46 / 80
周年式典 2
しおりを挟む「いつも不思議なんですが、右側の編み込みは魔術で編むんですかね」
「ああ」
「へえ」
「お前もできるはずだろう」
「習った記憶はあるような。でも必要ないと判断したのか覚えていませんね」
「…お前なぁ」
今度はがくりという溜息を吐いたバウデンに「まあまあ」と適当に流し、顔を少し上げてもらって水気が飛んだ髪を後ろに撫でつけてやる。
普段は前髪を左右に分けているので後ろに流すと精悍さが増し男性らしい美丈夫度合いが上がる。
「うん。思った以上に男前なんですね」
「……はぁ」
もういつもの言葉も出ないようで、また顔を胸に埋めた。極度のお疲れのようだ。
度々胸元に熱い息がかかるのにぞくりとしてしまうが、お疲れのバウデンに流石のスーランも今夜は襲わずにこのまま寝かせてあげようと思う。
するとスーランの手にあったタオルをサイドテーブルに放ったバウデンがそのまま寝台に立っていたスーランを抱き上げて、寝台に寝かせた。
「寝かしつけですか?バウデンさんにくっつけばすぐ寝れ――――んぅ」
黙れと口を封じてきたバウデンにスーランは寝なくて良いのかと思ったが、軽く運動をした方がすっきり眠れるだろうと、いつもぞくぞく感じる口づけに没頭し始めた。
*********************
周年式典の当日。
スーランはキリウと共に王宮内にある医務室に居た。
バウデン始め魔術隊長二人と魔術師精鋭陣は国王の警護に赴いている。
「スーランさん帰りに番避けの薬忘れずにもらいに行きましょう」
「あ、忘れてた」
「ふふ。僕に言っておいて良かったですね」
「本当だ。もう始まったかな。国王の壇上挨拶はもうすぐ?」
聞くとキリウは時刻を見ながら一つ頷く。
「そろそろですね」
医務室の窓からは王宮中央にある広場が少しだけ見える。
周年式典は王宮始め、街全体がお祭りとなり盛大に賑やかになる一日だ。その始まりの合図となるのが国王の挨拶だ。
少し開けた窓からは大きな歓声が聞こえてきた。ガブリアルノの挨拶が始まったのだろう。
スーランに対しての無邪気でない『国王』の顔をして麗しいご尊顔で演説しているに違いない。
スーランや気心知れた盟友以外には誰が見ても賢王なのである。
そんな彼にも過去やり切れない出来事があった。今こうして人前に出られるくらい復活して良かったとスーランは思いながら広場を見ていた。
「…スーランさん」
不意にちょっと低めの声でキリウが話しかけてきた。顔を見るといつもの穏やかではない真面目な顔だ。
「はいはい」
「父上との期間限定の婚姻は取り止めることは出来ないのですか?ずっと続ける選択肢は?」
真剣な表情で見つめてくるキリウ。
外からまた歓声が聞こえる。挨拶が終わったのだろう。ここからは賑やかなお祭り騒ぎとなる。
キリウに向き直り、スーランは頷いた。
「ないよ。もう少しで終了」
「…父上も、僕も、…屋敷の皆がスーランさんとずっと一緒に居たいと望んでいます」
「ありがと。でも初めから決めていたことだから」
「でも何か誓約があってとかではないですよね?お互いの気持ちが―――」
その時だった。
医務室の外が騒がしくなる。何やら大勢の大声や怒号、悲鳴、そして何かを打ち付けるような普段は聞くことのない爆音。
「!…スーランさん!」
「待って。他の治療魔術師は周囲に散らばっている。今ここには私とキリウしか居ない」
人差し指を口に当て、外の騒音に集中する。
喧騒は続いているが、徐々に鎮静してきたようだ。
「キリウ。扉を開けて待機。もしかしたら怪我人が来るかもしれない」
「はい!」
キリウが扉に走り、扉を開けた直後少し遠くから「道を開けろ!!!」と怒鳴る声。最近は聞いてなかったが、それがテゼルの声だとスーランはわかった。
その彼が焦りと怒りを含ませて大声を上げるほどの相手とは。
ざっと血の気が引いた時、扉の向こうから、テゼルとコーネインの肩に腕を乗せ苦悶の表情を浮かべながら運びこまれたのは。
バウデンだった。
267
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた
榛乃
恋愛
伯爵家の令嬢・リシェルは、侯爵家のアルベルトに密かに想いを寄せていた。
けれど彼が選んだのはリシェルではなく、双子の姉・オリヴィアだった。
二人は夫婦となり、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていたが――それは五年ももたず、儚く終わりを迎えてしまう。
オリヴィアが心臓の病でこの世を去ったのだ。
その日を堺にアルベルトの心は壊れ、最愛の妻の幻を追い続けるようになる。
そんな彼を守るために。
そして侯爵家の未来と、両親の願いのために。
リシェルは自分を捨て、“姉のふり”をして生きる道を選ぶ。
けれど、どれほど傍にいても、どれほど尽くしても、彼の瞳に映るのはいつだって“オリヴィア”だった。
その現実が、彼女の心を静かに蝕んでゆく。
遂に限界を越えたリシェルは、自ら命を絶つことに決める。
短剣を手に、過去を振り返るリシェル。
そしていよいよ切っ先を突き刺そうとした、その瞬間――。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、そして政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に行動する勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、そして試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私が、
魔王討伐の旅路の中で、“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※「小説家になろう」にも掲載。(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる