられる。
そこには静謐なバウデンの顔。
「スーラン…何を隠している?」
胸が苦しい苦しいと痛みを訴えてくるが、スーランは表情を変えずに見つめ返す。
「…限定でなければいけない理由は何だ。俺には言えないことか?」
スーランは少し冷たくなった指を伸ばしバウデンの唇に触れる。
『もう言わないで』
温かい唇を撫で人差し指を当てる。
『泣き喚いて言いたくなってしまうから』
死にたくないと。
何も答えないスーランにバウデンは溜息を吐いた。
「三日後の式典までは慌ただしい。終わったらゆっくり話をしよう」
陽が陰り涼しさが増す。スーランは頷きバウデンに擦り寄ってくっつき背中に腕を回して暖を取る。
ブランケットを肩からかけ直してもらい、バウデンの腕が背中に回る。
とんとんと一定のリズムで優しく叩かれる。
スーランは何も言わないまま、ずっと頭の中で目まぐるしく考えていた。
本当に何も伝えずに居なくなることが、正しいのかそうでないのか分からない。分からなくなった。
言ったところで何も変えられない。
言わないと残りの時間バウデンの憂いを募らせてしまう。
黙秘を続けることも、流すことも、嘘を吐くことも、もうしたくない。
どちらを選択すれは良いのだろう。
どうすれば良いのだろう。
自分勝手に周りに知られずに好きに生きて終えたいという気持ちは、今のスーランの心境の中から消えつつあった。
でも為す術もなく無力を味わせたり悲しませるかもしれないという懸念がどうしても消えない。
(式典を終えてから改めて考えよう)
その時までに決断できていれば良いなと思いながら、スーランはバウデンの温もりに包まっていた。
あなたにおすすめの小説
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした
由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は――
年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。
「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」
人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。
最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに――
「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」
不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。
これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
好きな人が嬢を身請けするのが辛くて逃げたら捕まりました~黒服の私は執着騎士に囲われる~
こじまき
恋愛
騎士が集う高級酒場「夜香楼」で女性黒服として働くソフィアは、客である寡黙な騎士ゼインに恋していた。けれど彼が指名するのはいつも人気花嬢イサナで、身請けも近いと予想されていた。
ソフィアは、叶わない想いにと嫉妬に耐えきれず、衝動的に店を去る。
もう二度と会うことはないはずだったのに、身請けした嬢と幸せに暮らしているはずの彼が追ってきて――
「お前への愛は焼き印のように刻まれていて、もう消えない」
――失恋したと思い込んで逃げた黒服が、執着系騎士様に捕まって囲われる話。
※小説家になろうにも投稿しています
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。