余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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キリウ 1

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キリウはいつも表情も行動も仮面を被っていた。


バロアス王国の三大公爵の一つホークル公爵家の嫡男としてキリウは生を受けた。母のテレサは元々あまり体が強い方でなくキリウが二歳の頃流行り病で亡くなったのだとか。

父バウデンと母テレサは元々幼馴染で繁縁の間柄であり、その二人が婚姻しキリウが生まれた。バウデンはテレサの死に悲しんだが、若くして公爵家を継いだこともあり番を失った片割れのように狂乱することもなく、公爵家を守っていた。

そんなバウデンの生き様といつも冷静沈着で物事に動じずに的確に判断を下し行動で示す姿に、キリウは尊敬しつつもどこかで無理をしていないか、どこかで息抜きは出来ているのか心配していた。

直接聞いたところで「問題ない。子が親の心配などするな」で終わってしまい、テレサ以外の女性関係もなく、雄の欲だけ発散する為に娼館ですら行ったことはほぼなかった。

唯一戦や魔力を大量に使用した時だけに仕方なく行っていたというイメージしかない。

そんなバウデンを見て育ったキリウは、迷惑かけず心配させないくらい立派になって安心させ、爵位や統括総帥としての役目だけでなく、自分の為にも生きて行って欲しいと常々思っていた。


そんなキリウだが、冷淡な美丈夫で有名なバウデンの温厚版と言われるくらい顔は整っており、しかも公爵家嫡男で母親も居らず変な噂も何一つない三大公爵を狙う魑魅魍魎とした輩は多く、キリウは否が応でも自分を守る術を養っていった。

バウデンは殆ど無表情を動かさず、感情で動くことは滅多になく冷静に判断を下す。

対してキリウは元々の性質からにこやかに接し、その顔で相手を油断させて本質を見抜き、悪辣な相手には使えるあらゆる手段でそれなりに対処できるまでになっていた。

そして穏やかで無害な表情や行動とは裏腹に腹黒く弁が立ち狡猾な人格が出来上がっていったのだ。


雌は殆ど、雄も身分や顔で近づいたり擦り寄る者を選別し見抜く能力は上がっていったが、今度は誰を信じれば良いのか、常に疑心暗鬼でいる自分に辟易もしていた。

キリウは十六歳になりバウデンと同じ魔術師になった。元々魔力量も多く手先も器用だったので難なく魔術隊の試験も合格した。

バウデンと同じ攻撃魔術よりも、キリウはどちらかと言うと癒す魔術の方に興味を持っていた為、治療魔術師として魔術隊に所属した。

バウデンの戦友でもあり、同僚のホーイェンが長を務める治療魔術隊。

そこでぼけーっと研究室の椅子に座っているスーランに出会ったのが始まりだった。


「はいはい。よろしく」


ホーイェンからの紹介に対しだらしなく座ったまま、
ちらっとキリウを見てそう答えたスーランはすぐに視線を移し、女性とは思えないくらいの豪快な欠伸を披露してくれた。

キリウはこれでも高位の貴族令息、しかも公爵家嫡男としてこんな扱いをされたのは初めてで呆けてしまったことを覚えている。

だがそれに対して憤るという思いはなく変わった人だなという印象が強かった。


スーランは大体がぼーっとしていて研究や興味のある治療魔術以外は「何でも良い」「好きにして」「興味ない」で返し、話しかけても「うん」「ううん」「別に」くらい言葉の数が少ない。

それがキリウだけでなくホーイェンにも、更には稀に訪れる国王に対しても一貫して変わらないのにはかなり驚いた。

ガブリアルノ曰く、「これが気に入っているんだよね」と国王の覚えもめでたいようだ。そしてキリウに「私達のように身分や背景を気にせずに関わりたいなら最高の相手だ。だらしなさが玉に瑕だけど、それすら魅力に変わる。まあ人にも寄るかもしれないけど」と言われ当時のキリウからすると首を傾げるばかりであった。

それだけでなくスーランは無頓着にも程がある人物だった。元は良いだろう顔も化粧っ気がなく、いつも半分ほどしか目は開いておらずに常に眠そうだ。

長い髪は「切るのが面倒で」なんて理由で既に腰に近い長さの綺麗な髪なのに適当に後ろで纏めていた。

服装に関しても「仕事服マジ最強。普段着殆ど持っていない」とい言う始末だ。外に出るにもこのままらしく、それ以前に外出をしているところを見たことがない。

今までにない人種にキリウは怠惰なスーランに嫌悪するよりも、面白い生き物を見つけたようなわくわく感が勝り、ちょこちょこ話しかけていた。

その後ホーイェンから国の交渉手段としても用いられている番消しの薬と番避けの薬、そして女性に優しい避妊薬は全てスーランが開発したものだと聞いてキリウは驚愕したのだ。

どう見てもそんな偉業を成した人物に見えなかったキリウだが、所属して一ヶ月くらいの時、スーランの能力の凄まじさをこの目で垣間見ることになった。





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