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周年式典 3
「父上!」
キリウの悲痛な叫びと共にすぐ奥にある患者用の寝台にバウデンが寝かせられた。
スーランはその現状に目を見開く。
「早く治療魔術を!」
「テゼル、待て!それでは――――」
「黙れ!総帥を死なせたいのか!」
その言葉にスーランはコーネインの元に足早に向かう。
「コーネインさん、簡潔に経緯を」
スーランの冷静な声音に動揺を隠しきれていなかったコーネインは我に返り頷いた。
「式典の国王の挨拶は滞りなく。だが王宮内入口付近の倉庫から突如三人のローブ…ロンダース国の輩が国王の前に飛び出した。侵入経路は不明。総帥含め我々魔術師は対峙、騎士隊は国王の死守、特殊部隊は周囲の状況把握と沈静化。奴らは叫びながら首を掻っ切りそれぞれ絶命しながら呪いを放った」
スーランはコーネインの言葉を耳に入れながらバウデンの様子を隈無く観察する。バウデンの胸元付近にじわりとどす黒い魔力が滲むように湧き出ているものを見て全身が粟立った。
「体内に入る前に魔術で対応。効果は有り。だが魔力が分散されホーイェンを含む数人の魔術師の体内に侵入。…それを総帥が全て自ら取り込んだ」
「っ…!」
ということは、魔術師達の体内に入った呪いをバウデンは自分の手から強力な攻撃魔術を編んで誘い出したのだろう。
冷静を保って見えたスーランも実際は足が少し震えている。誰よりも大切な人の命が脅かされているのだから。
それでも今は動揺している場合ではない。冷静になって把握し判断しないと好転は難しい。
その間もテゼルはキリウに大声を出していた。
「早くしてくれ!!!」
「伯父さん!落ち着いてください!」
「落ち着けるか!!!黙って早く治療しろ!!!」
スーランはつかつかとテゼルの前まで歩き、胸元をぐいっと引っ張った。
「お前が黙れ」
今まで誰も聞いたことがないようなスーランの地を這うような声音にキリウとコーネインが目を見開き、テゼルは呆けたように目を丸くする。
「き、貴様…!」
「治療魔術を施すと効果は促進する。忘れたか」
「!」
スーランは藍色の瞳を開き、口調を変えテゼルを見据える。
「感情を優先させ取り乱して取り返しのつかないことになったら?状況の把握すら出来ないなんて右腕として愚かの極み」
「なんだと!?」
「お前の言葉を借りるなら、『総帥を死なせたいのか?』」
「!!」
こんな人に構っている時間は無い。
スーランはテゼルから手を離し、苦しんでいるバウデンに眉を寄せながらも今の彼の身体状況を確認しコーネインに話しかけた。
「ホーイェンさんと魔術師の容態は」
「た、体内に侵入されたがすぐに引き出されたのでそこまで酷くはない」
「周りの状況を?」
「ああ。総帥が倒れる前に私達に―――」
「コーネインさんも?」
「っああ、だがテゼル一人では時間がかかると思って一緒に」
「ならその辺に王子が居ると思うから持っている魔力薬を全部医務室に持って来いと伝えてください。行ってください、総帥の指示通りに」
「わかった」
コーネインは飛び出していき、スーランは見たこともないような歪んだ表情のキリウに目を向ける。
幾らバウデンが膨大な魔力を持っていたとしても、恐らく取り込んだ数の呪いには勝てる確率は高くない。微量であれだけのダメージをくらったのだ。
スーランは静謐な目で大切な人を見る。
彼を助ける方法はひとつだ。
「キリウ」
振り向きにこりと微笑んだスーランにキリウは目を見開く。
「私が助ける」
「っ!スーランさん!」
「私しか救えない」
スーランはバウデンの傍に向かう手前でテゼルが吠えてきた。
「貴様がだと!?」
「実際呪いに携わって現時点で総帥を助けられるのは私だけです」
「貴様如きが―――」
「貴方のそれは誰の為?総帥の為?貴方の身勝手な感情の為?」
「!!」
「今すべきことは総帥と同等の魔力量と呪いの消滅に携わった者。即ち私だけ。そんなこともわからないくらい耄碌しましたか。それとも私への悪感情が総帥の命より優先されますか」
「……」
「キリウ。薬品庫からありったけの魔力薬。全部出して」
「…はい!」
キリウは続きの扉に走り出し、スーランはバウデンの横たわる寝台脇で膝を着き、頭から足元まで負傷がないか把握する。
「総帥は全力で魔力を喰われながらも戦っています。まだ彼の耳飾りも編み込んだ髪の煌めきも失われていない」
まだ体内にある魔力で戦っているのだ。
「スーランさん!持ってきました」
「私のすぐ横に。キリウは私が手を出した時に蓋を開けて渡して」
「はい!」
「先に始めているから、総帥の部屋からあるだけの装飾品を」
その時バウデンの顔が歪み僅かなうめき声を漏らす。同時に髪の編み込んだ煌めきが徐々に色褪せてきた。
「キリウ、急いで取ってきて」
「分かり―――」
「私が取ってくる」
被せてきたのは落ち着いたテゼルの声。
「スーラン殿、すまなかった」
「…装飾品を頼みました」
「承知した」
一礼したテゼルが飛び出して行った。
「キリウ、始めるよ」
「はい!」
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