余命の残りを大切な人にくれてやります

きるる

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ガブリアルノ 2






「私はガブリアルノ。この国の王太子だ」


その言葉に少女が藍色の眠そうな目を向ける。


「おーたいし?それわたしになんかいいことあるの?」


その返しにガブリアルノは目を丸くする。


「何でそう思うの?」
「たまにくるえらいひとが、えんちょうのいうこときけばいいことあるかもってよくいうけどなにもないから」


その言葉にガブリアルノは更に楽しくなる。


「何も良いことなかったんだ」
「うん。ほかのこはいいことあったってよろこんでた」
「どんなこと?」
「おいしいおかしとか、きれいなようふくとかぬいぐるみ」
「君は興味ないんだ」
「うん」


少女はまた本に目を戻す。

ガブリアルノは興味の琴線に触れた少女を直感的に引き取りたい…王宮に連れて帰りたいと思った。

僅か十歳で荒削りではあるが見事な魔術、しかも魔力の織が見えるということは魔力量もそれなりにある。

そして何よりもガブリアルノを目の前にして媚びることも顔を見て頬を染める様子の欠片もないことも一つの理由だ。


「何故木の陰に隠れて魔術をやっていたの?」
「えんちょうがまじゅつはつかいかたをまちがえるとこわいって。でもわたしはちゃんとしたつかいかたしてるけど、みつかったらおこられるから」


拙い話し方なのにちゃんと自分の意見を言えることも好ましい。


「君が興味あるのは治療魔術と薬だよね?」
「うん」
「なら私と一緒に王都に来るかい?」


その言葉に少女は本から目を離しガブリアルノに向けた。


「なんかいいことあるの?」
「うん。私が後見人として君を引き取って魔術師になれるように応援するよ」
「わたしなにもできないよ」
「魔術と薬の仕事をしてみたいんだろう?」
「うん」
「それならできることあるじゃない」


そう言うと、少女の瞳が開く。


「わたしまじゅつしになれるの?」
「それは君次第。沢山学んで頑張れば可能性はある」
「がんばる」
「うん。君の名前を教えてくれるかい?」
「すーらん」



これがスーランとの出逢いだった。



ガブリアルノはその足ですぐに苑長に直談判した。苑長からは「…承知しました。…世話を焼いてあげないと難しい子ですが…」と言いながらもちょっと残念そうな表情をした理由は後にガブリアルノ始め皆が知ることとなる。

そして慰問に同行していた当時騎士隊一部隊隊長だったベイガーにその趣旨を伝えると「はあ。ガブの気紛れ発動か」と苦笑していたが、ガブリアルノの気紛れは大抵成就するものが殆どである。

そのままスーランを連れて帰ることに決め、護衛の一人に早馬役を担ってもらい、直ぐ様王宮と魔術隊施設の寮に言伝を頼んだ。


「おおきなばしゃ」
「うん。魔術師として活躍して偉くなったら自分でも持てるようになるよ」
「いらない。めんどくさそう」


どうやら身分や物にも興味がなさそうだ。ガブリアルノは今までに見ない人材にわくわくしあれこれと質問を聞いていく。

それはそれは面倒そうに答えていたスーランだが、そのうち半分の目が全部閉じられ口から涎を垂らしながら眠り始めた。王太子である自分の目の前で飽きて眠られたのも初めてだった。




王宮に到着した時にはある程度の準備は整っていて、あちこちからまた王太子の気紛れだと言われたが、特に何の反対もなかった。

皆ガブリアルノの性質を良く知っていた。

まだ十歳で試験を受けられるまで五年以上はあるので特例で寮に入れさせ、衣食住を完備した。

初めこそ寮長は「王太子様の気紛れにも困りましたねぇ」と苦笑していたが、数週間後に訪れた際には「あの子は私らが世話しないとね!」と何故か前向きに変わっていた。

孤児苑とは違い景色も華やかで人も桁違いなのにも関わらず、ぐるりと周りを見たスーランはすぐに興味を失う。

元魔術師だった寮長には魔術の本や薬草や精製の本、今後過ごしていくにあたって必要な本を準備させ、ある程度の権限を与えひと月毎の報告を義務付けた。





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