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キリウ 2
ある時魔術隊医務室に運び込まれた一人の騎士。
何でも隣国から来ていた破落戸数名に対応していたが、一人で応戦した為大怪我をしてしまったのだ。
カーキ色の騎士服はどす黒い血の色に染まり、かなりの出血量で意識が無い危ない状態だった。
その日はたまたまホーイェンも席を外しており、キリウも治療魔術を使えはしたがまだ拙いもので、周りの治療魔術師も、自分が施しても助からないのではと躊躇していた時、昼食から戻ったスーランがその騎士を見て、何も動いていないキリウ始め治療魔術師達を一喝したのだ。
「何の為に日々治療魔術や研究に明け暮れて薬を精製をしてる?」
皆を見渡した半眼のスーランが一つ瞬きをした瞬間。
彼女の藍色の瞳がしっかりと開けられ、すぐに騎士が横たわる診療台に近づく。
「騎士隊に連絡して彼の血液型を確認。輸血の準備をすぐにして。治療魔術を施したところで血は戻らない。早く」
その言葉に数名の治療魔術師が一斉に動き出した。
「キリウ。こっち来て」
すぐ近くにいたキリウにスーランが声をかける。
はっと我に返りスーランのすぐ隣に移動すると、「重症者の治療魔術は初めて見るでしょ。魔術の使い方と魔力の動きをちゃんと見て覚えて」と言い、騎士の側に立ち、手を重症の腹部分に近づけた。
その手から淡い魔力が顕現しキリウは目を見開いた。魔力は基本殆ど見えることはなく、膨大な魔力量、そして強力な魔力が使える魔術師のみに見えるものだ。
淡く数種類の色が混ざったような得も言われない美しい織にキリウは惚けたように魅入られた。その織がしゅわりと動き騎士の傷の部分に目掛けて下りていき、しゅわしゅわと次々にその部分が発光したかのように微かに光り輝く。
スーランは一番重症の腹部分以外にも傷があるところを診ながら、もう片方の手も動かし次々治癒を施していく。その時間は数分にも満たなかった。
そしてその時のスーランの顔は、いつもの自堕落なやる気のない表情ではなく目をしっかりと開き、凛とした表情でいつもの面影は全くと言っていい程無かった。
魔力とその表情、治療魔術師としての真摯な姿勢がとても美しくて。物凄く格好良くて。
キリウは初めて心の底から感動した。
そんなスーランは面倒の一言で役職も全て蹴って、一治療魔術師としていつものんびりと怠惰に過ごしていた。
彼女が目がちゃんと開いたり、動きが俊敏になるのは薬の精製の時、そして魔術を扱っている時、月毎の魔術隊全体会議での興味がある事案に反応した時だけであった。
複数の薬を開発し、国王から可愛がられていてもスーランはスーランのままだった。
それらを鼻にかけることもなく誰に対しても同じ対応で、威張ることも相手を貶すことも一切ない。「そんなのに時間かけるなら寝るか研究するし」と大きな欠伸をしながら言っていた。
そしてキリウに対して公爵家子息としての扱いは一切なく、一個人として接してくれる。それが存外に心地良くて、スーランの怠惰だが人への無意識の配慮や対応、考え方や思いに魅せられたキリウはいつも一緒にいることが多くなった。
いくつもの褒章を得るくらい貢献しても片っ端から「面倒」といって断り、驕ることなくキリウと共に食事をすれば「この小癪なトマトをぶっ刺して成敗してくれ」となんてことないことが出来ずにそれをプライドも無く頼んでくる。
ちぐはぐなスーランの姿にキリウは好感度が上がるだけでなく、この人は自分が居ないと駄目になってしまうのではないかとすら思わせられ、キリウは進んでスーランの世話をするようになっていた。
キリウが望んでやることにスーランも特に何も拒否もなくやらせてくれる。キリウは公爵子息なのにそこら辺のメイドよりも世話が出来て気が回る、ある意味高スペックな青年に成長したのだ。
ある時、ホーイェンから「スーランが、そこまで、甘えてる、のは、珍しい」と言っていたが、彼曰く寮員たちにも甘えるがキリウは別格だそうだ。
そのことが思いの外嬉しくて、異性としてというよりもいざという時は格好良く美しいが普段は自堕落で怠惰の姉的な存在になっていた。
そんな時に飛び込んできたのがスーランとバウデンの期間限定の婚姻だった。
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