余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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周年式典 2






「いつも不思議なんですが、右側の編み込みは魔術で編むんですかね」
「ああ」
「へえ」
「お前もできるはずだろう」
「習った記憶はあるような。でも必要ないと判断したのか覚えていませんね」
「…お前なぁ」


今度はがくりという溜息を吐いたバウデンに「まあまあ」と適当に流し、顔を少し上げてもらって水気が飛んだ髪を後ろに撫でつけてやる。

普段は前髪を左右に分けているので後ろに流すと精悍さが増し男性らしい美丈夫度合いが上がる。


「うん。思った以上に男前なんですね」
「……はぁ」


もういつもの言葉も出ないようで、また顔を胸に埋めた。極度のお疲れのようだ。

度々胸元に熱い息がかかるのにぞくりとしてしまうが、お疲れのバウデンに流石のスーランも今夜は襲わずにこのまま寝かせてあげようと思う。


するとスーランの手にあったタオルをサイドテーブルに放ったバウデンがそのまま寝台に立っていたスーランを抱き上げて、寝台に寝かせた。


「寝かしつけですか?バウデンさんにくっつけばすぐ寝れ――――んぅ」


黙れと口を封じてきたバウデンにスーランは寝なくて良いのかと思ったが、軽く運動をした方がすっきり眠れるだろうと、いつもぞくぞく感じる口づけに没頭し始めた。




*********************


周年式典の当日。

スーランはキリウと共に王宮内にある医務室に居た。
バウデン始め魔術隊長二人と魔術師精鋭陣は国王の警護に赴いている。


「スーランさん帰りに番避けの薬忘れずにもらいに行きましょう」
「あ、忘れてた」
「ふふ。僕に言っておいて良かったですね」
「本当だ。もう始まったかな。国王の壇上挨拶はもうすぐ?」


聞くとキリウは時刻を見ながら一つ頷く。


「そろそろですね」


医務室の窓からは王宮中央にある広場が少しだけ見える。

周年式典は王宮始め、街全体がお祭りとなり盛大に賑やかになる一日だ。その始まりの合図となるのが国王の挨拶だ。

少し開けた窓からは大きな歓声が聞こえてきた。ガブリアルノの挨拶が始まったのだろう。

スーランに対しての無邪気でない『国王』の顔をして麗しいご尊顔で演説しているに違いない。

スーランや気心知れた盟友以外には誰が見ても賢王なのである。

そんな彼にも過去やり切れない出来事があった。今こうして人前に出られるくらい復活して良かったとスーランは思いながら広場を見ていた。


「…スーランさん」


不意にちょっと低めの声でキリウが話しかけてきた。顔を見るといつもの穏やかではない真面目な顔だ。


「はいはい」
「父上との期間限定の婚姻は取り止めることは出来ないのですか?ずっと続ける選択肢は?」


真剣な表情で見つめてくるキリウ。

外からまた歓声が聞こえる。挨拶が終わったのだろう。ここからは賑やかなお祭り騒ぎとなる。

キリウに向き直り、スーランは頷いた。


「ないよ。もう少しで終了」
「…父上も、僕も、…屋敷の皆がスーランさんとずっと一緒に居たいと望んでいます」
「ありがと。でも初めから決めていたことだから」
「でも何か誓約があってとかではないですよね?お互いの気持ちが―――」



その時だった。

医務室の外が騒がしくなる。何やら大勢の大声や怒号、悲鳴、そして何かを打ち付けるような普段は聞くことのない爆音。


「!…スーランさん!」
「待って。他の治療魔術師は周囲に散らばっている。今ここには私とキリウしか居ない」


人差し指を口に当て、外の騒音に集中する。


喧騒は続いているが、徐々に鎮静してきたようだ。


「キリウ。扉を開けて待機。もしかしたら怪我人が来るかもしれない」
「はい!」


キリウが扉に走り、扉を開けた直後少し遠くから「道を開けろ!!!」と怒鳴る声。最近は聞いてなかったが、それがテゼルの声だとスーランはわかった。

その彼が焦りと怒りを含ませて大声を上げるほどの相手とは。

ざっと血の気が引いた時、扉の向こうから、テゼルとコーネインの肩に腕を乗せ苦悶の表情を浮かべながら運びこまれたのは。


バウデンだった。





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